警視庁公安部は8月25日、三次元測定器製造に代表される精密測定器メーカーの「ミツトヨ」(本社:川崎市)の製造した測定器が、国際原子力機関(IAEA)が03年12月からシリアで行った核査察で、核兵器研究施設で発見され、また、同社の精密測定機器が核問題で追求されているイランに輸出されたことが判明したとして、「ミツトヨ」社長の手塚和作容疑者(67)、副会長の高辻乗雄容疑者(71)、常務の筑後英世容疑者(66)など5人を外国為替法違反(無許可輸出)の容疑で逮捕した。また、同社本社と輸出を仲介したとされる商社「盛案」(本社:東京都渋谷区)を家宅捜索した。
警視庁公安部は今年2月、無許可で中国などに測定器を輸出した容疑で家宅捜索を進めており、その後に、97年と02年にイランに測定器と作動用ソフトウエアを輸出していたことが判明した。
「ミツトヨ」は1934年に設立された精密測定器メーカーで、世界のシェアの50%を占め、04年の売上高は948億円。欧米やアジアに47社の関連会社をもつ。シンガポール(ミツトヨ・アジア・パシフィック社)、マレーシア(ミツトヨ・マレーシア社)にもある。また、「盛案」はイラン国防軍需省など軍関係を主要な顧客と
「ミツトヨ」の高辻容疑者等は、01年10月と11月にシンガポールの子会社に2台の三次元測定器を輸出、さらにマレーシアの孫会社を通じてマレーシアの精密機器企業のスコミ・プレシジョン・エンジニアリング(SCOPE)社に納入した。「ミツトヨ」のマレーシア法人は事前にSCOPE社の関連会社に「核の闇市場」として知られるカーン博士の右腕と呼ばれているスリランカ人男性が役員だったことを把握していた。発注元はSCOPE社だったが、「ミツトヨ」が子会社と孫会社を迂回して輸出していつことから、「核の闇市場」の存在を意識した上で、取締りの盲点を突こうとしたものとみられている。
警視庁公安部は84年から92年にかけて核兵器製造に転用可能な三次元測定器をイランの革命防衛隊や国防軍需省に多数輸出していたことをつきとめている。「ミツトヨ」は2002年に導入された「キャッチオール規制」によって戦略物資だけでなく民生汎用品も規制するようになったことから、自社製品の輸出が減少することを恐れて抜け道を模索していたようだ。
28日の報道では、「ミツトヨ・マレーシア社」はSCOPE社に対して最初の2台を輸出した際に据え付け工事に自社の技術者を送り技術指導し、SCOPE社はその様子をビデオに収めていたという。外為法では「役務(技術など)の提供」も許可が必要になる。公安部はSCOPE社の撮ったビデオはリビアに流出したものと見ている。
また、「ミツトヨ」は核兵器開発に転用可能な三次元測定器を不正に輸出する際に、「ジオパック」という名の関連ソフトウエアも無許可で輸出していた事が27日の、公安部の捜査で判明している。
偽装ソフトに「COCOM(ココム)」と命名した自信
「ミツトヨ」は外為法の規制を逃れるため、測定器に「COCOM(ココム)」と呼ばれるソフトウエアを組み込んで、輸出基準以下の低性能と偽装していた。自己申告制の許可申請を逆手に取って、偽装工作は93年頃からはじめられていたと見られている。
偽装ソフトを組込んだ測定器は95年から販売され、これまでに数千台から1万台以上が輸出されたといわれている。公安部は書類などから約3千台を調べ、その9割以上が不正輸出だった疑いが濃いとしている。2003年までは偽装が発覚せず、たまたま03年から04年のIAEAによるシリアの核査察で同社の測定器が見つかってしまった。「ミツトヨ」の社員は「リビアで見つかったのが不幸だった」と供述しているという。
「ミツトヨ」は92年にイランに向けて測定器を輸出しようと旧通産省に許可申請をしたが却下された。イランは国際査察で測定器などの民生品をNBC(核・生物・化学)兵器の開発に転用したことが発覚して、輸出管理が世界的に厳しくなった。バブルの崩壊と重なり、1992年3月に決算で同社は発の赤字を計上、業績の悪化に規制強化が追い討ちをかけ、同社の経営は危機的情況に陥った。
こうしたことが背景になり、海外への測定器の輸出が減少することを恐れた「ミツトヨ」は規制逃れのソフトを考案した。「ミツトヨ」はこのソフトに、かって輸出規制として業者が摘発されていた「対共産圏輸出調整委員会(略称COCOM)」の規制をCOCOM規制、COCOM違反とメディアで呼んでいた。「ミツトヨ」はこのソフトに「COCOM」と名付けていた。こうしたことからも「ミツトヨ」は「COCOM」の使用によって低性能に見せかける技術に絶対の自信をもち、規制をクリアできると確信していたものと見られている。
「ミツトヨ」の沼田智秀会長(74)は25日の記者会見で、社内検査の結果として「逮捕された5人に違法性の認識はなかったと考えている」と述べている。ということは、もし低性能に見せかけた自社の測定器が核兵器に転用される可能性のある国に輸出されることを知っていて違法性の認識がなかったというならば、政治的、宗教的な信念に基づいて行った確信犯ということになる。あるいは、愛社精神によって自社の収益を上げるためにした商行為であって、悪意はなかったとでも言うのだろうか。
「仏教伝道活動援助」と「死の商人」という二つの顔
「ミツトヨ」は精密測定器メーカーとしてだけではなく、仏教の伝道活動にも積極的な資金的援助を行っている。同社のホームページには「1991年12月に、ミツトヨが日本企業として初めてユネスコの関係組織『IIPP』から国際精密工業賞を\受賞しましたが、その受賞理由の一つが“産業活動のみならず、仏教伝道活動の基金創出で世界平和と人類の繁栄に貢献していること”があげられました。」と書いてある。世界平和と人類の繁栄に貢献していることを誇示しながら、自社の利益のために、世界を危機に陥れ、人類を破滅に導こうとしている国家や闇市場の死の商人たちと結託しているとしたら、まさに神を欺く所業ということになる。
容疑が事実であるなら、「ミツトヨ」の役員、社員はもう一度ホームページにある「企業理念」をつぶさに読むべきだろう。「精密測定で社会に貢献する」とコーポレートスローガンに「良い環境、良い人間、良い技術」を社是とする企業が、実体は「死の商人」だったというのでは、笑い話にもならない。 |