自民党、公明党の与党に民主党が組する大連立構想と、自衛隊の海外派遣に関する恒久法の検討が福田首相と小沢民主党代表との二人だけの「密室会談」で話題になったという。どちらからもちかけた話かは分らないが、自民党幹部や讀賣新聞からは「小沢代表が持ちかけた」、「三党間の大臣の割り振りも二人で話し合われた」などと、真偽不明の情報が乱れ飛んだ。どうやら、福田首相と小沢代表の密室階段はナベツネこと讀賣新聞の渡邉恒雄会長が仲介というか仕掛けたらしい。ナベツネ会長は熱心な三党による大連立による政界再編論者であるといわれている。一大メディアグループの総帥であることに飽きたらず、政界を自分の意のままに動かすフィクサー、黒幕になろうとしたのだろう。その見方が正しいことは、自民党幹部などから次々に出てくる裏情報を誰がリークしているかを考えれば分ることだ。
二人だけの密室会談で大連立構想が話題に上れば、密談の中で、断るにしろ受けるにしろ答えを出してしまえば「党の命運を左右する重大事項を独断で決めた独裁者と謗られるに決まっている。民主的な考え方で、党にもちかえって党の幹部たちの意向を聞いて答えを模索しようとすれば、「何で会談の席で(その場で)断らなかった。(7月の参院選で示された)国民の審判をないがしろにしている」と非難する声も絶対に上がってくる。どう転んでも小沢代表は批判の矢面に立つことになる。
案の定、民主党内からは「国民の信頼に背いている」、野党の社民党や共産党からは「自衛隊の海外派兵の恒久法成立は憲法違反」とか、「これでは野党同士の選挙協力はできない」という批判が集中した。社民党はそのうちに消滅するだろうし、共産党が国会での議席をふやすことはないだろう。だから小沢代表は彼らの批判を無視することができるが、身内の民社党幹部からの批判にはイライラが募るだろう。党の皆さんの声を聞くために持ち帰ったのに、それを批判されたら立場がないし、そんな民主主義の原則が分らない党幹部の議員たちが次の選挙で勝てるとも思えない、いや勝たせるべきではないと考えるのは自然だ。
福田首相が罠を仕掛けたのか、ナベツネが罠を仕掛けて福田首相を踊らせたのかのいずれかだろう。
罠にはまった小沢代表は「しまった」という思いと、「何で、党を立てて持ち帰ってきたオレを理解してくれないんだ。選択肢の一つとして真剣に議論すればいいじゃないか」という思いとでやりきれなさがこみ上げてきたはずだ。民主党も党に所属する国会議員も、建前や面子よりも前に、国民にとって最善の政治を考えるべきだ。場合によっては与党と議論し合い、意見を調整して手を結ぶこともいいはずだ。そんなことも分らない自党の議員たちに嫌気が差したのだろう。小沢代表は辞表を出した。辞表を出されてはじめて、ことの重大さに気がついたのだろう。
小沢代表は「民主党は力量不足だ。政権担当能力があるのか」と国民の多くが思っていることを口にした。野党として、「反対、反対」を叫んでいるときはいいが、いざ、衆議院選に勝利して、与党になって政権をとったときに、どれだけのことができるか、誰しもが不安に思っていることだ。小沢代表の国民の立場を代弁しての指摘を、枝野幸男元政調会長は「党首失格だ」と批判し、小沢代表を怒らせた。「辞めるって、何を考えているんだ。自民党を利するばかりだ」と叫んだ幹部もいた。
参院選で圧勝できたのは自民党安倍内閣の相次ぐ失策と、小沢代表のリーダーシップのおかげだ。枝野議員レベルが何十人いても小沢代表のリーダーシップの何分の一にも値しないだろう。誰が、代表になっても次の選挙は苦しい。二大政党どころではない。僅差でも衆議院選に敗北すれば、雪崩を打つように自民党に鞍替えする議員が相次ぐだろう。民社党は旧社会党系と、保守系出身とに分裂してそれでお終い。国民が期待した二大政党による国民のための政治は雲散霧消となる。
「豪腕」といわれた小沢一郎氏は、最後の政治家らしい政治家だった。信念に従い、独立志向の政治を目指した。一方で、信念にあわなければ、破壊的な手法をとってきた。よくも悪くも信念の人だった。次期代表候補には菅直人代表代行と岡田克也副代表の名前が挙がっているが、菅氏は国民に迎合しすぎるし、岡田氏は安倍前首相と同じくお坊ちゃんで、ともにリーダーの器には小ぶりすぎる。民主党は、自民党がもう一度か二度大きなエラーをしてくれない限り、縮小していくだろう。
それにしても、密室会談のもう一人の当事者である福田首相は「わたしはコメントしないほうがいいだろう」と高みの見物を決め込んでいる。コメントしない首相の代わりに自民党幹部や讀賣新聞などが、ウソだか本当だか分らないことを好き勝手に発表している。福田首相がさせているのだとしたら、安倍晋三前首相にも勝る最低最悪の首相になるだろう。野党第一党の代表と何をどのように相談したか、どうしたかったのかを説明せずに「一国の首相でござい」はない。 |