特別レポート
上海、反日デモ
山口 眼
| 「上海に限って」 | 「窓ガラスがない」後から来る恐怖 |
| 「この先、どうやって中国人と付き合っていったら良いのか」|
ネットで出回ったデモの開催情報には、えげつないスローガンは止めるように、という注意とともに「小泉の写真は持っていこう」という呼びかけが入っていた。
 
 教科書問題、さらに国連の常任理事国問題等が重なり、これまでにないほどの反日行動が繰り広げられている中国。特に4月16日には、中国で最も日本人が多く在住する上海で、参加者6万人とも言われる大規模デモが行われた。このデモは、参加者が暴徒化しデモの目的地となった日本領事館、さらに日本料理店や日系コンビニが襲われ、中国に滞在する日本人のみならず、外国に暮らす全ての日本人にとって、非常に大きなショックを与えるものとなった。アジアでは決してさけて通れない「反日」問題。人々の気持ちが何かのきっかけで一歩エスカレートした結果どんなことが起こったのか、またそれに対する地元や在住日本人の対応はどうなのか──。上海に住む一人の日本人の目から今回の反日デモ問題をレポートする。
 
◆「上海に限って」◆
朝9時に人民広場を出発したデモ隊は、上海を東西に走る延安路を通り、日本領事館まで約6キロの道のりを行進した。
 4月から北京、深せん、広州など、中国の多くの主要都市で週末ごとにかなり大規模な反日デモが行われてきた。
 それにもかかわらず、当初は私を含め、多くの在上海日本人、そして上海人も「まさか、この上海に限って、あるわけない」という一種の「自信」を持っていた。上海と言えば、いまや世界で最も注目を集める国際都市。中国政府も大規模な抗議行動を許すはずがない──。「でも、上海は安全ですよ」これが、在住日本人たちの日本からの連絡に対する答えだった。
 デモの前日に至っても、同僚の上海人は「ある訳ナイでしょ。そんなことしたら逮捕されちゃうよ」と言い切っていた。実際、デモ予定日の3日前には、「デモを行うには政府の許可が必要です」という携帯メールが、公安局の名前で無作為に送られた。
 また、デモ情報はインターネットや口コミで広がっていったのだが、そうしたコミュニティに属さないタクシーの運転手に聞くと、「デモ? なんだその話?」という反応がほとんどであった。
 
◆「窓ガラスがない」後から来る恐怖 ◆
「味蔵」:最も被害が激しかったといわれる日本料理店。暴徒が店内に侵入し、事務所の金庫まで持ち出そうとした。だが、まわりの武装警察は何もせず、結局店主が自分で地元警察に電話、すんでの所で事なきを得たという。
 だが、そうしたことに反して、デモは予定通り16日行われた。そして結果的にこれまで中国各地で行われたものよりも大規模、かつ深刻な被害をもたらすものとなってしまった。
 日本総領事館によると、上海で最も日本人が多く、今回のデモの主な被害地となった古北、虹橋地区では、約33軒の日系商店・飲食店が投石によるガラス、看板の破損などの被害にあった。
 実際、私自身がよく通っていた日本料屋もガラスが壊される被害にあった。先日行ってみたら店内は何事もなかったように営業している。ほっとした後、奥の部屋に入ったら、やたら涼しい。そのうち、メンバーの一人が叫んだ。「あれ?窓ガラスがない!」。
 現在、上海で暮らす日本人の生活は、表面上は通常に戻っていると言える。だが、こうした小さなことから、「恐怖」を感じざるを得なくなってしまった。
 
◆「この先、どうやって中国人と
           付き合っていったら良いのか」◆
日本領事館近くの群衆の横で、飼い主に連れられていた犬は、「小泉」にさせられ、大迷惑
 今まで例を見ないほどのものとなった今回の反日行動。上海人にとっても今回のような騒動が上海で起きたことはショックだったようだ。友人である20代の雑誌編集者の女性は「ネットで見ただけでも本当に、本当に怖かったよ」。また、日本製品の不買運動に参加している30代の男性は「デモ自体はいいけど、お店への攻撃とかは、よくないよね」と否定的に話す。
 ただ、一つ確実に言えるのが、反日感情のレベルが確実に高まったということだ。毎週一緒に食事するぐらいの「好朋友」(親友)から突然、「日本は今すぐ軍国主義を止めるべき」といわれた時には、反日感情の深刻さに、ただただ本当に驚いた。
 恐ろしいのが、こうした反日感情が決して暗いものとしてとらえられてはおらず、むしろ「楽しい」「おしゃれ」とされていることだ。隣の席の同僚から「ねえねえ、これ、日本企業の消費者電話センターリスト。電話すると、会社側は1回1元損するんだってー。早速やってみようよー」と言われた時には、さすがに腰が砕けそうになった。
 インターネットのチャットシステムである「MSN」では、多くの人々の名前(気分によって毎日名前を換え、メッセージを加える人が多い)に「抗日」という文字が入るようになった。30代の大手広告会社のクリエーティブ担当ディレクターの名前は「今、最もおしゃれなこと=反日」。これが、今の状態を示しているといえる。
 こうした、ライト感覚の中国人に対し、在住日本人は恐怖を感じている人が非常に多い。私の取引先の会社の総経理(社長)は「この先、どうやって中国人従業員と付き合っていったら良いのか、さっぱりわからなくなってしまった」と困惑している。
 上海では現在、公安が非常に警戒を強めており、24日に予定されていたデモも開催されなかった。今後はこうした動きも収束に向かうと思われるが、「安全」と思っていた上海で、こうした「反日暴動」が起こったという現実はけっして消えない。
 だからといって、このことで「中国は危ない」と簡単に言い切ってしまうのはあまりにおおざっぱだ。
 「この状況をどう考えたらいいのかわからない」──。私の唯一の日本人同僚である20代男性の言葉が、今の上海の状態を表している。
 
◆ 筆者紹介 ◆
山口 眼(やまぐちがん)
 上海在住1年半。広告会社勤務。日本人は2人のみの職場で、日々「アホなんじゃないの?」を口癖に奮闘中。
 
 
◆ 関連ニュース:閣議にて 日本政府の誠意を疑う声 2005年4月28日
 
 
 
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