盧大統領と胡主席に、
小泉首相からの贈り物
 大方の予想通り、8月15日午前7時41分、小泉純一郎首相が靖国神社を参拝した。「内閣総理大臣小泉純一郎」と記帳し、献花料の3万円は私費、参拝方式は「一礼」だった。01年の自民党総裁選での公約を果たした。
 首相は「8月15日を避けても批判、反発は変わらない。いつ行っても同じだ。ならば、今日は適切な日ではないか。戦没者の追悼式典も行われる。千鳥ガ淵の損物社墓苑にもお参りする」と述べた。参拝の立場は「総理大臣である人間・小泉純一郎が参拝している。職務として参拝しているのではない」と述べた。
 この首相はいつもこうした詭弁を弄する。「8月15日を避けても批判、反発は変わらない」と言うなら、これまで首相在任中の靖国参拝を総裁選公約とは異なる日に、突如参拝してきたのはどうしてだろう。当然、考えられるのは、9月で首相を辞めるから、どんな外交上の障害になっても、後任首相の問題になると考えての、「辞めた後はどうにでもなれ。俺の知ったことじゃない」という心境なのだろう。
 「総理大臣である人間・小泉純一郎が参拝している。職務として参拝しているのではない」というのもおかしい。実質的に首相を選ぶ総裁選の公約に掲げておいて、憲法で思想信条の自由が保障されていることを盾に「人間・小泉純一郎が参拝している」という論法と、宗教法人である靖国神社に参拝し、内閣総理大臣と記帳したことの「政教分離」との矛盾が理解不能だ。
 憲法には個人の人間としての権利と義務が記されている。憲法の保証する「自由」とは、他人、他国の権利や自由を踏みにじらないということが前提になっている。もし、日本国民のある集団が、思想的政治的目的を持って航空機を爆発させ、大量殺人をする計画の準備を進めていたら、そして、それを事前に察知することができたら、公安警察は躊躇することなくこの集団の全員と背後にいる人々を一斉に検挙するだろう。「計画するのは自由だ」、「思想的政治的な発想は自由だ」「心の問題だ」という憲法論もあるが、多くの人々の生命や財産を危機に陥らせようとする思考は、準備段階で犯罪を構成する。オウム真理教事件以来、定着した解釈だ。
 総理大臣には、一個人として権利を言う前に総理大臣としての義務やマナーが要求される。総理大臣の思想信条や発言、行動の一つ一つが日本という国の運命を左右するからだ。すべてが一般人と等しく自由であるわけがない。「総理大臣も一人の人間だから」というのは詭弁でしかない。

 小泉首相が8月15日に靖国を参拝して、もっともその恩恵を受けたのはレームダック(死に体)と言われ、北朝鮮のミサイル問題で国民の支持を著しく失った盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領だろう。歴史だとか、竹島領有問題とか、事あるごとに日本を叩いて漢国民の民族意識を煽っては支持をつなぎとめてきた。だから、今回も必死になって、日本の軍国主義化、右傾化を非難し、歴史問題を韓国の主張する方向に向けようとするだろう。
 ただ、このやり方がいつまでつづくとも思えない。毎年繰り返されてきたことであり、盧武鉉大統領の主張もいつもと同じだ。韓国自身にとって、とくに順調な経済的発展をのぞんている国民の目には、景気を停滞させ、北朝鮮問題でも失敗した政権の末期をしらけた目で見つめる人の方が多いだろう。韓国民は大統領が考えているほど愚かではない。日本の首相の愚かなスタンドプレーを見る目と同じくらい冷ややかな目で自国の大統領を見つめているだろう。清廉潔白に見えた彼に期待して大統領に選んでしまった自身を恥じているに違いない。すくいようのない日本の首相に拍手喝采を送る日本国民よりはましな人たちがいる。
 同じことは中国の胡錦涛総書記にもいえる。共産党幹部や地方行政の役人たちによる不正などへの国民の怒り、経済開発に伴う所得や生活レベル格差の増大、多発する安全システムのない鉱山などでの事故や自然災害で数多くの死傷者をだしている。また、水やエネルギー不足、公害や自然災害。確実に大多数の中国国民の不平不満が鬱積している。小泉首相の靖国参拝は、そうした不平不満からしばらくの間、目をそらしてくれる。中国では、たとえ国民に怒りや不平、不安があったとしても個人の意見や意思にはならない。国の意思、国の思想以外のものを個人が保有できるほど自由ではないし、社会的な知恵は未熟だ。怒り、不平、不安すらも共産党政府のマインドコントロール化にあるように思える。
 ただ、08年の北京オリンピックを抱え国際社会の目を気にし、近隣諸国との経済的に親密な関係を保ちたい中国では、国民を必要以上に反日的にしてしまったり、ナショナリズムを揚させてしまうのはオリンピック開催の大きな障害となる。だから、胡錦涛総書記は敢て表立った批判はしないだろうし、むしろ、国民の反日感情の高まりを抑えて、成熟した政治家を演技するだろう。放っておいても、国民の目は日本に、小泉首相に向かうのだから。

 小泉首相にとっては、韓国と中国が反発してくれればくれるほど「思う壷」なのだろう。退陣を前に支持率を向上させて花道を飾ることができる。旧態以前だった政界と官界の改革を成し遂げた首相という肩書きを背負って退陣するのは、きわめて満足なことだろう。ただし、中国政府も韓国国民もそれほど愚かではない。形式的な批判はするにしても、過激なことはしないだろう。
 小泉内閣が終われば、99%の確率で注目度を失い、下手をすれば批判の矢面に立たされる内閣の目玉であり、首相の秘蔵っ子でもあった竹中平蔵郵政民営化担当大臣はどうなるのだろう。たぶん、この政局で貧乏籤を引くのは次期総裁だろう。総裁選からさっと身を引いた福田康夫前官房長官がほくそ笑んでいる。そんな気がする。

 
     
 
 
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