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第12回
「秋葉原、飛んで火に入る夏の虫」 |
| 鈴村 瞬 |
先日、日本に一週間ほど帰国した。関東と東北に滞在したが、梅雨の湿気と夏の暑さが同時に来たような、ものすごい天気だった。とくに、六月の観測史上最高の暑さを記録した二十九日は、とんでもなかった。鎌倉、藤沢、秋葉原、浜松町と広範囲に動きまわったのだが、どこも、照りつける日光と、地面からせりあがってくる熱気で、道行く人の顔は紅潮していた。屋外に駐車している乗用車も、マレーシア同様、さわればヤケドしそうなほど熱くなっていた。そうなると、ノドがかわく。コンビニで飲物をさがすことになるのだが、陳列棚をみると、酎ハイとジュースの値段があまり変わらない。マレーシアでは酎ハイなんぞめったに飲むことはできないので、ここぞとばかり酒の方に手が伸びる。猛暑と疲労、それに加えて、酒の酔いで、フラフラだった。しまいには、浜松町で銭湯を発見し、思わず一風呂浴びてしまった。
秋葉原では、玄人志向から出ている「玄箱/HG」を購入した。LAN接続ハードディスクをNAS(Network Attached
Storage)というが、これはその組立キットである。マレーシアではUSBやFireWireでパソコンと接続するHDケースはいくらでも売っているが、NASのベアボーンキットは見たことがない。だから、ずっとほしかった。一度は、日本に注文して送ってもらうことも考えたが(たとえばツクモ電機は海外発送もOKなのだ)、そこまでして買う必然性もないので、がまんしていた。現に、古いノートブックコンピューターにLinuxをインストールし、ファイルサーバーにしている。ということで、日本に帰国したら、自分へのおみやげとして買うことにし、それを自分に言いきかせ、物欲を押さえていた。
玄箱はハードディスクがついてこないので、自分で用意しなければならない。マレーシアに戻ってからとも考えたが、日本のほうがすこし安いので、一緒にハードディスクも購入した。買ったのは、Maxtor
DiamondMax 10の160GB。高速かつ大容量、しかも静穏。すばらしい。しかもこれで一万円しない。このところ円も安いし、いたって満足していた。
日本とマレーシアの物価を比べると、おおむねマレーシアの方が安いのだが、時に例外もある。その中のひとつがパソコン関連製品。とくに中古のノートブックコンピューターだ。KLやPJでは最近、中古専門のパソコンショップが増えている。特にノートブックの店が多い。そこでは日本製のノートブックも見かけるのだが、性能のわりには値段が高い。加えて、PCカードなど小物の中古品も売っているが、値がはる。その点日本は豊富で安い。秋葉原を歩いていると、中古ノートブックそして中古周辺機器をあつかう店が掃いて捨てるほどあるが、その豊富な種類と手頃な値段には感動してしまう。前回の一時帰国では、感動のあまり、秋葉原で衝動的に中古のノートパソコンを購入してしまった。あこがれのThink
Padであった。しかし、これが、故障していたのだ。OSを再インストールすると、途中でエラーが発生するのである。しかもそれがわかったのは、マレーシアに戻ってから。その後、TTDIのIBMタワーに行ったりもしたが、結局、修理費用が購入費用をこえてしまいそうなので、不本意ながら修理は断念、放置しておいた。あるとき、Low
Yat Plazaのとある中古屋で、中古ノートパソコンを買うときに、LCDはまだ使えるとか、日本語キーボードは珍しいぞとか、押しに押して、下取りしてもらった。それもあって、今回は日本でノートパソコンを購入する気はまったくなかった。
小生は、親指シフトノートパソコンがメインマシンだ。親指シフト入力は、左右の親指を最大限に活用する入力方法で、一部に根強い人気がある。ローマ字入力もできるが、これが一番リズムよくタイプできる。小生が愛用するB5の親指シフト「モバイル」ノートパソコンは、1999年10月に富士通から発売された。「FMV-BIBLO
MC2/40」の親指シフトキーボード・モデルである。その後、「FMV-BIBLO MC3/45」「FMV-BIBLO MC4/45」と発売されている。恥ずかしながら、魔がさして、「FMV-BIBLO
MC2/40」を一台、「FMV-BIBLO MC4/45」を二台所有している。一種の病気である。どれも新品で購入したので当時20万円をこえた。実はそのうち二台が故障してしまい、日本に修理に出していた。今回の一時帰国は、それをマレーシアに持ちかえることも大事な用事の一つであった。
秋葉原は自分にとっては危険な街で、油断するとすぐに散財してしまう。とくにマレーシアに住むようになってからは、一時帰国のたびに、きまって一番無駄遣いしてしまう場所である。したがって、今回は買うべきものは買ってしまったので、もうこれ以上、秋葉原には立寄りたくなかった。そうだったのだが、マレーシアにもどる前日、日馬プレスの重鎮に頼まれたマニアックなジャズのCDを探すため、渋谷、新宿とうろついているうちに、フラフラと秋葉原まで足をのばしてしまった。
というのは、中央線に乗っているときに、ローカルの友人に携帯のストラップを買ってあげたら喜ぶだろうなと、ふと思ったのだ。だったら秋葉原だ、しかも新宿から東京に行くのだから理にかなっている、そう考えはじめた。また一方、秋葉原は今回はまだ一回だけじゃん、一回だとたりないじゃん、などと悪魔の囁きまで聞えてくる。結局、お茶の水のアナウンスを聞くと、発作的に下車。すぐに総武線が来てしまい、これは秋葉原に行きなさいという天の思し召しと観念し、思わずのりかえた。しかしながら、玄箱で十分満足しているし、前回の買物で失敗しているし、今度こそ「飛んで火に入る夏の虫」にならない自信はあった。
フラリと入った中古ノートブック屋で、ThinkPadをながめていた。物欲はおこらない。よし、大丈夫だ、と思った。すると、ふと、見慣れたノートブックが目に入った。富士通の「FMV-BIBLO
MC4/45」である。すぐにキーボードに目をうつす。親指シフトキーボードではないか。次に値段である。29517円。や、やすい。昔、先立つものがないのに、ローンを組んで無理矢理購入した記憶が、さっと脳裏をかすめる。しかも、見た目がかなり新しい。店員に足下を見られないように、あくまでもそっけなく、品物を手にとって見てもいいか尋ねる。裏側を見ても使用感がほとんどない。ネジがぬけているところも見あたらない。前の所有者はあまり使っていなかったとみえる。実際に起動してもらい、基本動作を確認し、LCDのドットぬけを調べ、付属品も見せてもらう。すべて完璧であった。店員によると、買手がなくて、最近値段を下げたばかりとのこと。なんたる偶然。いや、これは意味のある偶然かもしれぬ。いわゆるシンクロニシティーではなかろうか。そうか、オレはコレを買う運命だったのかと、思うや否や、ニコッと笑って「これください」と言ってしまった。悲しいかな今回も、飛んで火にいる夏の虫。それにしても、マニアックな欲望にはマニアックな品物でこたえる秋葉原、あな恐るべし。 |
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