2月6日午後7時半頃、東京都板橋区の東武東上線ときわ台駅で、自殺しようとした39歳の女性を助けようとして、電車にはねられ重傷を負った警視庁板橋書の宮本邦彦巡査部長(53)に、多くの人々からの感謝の言葉や励ましの言葉が添えられた花束や千羽鶴、メッセージが送られていた。
開かずの踏み切りに近い交番に勤務して、子供やお年寄りに声をかけながら安全に気を配っていた「交番のおまわりさん」は、この人こそ町のことを思い、地域の人々とともに歩く警察官として地域住民の信頼を得ていた。産経新聞には目撃者談として「宮本さんはあきらめなかった、電車にはねられる前、ホーム下の避難スペースに女性を押し込もうとした。「最後まで女性だけを見て、微動だにしなかった。電車から逃げようとせず、正義感の強い人と思った」とかかれ、「女性は重傷を負ったものの、一命はとりとめた。」で結んでいる。
ふだんは警察や警察官の横暴や不祥事ばかりが目に付く警視庁のホームページにも感謝と激励のメールが続々と送られてきたという。「個人的な感謝の言葉は時折送られてくるが、これだけ感銘を受けたというメールが送られてくるのは初めてという。匿名の誹謗中傷が多い2チャンネルなどのプログにも「宮本巡査部長の勇気と正義感、使命感に感銘を受けた」という意見が相次いだ。
大勢の人々の祈りと願いは届かずに宮本巡査部長は2月13日に亡くなった。警視庁は殉職した宮本巡査部長を二階級特進して警部に、安倍晋三首相は「強い正義感で殉職した」として叙勲する意向を示した。
「美しい日本」を感じさせるカメラマンの関根さん
安倍首相の叙勲の意向は国民に向けた人気取りをして、凋落する一方の支持率を回復したいのではと勘ぐる向きもある。これは、2001年1月に新大久保駅構内でホームから線路に落ちた男性を助けようとして韓国人留学生イ・スヒョンさん(当時26歳)とカメラマンの関根史郎さん(当時47歳)の二人が命を落とした。第19回東京国際映画祭にイ・スヒョンさんの生き様を描いた日韓合作映画「あなたを忘れない」は上映され、これを見た安倍首相夫人の昭恵さんが自身のブログに「正義感にあふれる好青年が、自らの将来、恋人、家族、そして日本と韓国の関係に悩み、真剣に生き抜いた姿が伝わり、涙が止まらなかった」と書いて、この映画を反日的な韓国人の目で描いた映画と批判する人たちの反感を買っていた。
わたしはメディアに注目され、折からの韓流ブームに乗ったイさんの遺族に比べて、事件後、メディアの前に姿を現さずにいる関根史郎さんのご遺族の謙虚さに心が打たれる。これこそ、日本人の心であり、真に勇気ある人の家族だと思う。イさんの行為は人間としてすばらしい勇気があることと感謝の念をもっている。同時にその感謝はともに命を捨てた関根さんにも向けられるべきものだということを安倍首相夫人は理解できなかったのだろう。「美しい日本の心」があることを忘れては阿倍内閣の先行きは暗い。
安倍昭恵さんは見当違いの感動をしていないで、真っ先に宮本巡査部長の見舞いに行くなり、映画を見たあと関根史郎さんの墓に詣でるなりすれば、安倍内閣の支持率アップに貢献できたのに、教えてくれる参謀がいない、夫を支援する絶好の機会を逃して惜しいことをした。
鹿児島県警が捏造した事件
これが宮本巡査部長と同じ警察のすることかと、全国民を落胆させたのが鹿児島県警志布志署が摘発した選挙違反事件の被告12名に、全員無罪の判決が下って事実が告げられたときだ。鹿児島地裁の谷敏行裁判長は中山信一被告(61)のアリバイを認め、「買収会合の事実はなかった」とし、犯行を自白したという6人の自白調書は「脅迫的な取調べがあったことをうかがわせ、信用できない」として、この事件は鹿児島県警によって捏造されたものと解釈できる判決となった。
事件は2003年の鹿児島県議会議員選挙で、4回にわたって会合が開かれ、その席で警91万円が下られたとして、公職選挙法違反事件で中山信一元県議(61)以下13名が逮捕された。会合が開かれ犯行があったとされる藤元いち子被告(52)宅を模して柔道場に作られた部屋における現場検証で、「自分が座った場所に座れ」と命じられたいち子被告はどこに座っていいかわからずに、志布志署長の意図する場所に座れなかった。いらだつ署長に命ぜられて捜査本部の警部補がいち子被告を無理やり座らせた。調書には「いち子被告が自ら座った」用に書かれたという。
志布志町のホテル経営川畑幸夫さん(61)は任意の取調べを受け、事情聴取にあたった警部補(44)に自白を強要されたが認めないでいたところ、「幸夫、お前をそういう息子に育てた覚えはない。(父親の名)」、「娘をこんな男に嫁にやったつもりはない(義父の名)」、「じいちゃん、早く正直なおじいちゃんになってください(孫の名)」と書いた字を、警部補が川畑さんの足を取って無理やり踏みつけさせた。ひじょうに侮辱的で違法な取調べを受けたとして2004年4月、川畑さんは鹿児島地裁に特別公務員暴行陵虐容疑で告訴し、2007年1月鹿児島地裁は川畑さんの主張を認めて「常軌を逸し、公権力をかさにきて原告らを侮辱するもの」として鹿児島県に60万円の支払いを命じた。判決後、川畑さんは「警部補はうそばかり言い謝罪もない。真相を明らかにして県警の体質を変えたい」と警察への不信感を募らせている。
鹿児島県警は「踏み事件訴訟」判決をみて、法廷の維持が不可能と判断したのか2月22日、「踏み字」事件の警部補を懲戒処分にし、志布志署署長ら二人も監督責任をおこたったとして処分した。二人の上司は常識的には捏造事件の主犯であったはずだ。警察組織では、こうした二人が軽微な処分ですむからこうした、捏造やでっち上げによる冤罪事件が後を絶たないのだろう。
捜査は捜査員が聞きつけてきた噂を元に、公選法違反事件の取締りではカリスマ的存在だった志布志署長が描いた図式どおりに県警捜査2課と志布志署の捜査員たちが動いた。従わないと捜査本部からはずされると警察官たちは悪魔の手先となった。どんな手でも使って自白を取ろうと必死だった。あるいは、警察官の中には精神的拷問を加えることに快感をもとめていたのかも知れない。権力をかさに、一般市民を犯罪者に仕立て上げるということが日常化している。
殉職した宮本巡査部長のいた警視庁だっていいかげんなものだ。わたしも危うく東村山署の警察官に拘束されそうになったことがある。わたしはその日の早朝に成田空港に着いたばかり、そのわたしを自動車泥棒の被疑者扱いにしようとした警察官がいた。わたしが乗っていた車が盗難届けが出ていたと言うのだ。肩をつかんできたので「何をするんだ」というと、「逃げないように抑えている」という。逃げる気があればとうに逃げている。わたしはあんたよりも柔道が強い。でも、わたしは逃げる必要がないから逃げない」といい、「これ以上へんなことをすると弁護士を呼ぶぞ」と言うとこの高圧的な警察官はいなくなった。結局、車を買ったのに金を払わなかったので中古車屋に取り上げられたフィリピン人女性が懇意にしていた成田市内の警察官に頼んで盗難届けを出してもらったらしい。盗難でもなんでもないのに、鼻の下を伸ばした警察官がフィリピン女性に恩を売ったのだろう。これが表沙汰になると困るのは成田署の警察官、だから、東村山署の警察官も最後は平身低頭だった。
以来、わたしは警察が大嫌いになった。今回の捏造事件でも主犯格の志布志署長と捜査二課の警部、志布志署の警部補といった実行犯たちの名前が伏されている。彼らに被告にされた人たちは人生を狂わされというのに、犯人たちは知らん顔を決め込んでいるし、県警は彼らをかばっている。もちろん、こんな糞を味噌と言いつくろってしまうような鹿児島県警の言いなりになっていた検察官の責任も大きい。
鹿児島県警は関西テレビがフジテレビOBのやっている制作会社に作らせた捏造番組を見て、自分の書いたストーリーのままの事件を演出したかったのだろう。「やらせ」と「捏造」は現在の日本のトレンドとなっている。
いずれにしろ、市民のために命を投げ出す警察官も、事件をでっち上げてしまう警察官もどちらも同じ警察官なのだ。30年、40年まえには宮本巡査部長のようなお巡りさんがたくさんにいた。バブルの時期に暴力団やいかがわしいビジネスマンたちと癒着する警察官がふえ、最近では天下り先のパチンコの景品買い会社、駐車違反取り締まり会社や、不法滞在の中国人たちを炊きつけて治安を悪化させて警備会社などを作ったり、コネを確保するのに躍起になっている警察官が急増している。もちろん、肉体的拷問や精神的拷問が好きな嗜虐癖が強い警察官もいる。
ただ、間違いないことは、半数以上のお巡りさんはわたしたち市民のために尽くしている敬愛すべき警察官だということだ。信頼すべき警察もあることはあるのだ。悲しいことに全幅の信頼を寄せることはできない。それが現在の警察であることを忘れないほうがいい。いつ、警察の落とし穴にはめられるかわからないのだから。
鹿児島県警の久我英一本部長は2月22日の県議会で代表質問に答えて「関係者の信条に配慮を欠き、県民の信頼を損ねた。まことに遺憾で申し訳ない」と謝罪した。しかし、謝罪すべき相手は捏造事件によって人生を狂わさられ、家族の絆すら失われそうになった被告たち全員に対してだろう。 |