特別寄稿
マレーシアリンギット為替制度変更
今回は特別に、三井住友銀行ラブアン支店で日系課長を勤める松田和也氏に、先日の為替制度変更について解説をお願いした。(編集部)
【はじめに】
 リンギットの、為替制度が変更されました。為替が苦手という方も、1 米ドルが3.8リンギットであったということは、ご存知ですよね。これまで、マレーシアは自分の国の通貨であるリンギットを、アメリカの通貨である米ドルに固定させていました。これを「米ドルPEG制」と言います。ちなみにPEGというのは釘のことで、為替レートを釘で留めたように固定させるという意味から、固定相場制のことを、しばしばPEG制と呼びます。ところが、先月7月21日の夜遅くになって、急にバンクネガラ(マレーシア中央銀行)が、これまでの「米ドルPEG制」を止めて、「管理変動相場制」へ移行するという、為替制度変更を発表しました。本欄では、今回の為替制度変更とその影響について、簡単に解説してみたいと思います。
 
【為替制度変更の背景】
 さて、「米ドルPEG制」が、始まったのは1998年の9月ですから、この制度は約7年間続いたことになります。固定相場にする理由は色々とありますが、大きな目的の一つは急激な為替相場の変動によって経済が混乱するのを防ぐことです。しかし、マレーシアの経済成長等によって、本来ならば、リンギットの価値が上がるべき場合でも、あるいは、アメリカの貿易赤字が増える等で、米ドルの価値が下がるべき場合でも「米ドルPEG制」を取っている限りは、リンギットと米ドルの相対的価値は変わりません。そうこうしているうちに、リンギットは米ドルに対して必要以上に安いのではないかと言われるようになってきました。そして最近では、リンギットの価値が(米ドルに対して)上がるのは時間の問題だとも言われており、マレーシア社会でも話題になっていました。
 
【人民元との関連】
 中国の通貨である人民元を思い出して下さい。人民元は事実上「米ドルPEG制」を取っていましたが、アメリカは中国に対し、さかんに人民元を切り上げる(価値を上げる)よう要請していました。人民元が実際の価値よりも低く見積もられれば、見積もられるほど、中国からアメリカに対する輸出が増え、アメリカの貿易赤字は増え続けます。そこで、アメリカは人民元の相場を適正なものにするべきだと主張していたのです。ところで、これはリンギットに対しても同じことが言えます。大きく異なるのは、マレーシアの貿易の量が小さくて、対アメリカ等、外国への影響が小さいことです。つまりマレーシアは中国に比べて、外国(特にアメリカ)からの圧力が小さく、その為リンギットは、いずれ切り上がるだろうが、それは人民元が切り上がった後だろうと言われていました。
 
【管理変動相場制】
 果たして、人民元の切り上げが発表された直後に、リンギットの切り上げが発表されました。より正確に言えば、「管理変動相場制」への変更が、発表され、結果としてリンギットの価値が上昇しました。ところで、マレーシア政府が採った「管理変動相場制」とは、どのようなものなのでしょうか。特徴は2つあります。一つ目は単なる変動相場制ではなく、「管理変動相場制」であるということです。変動相場制においては、為替相場の動きは市場が決めますが、「管理変動相場制」においては、一定のルールに基づき、政府が市場に介入し、為替相場を管理します。2つ目はそのルールに「通貨バスケット制」を採用していることです。これは、マレーシアに関連のある通貨を選び、それを平均することで、為替相場を決めるというものです。また、単純に平均するのではなく、マレーシアとそれぞれの通貨を使う国との貿易の量で調整します。これは、マレーシアにとって影響の大きい国の通貨を、より為替相場に反映させるべきだという発想から来ています。
 
【為替制度変更の影響】
 さて、今回の為替制度変更により、どのような影響があるのでしょうか。今の所、事前の予測通り、リンギットが米ドルに対して高くなっており、しばらくは、このトレンドは変わらないでしょう。となると、日系企業への影響が考えられます。マレーシアに進出している日系企業の多くは輸出企業ですが、海外との決済は米ドルで行うことが多くなっています。リンギットが高くなると、そういった輸出企業が受け取るリンギットが、それまでより少なくなります。これまでは、10万米ドルの商品を海外に売れば、1米ドルが3.8リンギットでしたから、38万リンギットが手に入りました。ところが、例えば、1米ドルが3.5リンギットになったとすると、35万リンギットしか手に入りません。このままでは輸出企業の利益は減少し、場合によっては赤字になるかも知れません。これでは、今後日系企業がマレーシアへの進出を躊躇するということもあるでしょう。一方で、マレーシアで暮らす皆さんにとっては、いいこともあります。リンギットが高くなったということは、皆さんが持っているリンギットの価値が上がったということです。但し、注意しなければいけないのは、価値が上がったのは、飽くまでも米ドルに対してだということです。つまり、せっかくリンギットが高くなっても、それ以上に米ドルが日本円に対して安くなったら、日本円に換算した場合の価値は、結局下がることになります。もう一つ重要な点は、リンギットがこれからも上がり続けるという保証はどこにもないということです。将来、リンギットの価値が下がる可能性があるということも考えておく必要があります。何れにしても、今後のリンギットの動向からは目が離せません。
<三井住友銀行 ラブアン支店 日系課長 松田和也>
 
     
 
 
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