週刊ポストに“夢の海外移住「話が違う!」”
「いいことばかり」を伝えている人たち。
いいことばかりを信じる人たち
 週刊ポストの9月1日号に“夢の海外移住「話が違う!」”というタイトルで第1回マレーシア編が掲載された。ジャーナリストの出井康博氏が取材したものだ。
 大見出しの下には、*「月10万円で快適な生活」のシビアな明細*現地の言葉ができなければ「異文化交流」は不可能*熟年夫婦にとって独特の香りと油っこい料理は難敵*「ああだまされた」あとの祭りの「日本人価格」*「とにかく先に金払え」の病院と急増する犯罪、とならんでいる。
 よく読むと、「ちょっとピントが狂っているな」ということも書いてあるが、「そうだよな」と納得するような話が多い。
 マレーシアは退職後の第二の人生をたのしむ「ロングスティ」の目的地とすれば、一番人気のオーストラリアに次いで第2位。日本からさほど遠くはない。物価が安い。治安がいい。などなどで人気が高い。おもしろいのは、日本のテレビも、日本で発行されるロングスティ関係の本も、内容はいいことばかりだ。
 いいことばかりの情報を信じてマレーシアにやってきて、思い通りにならないことがあったり、ちょっとしたトラブルに巻き込まれたり、病気や危険事故に巻き込まれたりしたら、この人たちのマレーシアのイメージはマイナスにまで落ち込んでしまう。「こういうこともある」という情報をもっていれば、思わしくないことがあっても比較的冷静に対応できる。ダメージを最小限に食い止めることができる。ネガティブな情報が、逆にプラスの結論を導いてくれることもある。
 マレーシアだけではない。日本にいても、世界中どこにいても、「いいことばかり」ということはない。まして、民族、宗教、文化、習慣、歴史、生活レベル、食生活、ありとあらゆることは日本とは異なる外国で生活すれば、「おやっ?」と思うことが多いのが当然だ。マレーシアはいい国だ。でも、いいこともあれば、悪いこともある。いろんなことがあって生活のアクセントになる。だから、たのしいのだ。50年、60年と人生の年輪を重ねてきた御仁が、「いいことばかり」の情報を鵜呑みにしてしまうのは理解に苦しむ。

「海外では自分の身は自分で守る」という常識

 記事はまず“真っ昼間の「引ったくり強盗」ではじまる。「引ったくり」は日本でもふえつつあるが、マレーシアでは比較的身近な人、ことごとくは女性だが、被害にあったという話をよく聞く。「引ったくり」犯に狙われやすいのは歩きながら携帯電話に夢中になったり、同行の人との話に夢中になっている人、自分だけは「引ったくり」に襲われるわけがないと信じて無警戒に歩いている人などだ。銀行のATMから現金を引き出して、機械の前で数えている人は一番の狙い目だ。犯人たちはスキのある、金のありそうな人を選んで狙う、「引ったくり」が多いことを自覚していれば、事件に遭う確率は減る。「平和と安全は政府が保証してくれる」という日本のような国は例外だ。最近では、日本でも犯罪に被害にあっていても、埼玉県警や栃木県警のように知らぬふりをされてしまうことが多いのだから要注意だ。それでも、「海外では自分の身は自分で守る」とのことを忘れてはいけない。
 「引ったくり」に遭って大ケガをした女性が、前金を払わなければ、治療を受けられないと聞いてショックを受けたとある。前金かクレジットカードをきる、所属企業が支払い保証書を書く。これは常識。病気やケガを負いやすい中高齢の人々には医療システムの情報は必要不可欠だ。こういう基本情報も伝えないロングスティ関係の団体や本を信じたのが、この人たちの敗因だろう。クアラルンプールのある大きな病院で2万リンギ近い治療費を踏み倒していった日本人の話を聞いたことがある。「病院も、日本までは追いかけてこないだろう」ということなのだろう。
 
「英語は必要ない、仲間が助けてくれる」という小さな社会で生活すれば

 奥さんが「引きこもり」になってしまったという話もある。英語の得意ではない人、外国人との付き合いが得意ではない人は必然的に日本人だけと付き合うようになる。それでも男性はゴルフなどで交友関係を広げていくことができる。女性の中には日本人会などで知り合った人々との世界で生活している人もいる。ごく限られた日本人社会でしか生活できない。ほんとうに狭い社会だけに、いったん人間関係がギクシャクすると逃げ場がなくなってしまう。日本にいれば、逃げ場はあちこちにある。海外で逃げ場を失ってしまったら、それは重い精神の負担になる。この種のノイローゼは駐在員の奥さんでもなる人もいる。日本人会は本来は駐在員とその家族のためにある。企業間の大小、上下関係、肩書き、様々なことが微妙に関わってくる。リタイアする前の仕事も同様だ。
 ある夫婦はクアラルンプールでコンドミニアムを購入した。住みはじめて、自分が購入した価格が相場より150万円高いことを知って驚いた。もっと高い値段で買った日本人もいたという。わたしは「日本人価格」でだまされたと悔しがっているロングスティの人たちを複数知っている。不動産業者や開発業者の窓口になったのが日本人だということも多い。もちろん、内装工事でも似たようなことがある。これだって、「広くて、きれいな高層コンドミニアムが(日本に較べて)格安で買うことができる」、マレーシアの人も日本人もみな親切で、親身になって相談に乗ってくれるという情報を信じた人々が犠牲者になる。「だまされた!」といっても、相場を調べず、工事の質を見きわめず、住みやすいロケーションかどうかも調べもせず、業者の言いなりになって契約した本人に問題がある。日本では不動産は「よく調べて、慎重に買う」、「石橋を叩きながら渡る」はずの人たちが、海外にでると、他人を疑うことを忘れてしまう。だまされたと思っても、これは詐欺でもなんでもない。物件を少しでも高額で売るのはブローカーの技量だし、少しでも安く買うのが買い手の技量だ。いやなら、サインしなければいいのだから簡単だ。
 「英語が話せなくても大丈夫。インターネットもいらない。困ったことがあったら、ロングスティの仲間たちがボランティアで助けてくれる。」などと甘くマレーシアでのロングスティを薦める人たちがいる。英語ができなくても身振り手振りでたいがいのことは用が足りる。でも、病気やケガ、事件や事故にあったときどうすればいいのか。そんな心構えもなく生活をたのしむことができるのだろうか。マレーシアの人々と親しくならないで生活して、なにが新しい人生なんだろう。ボランティアで助けてくれる人たちは責任をもって面倒を見てくれるのだろうか。最後には「わたしはボランティアでやっているんだから」でチョン。

やっぱり、50点、60点からスタートする方が

 10万円で夫婦二人がらくに生活できるという。マレーシアに2、3ヶ月以上すんでいる人なら「できなくはないけどねえ」と反応するはずだ。約3,300リンギで二人が生活する。朝、昼、晩と言葉の通じない地元の人々と一緒に屋台に毛が生えたような店で食事をするとか、タクシーにはなるべく乗らないで、バスかLRTなどを利用する。そうすればできなくはない。学生時代ならともかく、中高齢になってから夫婦でこういう生活は好ましいとはとても思えない。
 「6万円から生活できるって話も聞いたよ」と言われたことがある。「約2,000リンギでねえ。住宅費を入れなければ何とかなると思うけど、そんな惨めな生活をしてまでマレーシアに来るかな」と首を傾げた記憶がある。地元の人々と同じように外食ばかり、しかも、屋台でばかり食事をしていれば、栄養が偏り、成人病のリスクが増大する。引ったくりなどの危険に遭う確率も増大する。逆に費用がかさむ結果になる可能性が高い。それに肝心の日本人会にも入る余裕がない。
 いろいろあるが、「*熟年夫婦にとって独特の香りと油っこい料理は難敵」という記事には賛成しない。一種類の料理に偏った食生活をする必要はないのだ。多民族国家マレーシアには多種多様、日本の何倍ものすばらしい食文化がある。油っこくない料理、スパイシーではない料理もたくさんある。野菜が不足したら、スーパーで野菜を買ってきてサラダを作ればいいことだ。肉を食べ過ぎたら歩いたり走ったりすればいい。少なくとも食生活はマレーシアは最高に近いものがあると、わたしは信じている。
 それから、マレーシアの賄賂を受け取る交通警官のことが書いてあったが、警察官の犯罪を隠してしまう日本の警察だってろくなもんじゃない。インターネットで「警察官/不祥事」で検索すれば掃いて捨てるほどでてくる。50リンギですんでしまうマレーシアの方がずっと良心的だ。

 「いいことだけ」の情報を信じてくる人たちが多いことは確かだ。
マレーシアは夢の国、理想の国ではない。ふつうの国の中で一番いい方の国という印象だ。マレーシアでの生活をほんとうにたのしみたかったら、地元の人々との交流をもつことだ。英語を覚え、中国語を覚え、マレー語を覚え、一緒に笑い、よろこび、泣き、悔しがる。いいこともあれば悪いこともある。でも、新しい友人たちが支えてくれる。
 それ以前に、やはり、マレーシアで生活しようとするなら、マレーシアのことをもっともっとよく知ってからくることだ。社会のシステムの違いもある。
もっと大切なことは、初めて向き合うどんな社会でも企業でも、人間関係でも、最初に100点満点からスタートすれば、あとは減点法でどんどん減っていく。50点、60点がスタートラインならプラスになったりマイナスになったり、気がついたら70点以上だった。それがマレーシアだと思いませんか?日本が70点以上の国だったら、海外で暮らそうなんてことを考える人は少ないでしょう。

 「いいことばかり」の情報を流しているのは、自称ボランティア系の人が多い。

 
     
 
 
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