第1回
Jaring の逆襲
鈴村 瞬
 ■マレーシア最初のISP
 インターネット接続業者をInternet Service Provider(ISP)という。マレーシア最大のISPはTM Netである。2004年12月11日のローカル英字新聞「The Star」によると、ダイヤルアップ接続で200万人、ブロードバンド接続では27万人の利用者がいるそうだ。
 ところで、小生、インターネットとの出会いは当地マレーシア。かれこれ10年ほど前のことである。ISPはJaringだった。その理由は、当時マレーシアにはISPはJaringしかなかったのである。
 
 ■マレーシアと日本のインターネット環境の変遷
 当時のマレーシアは、インターネットは日本より快適だった。一つに、電話の通話料が日本に比べ格安だった。二つに、ISPに支払う接続料も安かった。三つに、電話回線の品質がおおむね良く安定していた。
 しかし情況は一変する。その後日本では一般家庭においてISDNが普及、直後にADSLが一般的となりブロードバンドが定着。現在は光ファイバー(FTTH)の利用が急速に拡大している。ADSL、FTTHともに接続料金は日本の物価を考えると破格である。
 日本に遅れつつ、マレーシアでも個人向けブロードバンドサービスが開始される。TM NetのADSLサービス、Streamyxである。日馬プレスの読者の中にもStreamyxを利用している人は少なくないだろう。TM Netは名前から明らかだが、Telekom Malaysiaが親会社である。それゆえ電話回線に強い。ADSLは既存のアナログ電話回線を利用するため、TM Netはそのようなバックボーンを持たないJaringよりも圧倒的に有利であった。結局、Jaringはブロードバンドで出遅れた。そうこうするうちにTM NetとJaringが合併するとアナウンスされる。正確にはTM NetによるJaringの吸収である。Jaringのブロードバンド事業が思うように進まないこともその一因であったようだ。しかしその吸収合併はご破算となる。Jaringは課題であったブロードバンドサービスを独自に開始することになったのである。
 
 ■Jaring新サービスを開始
 昨年12月Jaringのブロードバンドサービス、JARING Wireless Broadbandが公表された。当初私はJaringのブロードバンドサービスはTM Netとほぼ同じ内容になると予想していた。理由は、今までのダイヤルアップ接続サービスがTM NetとJaringでは値段を含めほとんど差がなかったからである。今回のブロードバンドもダイヤルアップ同様、両者似たようなものになると考えていた。ブロードバンドサービスの価格や内容よりも、まずはStreamyxに強力なライバルが現れ、市場メカニズムが健全に機能することを期待していた。ところがである。小生の予想は完全にはずれた。政府の行政指導のもとTM Netと仲良く同じようなサービスを提供すると思いきや、TM Netだけでなく、その親会社Telekom MalaysiaにまでJaringは挑戦状を叩きつけた(ように思えた)のである。一言でいうと「Jaringの逆襲」。そして年も改まった今月から、徐々にその詳細が、Jaringのウェブサイトにて明かにされはじめている。
 
 ■Jaring新サービスの特徴
 JARING Wireless Broadbandの特徴は基地局と家庭を無線でむすぶ無線ブロードバンド接続であることだ。同じ無線でも、いわゆるホットスポットとは異なる。ホットスポットではモデムとISPが有線で、モデムとパソコンは無線接続となるのが一般的である。それに対しJARING Wireless Broadbandではモデムに相当するwireless stationとISPが無線でつながる。このwireless stationにパソコンや電話機をつなぐことになる。JARING Wireless Broadbandは、すでにサービスが開始されているのだが、技術的詳細はJARINGのウェブサイトでは、はっきりしない。無線で利用する帯域として2.6 GHz帯を利用することぐらいである。
 しかし少し調べてみるとJaringがブロードバンドサービスを提供するにあたり、昨年七月米国のSOMA Networksと提携したことがわかった。このSOMA Networks、実は日本において無線ブロードバンド接続の試験的なサービスを行っている。NTTコミュニケーションズと組んで2003年石川県金沢市にて実験モニターを募集し、「WINQプロジェクト」と呼ばれる広域無線ブロードバンド接続方式の実証実験を開始していたのである。
 このプロジェクトの概要を調べてみると、今回Jaringが開始するブロードバンドサービスが見えてくる。金沢の実験システムの概要は以下の通りである。
[1] 無線方式:W-CDMA、2.6GHz帯
[2] データ接続インターフェース:10Base(RJ 45)×1ポートまたはUSB1.1×1ポート
[3] 音声接続インターフェース:RJ-11×2ポート
[4] 最大通信速度:5.12Mbps(下り)、319kbps(上り)
[5] 基地局カバレッジ:ほぼ金沢市の全域
 最大通信速度は異なるが、インターフェースや無線帯域などはJaringのものとほぼ同じ。基地局あたりのカバーエリアに差はない。要するに、Jaringの無線ブロードバンドは今、雪が深々降り積もる金沢において粛々と検証をおこなっているサービスとほぼ同等のものと推測できる。
 上述のW-CDMAはNTTドコモの第3世代携帯電話「FOMA」が採用している通信方式でもある。今年になって日本のイー・アクセスがW-CDMAによる次世代モバイル通信において、2GHz帯を利用する通信実証実験を今月中に実施すると発表したばかり。いずれにせよJaring Wireless Broadbandは日本ではまだ検証段階にある技術を大胆に先取りしたものと見て相違ないだろう。個人的には、日本に先んじ、このような実験的な色彩の濃いサービスの事業化にあえて踏切ったJaringには、快哉を叫びたいところである。
 それはそうと、Klang Valleyで無線ブロードバンド接続を提供しているのは実はJaringだけではない。Time dotComが「webbit」そしてMaxisが「Maxis Wireless Broadband」という無線ブロードバンドサービスを行っている。ただしJaringの方がすっとカバーエリアが広い。またJARING Wireless BroadbandはIP電話サービスも含んでいる点が他と異なる。
 
 ■Streamyx、Jaringどちらを選択するか?
 Klang Valleyに住んでいる場合、ブロードバンド接続では主に二つの選択肢がある。StreamyxとJARING wireless broadbandである。さて、マレーシアでこれからブロードバンドをはじめるならばどちらにするべきか? あるいは、今すぐStreamyxからJaringに切りかえるべきか?
 小生は、新しもの好き、ことコンピューターについては人柱になることをいとわない。別表を参考にしていただきたいが、これぐらいの価格設定であれば申し込むことにやぶさかではない。しかし残念なことに今のところ小生の地元PJはサービスエリアになっていないのである。それでは、他人に安心して勧められるかというと、ためらいがないこともない。
 再び別表を参照していただきたいが、JARING Wireless BroadbandはIP電話サービスを含む分、streamyxよりは少し費用が高い。くわえてJaringの提供する無線ブロードバンドがどれだけ信頼できる技術なのかまだわからない。少なくとも無線ブロードバンドはADSLに比べ技術的にまだ枯れていない。無線だけに天候の影響を受け易い可能性もある。周辺機器もADSLの方が、安価かつ豊富である。そもそも自宅でインターネットが使えるのであれば、その途中が無線であることに必然性を感じる人はそれほど多くはないだろう。
 ただしJARING Wireless Broadbandは様々な可能性を含んでいることも確かである。どこからでもコンピュータを利用できる環境、いわゆるユビキタス・コンピューティングは、streamyxよりJARING Wireless Broadbandのようなネットワークと相性がいいに違いない。また、カメラが銀塩からデジタルに急激に変化しているように、アナログ電話からIP電話への移行も避けられないことと思う。
 現状JARING Wireless Broadbandは、大いに期待しつつ、しばらくは様子を見るというのが妥当なところであろう。
 
 ■用語解説
 ※ADSL (読み方:エーディーエスエル、フルスペル:Asymmetric Digital Subscriber Line)
 電話の音声を伝えるのには使わない高い周波数帯を使ってデータ通信を行なう技術をDSLと呼ぶが、ADSLはこのDSLの一種である。ダウンロードとアップロードの速度が異なる、すなわち非対称(asymmetric)であるためAsymmetric DSL(ADSL)と呼ぶ。非対称があるのだから対称(symmetric)であるのも当然存在し、それはSDSLと呼ぶ。その他にもDSLの派生技術は色々あり、それらをまとめてxDSLと呼ぶ。
 ADSLが利用する周波数帯は電気信号の劣化が激しく、また回線の品質に影響を受けやすい。すなわちADSLは電話線の長さや品質に左右される。利用者にとっては「当たりはずれの大きい」サービスといえる。
 
 ■補足
 これはAztechのADSLモデムDSL600E。最近ショップの店頭でやたらと目にする。PPPoE対応。お値段はRM160ぐらい。「Aztech DSL600E also provides future proof functionality with higher data transmission rates with ADSL2, ADSL2+, Extended Reach-ADSL support」ということなので、現状の1Mbpsよりも高速な通信にも対応するらしい。ということは、今年あたりStreamyxはもっとはやくなるということ?
 ネットワーク機器は、Aztech、D-Link、NETGEARがマレーシアでの御三家。NETGEARのHUBをその昔秋葉原で買ったっけ。それはいいとして、最近、日本のPCIの製品が目につくようになっきた。店員にとにかく安いのといったら、一押しだったのがこのPCIのルーター。お値段はRM129ぐらい。安いだけでなく、小生が調べた限り、マレーシアで売っているルーターの中では最軽量。日本製だが、ウェブから設定するときは、中国語だったりする。
 
     
 
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