5月28日正午すぎ、松岡利勝農林水産大臣(62)が東京都港区赤坂の衆議院赤坂宿舎で首をつって自殺した。救急車で搬入された慶応病院で午後2時に死亡が確認された。パジャマ姿だったという。
農林水産省の外郭団体であった旧森林開発公団(現・独立行政法人・緑資源機構)の山崎進一・元理事(76)も29日朝5時15分、横浜市青葉台の自宅マンションの6階の踊り場から飛び降りて自殺した。山崎元理事は緑資源機構の天下り先確保を目的とした官製談合事件の陰のドン(元締め)と見做されており、事件の全容を知る中核的存在だった。
また、山崎元理事は緑機構から林道関連業務を受注する業者で構成する「特定森林地域協議会」の副会長も務めていた。
松岡農水大臣は昨年9月の安倍内閣誕生以前から、利権がらみの不明瞭な金の動きで知られていた。98年8月に鈴木宗男衆議院議員の汚職事件で贈賄側とされた製材会社「やまりん」(本社は鈴木議員のお膝元の北海道帯広市)からも200万円受領している。松岡議員も林野庁に働きかけをしたのではという疑惑がもたれた。松岡議員は献金の受領は認めたものの、「やまりん」からの依頼もなく、林野庁への働きかけもなかったと説明していた。
ポスト小泉で真っ先に「後継に安倍氏を」と叫んで同僚議員に働きかけたのも松岡議員だった。安倍首相は多少の胡散臭さよりも論功行賞で松岡議員を農水相に指名したと揶揄された。やっとたどり着いた大臣の椅子だったが、就任早々から様々な疑惑が次々と松岡大臣を襲った。
まず、出資法違反容疑で福岡県警に捜索された資産運用会社の関連団体WBEFからパーティー券代100万円を受け取っていたのに、入金を政治資金報告書に記載していなかったことが表に出た。閣僚就任当日に収支報告書を訂正し、記者会見で「この団体とはわたしも事務所も一切関係がない」と言い切った。それなのに今年はじめ、WBEFのNPO法人認証をめぐって、松岡大臣の秘書が内閣府に法人認定の審査状況を照会していたことが明らかになった。松岡大臣は「照会はしただろうが、働きかけはしていない」と説明した。
噴飯ものだったのは家賃や水道光熱費が無料のはずの議員会館だけに事務所を置いた松岡氏の政治資金管理団体「松岡利勝新世紀政経懇話会」が2千数百万の事務所費や光熱水費を計上していた事だ。光熱水費については国会で「何とか還元水をつけている」などとつじつまの合わない答弁で逃げ切りを図り、野党に追及されるたびに具体的な説明は一切せずに「法に基づいて適正に処理している」とくり返した。これ以上の閣僚の辞任を避けたい安倍首相が松岡大臣を庇いつづけた。
最新で最後の疑惑となったのは、官製談合事件で東京地検特捜部の摘発を受けている、独立行政法人・緑資源機構に関わる官製談合事件だ。林道などの事業の受注に関連した団体などから約1億9千万円に及ぶ政治献金があったことが共産党の調査で判明していた。この追求に対しても松岡大臣は「政治資金規正法に基づいて献金いただいた。適切に報告申し上げた」として、公共工事への関与を否定した。
しかし、松岡大臣の地元熊本県阿蘇地方の建設業者などの間では「東京地検特捜部の捜査が熊本県内に及ぶ可能性が指摘され、「そうなると松岡大臣に捜査の手が伸びるのでは」と危惧する者も多かった。
松岡大臣自殺のニュースが流れた日の翌朝、緑資源機構の官製談合事件の「陰のドン」といわれていた山崎進一元理事が自殺した。林野庁という天下り先の少ない役所が必死になって高級官僚たちの天下り先の企業を捜し求め、公益法人(独立行政法人)を創設して定年後の生活の安定を図っていた。
林野庁の行っているいわゆる林野行政が日本の森林、天然林を破壊していると言われている。巨額の税金をつかって無用の長物を作ったと非難されつづけてきたスーパー林道、緑資源機構による林道設置が、森林の生態系を破壊していると言われて久しい。
失敗に失敗を重ねてきた林野行政を司る林野庁の特別会計は1998年の時点で3兆8000億円の累積債務を抱えてきた。リストラで人員を削減すれば森林の管理に目が行き届かない。林野庁出身で、そんな状況にあることが十分に分っているはずの松岡大臣が官製談合に関わっている企業や団体から高額の政治資金をもらっていたとしたら、あるいは賄賂をもらっていたとしたら、そして、公共事業に何らかの関与をしていたとしたら、安倍内閣がふっとぶどころの騒ぎではなくなる。
松岡農水相=熊本三区=の一番近い有力後援者である損保代理店社長(62)がイ週間あまり前の5月中旬、熊本県阿蘇市内の自宅で自殺している。地元では「松岡の不正はこの社長を調べれば分る。これで緑資源機構発注の林道整備事業や中山間地域整備事業などの事業に松岡大臣の有力支援者の建築会社幹部にからんだ談合疑惑が藪の中に入ってしまう。」と囁かれているという」と言われていた。その挙句の松岡大臣の自殺だ。有力後援者の自殺も、大臣自身の自殺も、巷間では「他殺説」も取り沙汰されている。
三人もの自殺者を出した農水省に関わる談合と汚職、政治と金、東京地検特捜部の健闘も、これだけキーパーソンが死ぬと、手も足の出なくなる。地価で笑っているのは誰だろう。
26日午前0時頃、農水省食糧貿易課課長補佐、浦川政義容疑者(49)が強制わいせつ容疑で警視庁に現行犯逮捕されている。JR京浜東北線の車内で会社員の女性(31)のムンを触った疑いだという。トップが腐れば、部下も腐っていくのかもしれない。
国会議員や大臣に「死者をムチ打つようなことはできない」という温情は入らない
メディアも政治家も「死者をムチ打つようなことはできない」などときれいごとを言って松岡大臣に関わる一連の疑惑をオブラートで包んで隠してしまおうという気分になっている。しかし、松岡利勝氏は国会議員という公人であり、農水相という大臣ポストにある人物だ。最近では、いじめられた子どもやいじめに関わった子どもの自殺が相次いだ。政治家が閣僚が率先して「自殺防止」に取り組んでいるはずだった。その政治家であり閣僚である松岡氏が自殺した。子どもたちに何と言って「自殺防止」の教育をしたらいいのだろう。
国会議員という公人に、あるいは現職閣僚が自殺したからといって、「死者をムチ打つようなことはできない」などという温情をかける必要はないと思う。松岡氏自殺のニュースを聞いたほとんどの人は、自殺した松岡大臣への同情よりも、「やっぱり松岡氏の関わる疑惑は本当だった」と思うし、「早めに大臣を辞任していれば、自殺なんかしなくてすんだのに」、「安倍首相が庇わなければ、もっと他の選択があったのに」などというふうに考えてしまうだろう。自殺は、少なくとも現職閣僚のする行為ではない。
もっとも、子どもたちにもっとも関わりの深い、文部科学省の伊吹文明大臣も無料のはずの事務所経費なのに、伊吹氏が代表を務める、ほとんど活動実態のない「構造改革研究会」の事務所費に、自身の資金管理団体の交際費などを計上したりしたことへの、明確な説明をしていないことが、子どもたちの教育に与える悪影響は計り知れない。
幸いにして、伊吹大臣はこの「政治と金に関する疑惑」だけだったが、松岡大臣の場合はあとからあとから、次から次へ疑惑、疑惑の連発だっただけに、自分が蒔いた種とはいえ、精神的にはひじょうにきつかったことは想像できる。しかし、彼の答弁姿勢を見ている限り、心臓に毛が生えた、厚顔無恥な、鉄面皮としか思えないと信じていた。自殺するほとナイーブだったというよりも、自殺しなければならないほど、追い込まれていたのだろう。では、なぜ、追い込まれてしまったのかを考えると、まず、疑惑が疑惑ではなく、とくに緑資源機構の官製談合事件に端を発する、贈収賄にも検察の手が及ぶことを恐れたのだろう。
農水省のノンキャリア官僚が大臣まで上りつめた。大臣のまま終わりたいという夢もあっただろうが、現実には本当のことを言いたくても言わせてくれない。辞めたくても辞めさせてくれない、大恩人の安倍晋三首相が庇いつづけている。このままいけば、大臣のまま逮捕されるかも知れない。どうしたらいいだろう。誰にも相談できない。自分よりも組織を守ろうとするのが官僚であり、心翼々であることが官僚のあるべき姿だという。最後の最後になって役人だった頃の気持ちに戻ったのかもしれない。 |