日本の社会保障は崩れていく
 八月を日本ですごすのは15年以上ぶりだ。熱帯の国、一年中夏の国のマレーシアからやってきたというのに、暑い。ほんとうにむし暑い。

 病み上がりの身にはひどく堪えるけれど、これも社会復帰のためのリハビリと思って、腰に万歩計を付けて歩いている。東京は否応もなく歩かせられる。新宿駅、東京駅、そういえば、4、5日に行った京都でも歩いた。京都駅の在来線のある駅ビルから新幹線ホームまで遠いこと。荷物をもって右往左往たいへんだった。

 手術して咽頭を摘出してしまったので声がでない。だから、今は身体障害者三級で身障者手帳の所有者になってしまった。家族が住むのは東京都なので、わたしは東京都の交通機関、都営地下鉄、都バスなどが、無料、他の私バスは半額になる。JRも101km以上は半額になる。マレーシアで十年も貧乏人暮らししていたせいで、貧乏人根性が染み付いて、われながらいじましい。例えば、失った声の代わりの発声法を練習する教室に行くのに、まっすぐJRの快速で行けばいいものを、わざわざ新宿で下りて、都営地下鉄に乗り換えてしまう。15分も20分も余分にかかるし、新宿駅で乗り換えるのがたいへんだ。迷子になるし、歩きすぎて疲れる。それでも、無料の交通機関を選んでしまう。「このくそ暑いのに何を馬鹿なことをやっているんだ」と思う。

 おかげで、毎日一万数千歩歩いてしまう。腹は減るし、ノドは乾く。晩飯のビールがうまいのなんの。「生きていてよかった」と思えるほどだ。日本の食べ物や飲み物はうまい。あまり長いこと日本にいるとただのデブ親父になってしまうと、自制しようと思った。

 こうしてみると、日本は障害者などに実に優しい国だと思えるかも知れない。でも、東京にいるせいか、わたしも含めて障害者の多くはふつうの人以上の生活レベルだと、同病(声を失った人々)を見ていると思う。わたしだって、そんな惨めったらしい行動をしなくても生活はできる。

 もちろん、障害があって生活に必要な収入がない人は多い。とくに地方に行くほど多いのだろう。障害があれば、就業の機会は減る。失業し、貯金を食いつぶし、明日の飯もないという人が大勢いる。サラ金やマチ金などから借金で首が回らなくなった人も多い。両方が混合している人もいる。現実に、世界第二位の経済大国の日本で、明日の飯はおろか、今日の食事もないという人が大勢いる。障害者や社会的弱者に目が届くのは、弊害も大きかったけれど、その昔、美濃部革新都政があったからかも知れないし、大都市への一極集中によって、カナダと同じ規模の都の財政に余裕があるということかもしれない。

 大企業が好況を満喫している。その陰で下請けいじめにあった中小零細企業がどんどん倒産していく。街の個人商店は壊滅状態だ。家族を抱えて失業したり、病気で社会から取り残されてしまった人たちがいる。 そんな人たちがホームレスになることもあれば、自尊心が高く、浮浪者や乞食にはなりたくないという人も多い。そして、切羽詰まると生活保護の厄介になろうとする。自治体が憲法で保障された、人間としての最低限度の生活ができる程度の援助を受けることができる。つまり、人生に失敗した人たちの最後の望みの綱なのだ。

 ところが、最後の生きる望みの綱を受ける前に、門前払いされている人たちがいる。注目されているのは、福岡県北九州市で生活保護を申請する人々だ。ここでは申請書ももらえない。申請しても生活保護は受けられないで却下される。北九州市は日本中で一番、生活保護の認可水準が低いそうだ。「とにかく断れ」、「申請書もやるな」、「申請が出ても却下しろ」が、北九州市の方針だったらしい。北九州市では生活保護費を不正に受給する人が多く、返済請求しているという。社会福祉事務所とか民生委員とかがきちんと機能していないのだろう。

 そのため、一人の市民が「握り飯が食べたい」と書き残して死んだ。餓死だった。十数日も食事をしていなかったらしい。市の担当者が「就職活動をして、仕事を得るから生活保護は辞退する」と書かされたらしい。放置すれば餓死する可能性があると思える現実だったのに、市の担当者は無理やり事態させたらしい。その結果の餓死。これって、「未必の故意による殺人」に等しいんじゃないかと思う。

 北九州市の市長は今年のはじめに代わったばかりだ。つまり、前市長が市の方針として生活保護者を減らせと厳命した結果だろう。でも、ふつうの感性をもつ人間なら、生活保護を打ち切ったあとどうなるかを考ええる。市長の命令より重いもの、憲法で保障された人間としての最低限の生活、つまり、蚕食できる、光熱があり、水も飲める、それを市民がサポートする、それが生活保護であり社会保障だ。それを拒絶するのは先進国の行政機関のすることではない。それが前市長の命令であるなら、担当課長や部長であるなら、「未必の故意による殺人」の犯人として告発するべきだろう。

 これが北九州市だけの特殊な例とは思えない。わかりやすく言えば、財政破綻した夕張市には生活保護など社会福祉予算に余裕はまったくない。夕張市と似たりよったりの財政事情の自治体は多い。そこでどういうことが行われているか、想像するしかない。

 小泉前首相の改革を安倍首相が継承した。その結果、餓死する人がでた。必要性があって、妻や子を殺して、保険金を得ようとする人が何人もでた。見かけはかっこいい小泉改革が産んだ「社会格差」によって切り捨てられた人々がいる。地方に行けば行くほど、それは際だつ。 地方の人々の生命が切り捨てられている。地方では、大なり小なり生活が困窮しつつある。だから、自民党は負けた。これからも、貧困の極にある人々を切り捨てるだろう安倍晋三首相のやり方に、地方も都市部の人々も「ノー」と言った。「裸の王様」の安倍晋三首相はそんな程度のことさえ気づかない。

 
     
 
 
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