今年8月に催される北京オリンピックのハンドボールのアジア地区代表選考をめぐって、アジア予選で審判に不正があったという理由で、国際ハンドボール連盟(IHF)が理事会を開き、アジア予選のやり直しを決定した。アジア連盟(アーマド会長)はクウェートの王族が会長で事実上支配している。このためアジアの大会では中東びいきのジャッジが目立っていた。クウェートをはじめとする中東の国々の試合には近隣国の審判が担当し、中東よりの偏った判定が多く見られ、東アジアの国々の間で「中東の笛」とささやかれていた。
昨年9月に愛知県豊田市で催された北京オリンピック男子アジア予選でも「中東の笛」でクウェートが全勝優勝、韓国が2位で最終予選に進出、日本はオリンピック出場を逃した。女史は昨年8月カザフスタンで行われ、カザフスタンが優勝した。
アジア連盟の大会運営のあまりのひどさに日本と韓国が国際ハンドボール連盟(IHF)に提訴した。IHFの男女ともアジア予選をやり直しにするとの決定にアジア連盟は反発している。再予選には中東諸国は参加を拒否、日本と韓国のみが出場する見込みだ。
アジア予選の審判には主管国の日本は公正をきすためにヨーロッパからの審判を招いていたが、韓国対クウェート戦では、直前になってアジア連盟が予定していたヨーロッパ人審判からヨルダンの審判に変更した。日本対クウェート戦の審判もイラン人に変更された。
二つの試合ともクウェートよりのジャッジが目立ち、あまりのひどさに、試合後、日本と韓国は試合を撮ったDVDをIHF役員や国際オリンピック委員会(IOC)に送って訴えた。
ルールとマナーの遵守がスポーツの基本であり、公正なジャッジなしには試合は成立しない。これはスポーツ団体の役員選挙でも同じことが言える。しかし、現実には、多くのスポーツ団体で政治力やひどいときは金の力で役員が選ばれている。原油価格高騰のおかげで潤っている中東諸国の権力者たちは、ふんだんにあるオイルマネーを遣って、国際的な名誉を得ようとしている。かって、驚異的な経済発展を遂げていたときの韓国の財閥たちも同様だった。国際的なスポーツ団体の会長になれば、名誉欲が満足するだけでなく、そこから波及する人脈によってより多くの富を得ることができる。しかも、多少後ろ暗いことをしても司法当局やマスコミから見逃してもらえる。
かって韓国の成金たちが目指したスポーツの国際連盟の会長職を中東の石油王たちが目指している。
オリンピック競技の多くは世界規模の連盟に加盟している国は150から200カ国にも及ぶ。中には競技人口が100人に満たない国もあれば、一人当たりのGDPが300ドル以下という国も多い。国連も同様だ。人口が50万から100万程度の国や、平均寿命40歳という国、一人当たりのGDP300ドル以下の国々は100を数えるだろう。総会で、自らの主張の支持を求め、役員選挙での自身への投票をもとめるにはどうすればいいか。日本が安保理常任理事国入りを求めた国連総会の議決でさえ、アフリカ諸国などへの援助を約束した日本の支持よりも、投票する国連大使や実質的に決定権のある人物に直接働きかけた、日本に反対する中国のほうの支持が多かったことと同じだ。
スポーツ団体でも、低開発国、貧困国の票を得ようとすれば、その国のスポーツの発展に寄与することよりも、投票する個人の利益になるようにしなければ、選挙では勝てない。国民の多くが飢えに苦しみ、エイズなどの病気で平均寿命が三十代であっても、多くの国民のためになることよりも、自己の利益を優先してしまう国の代表が大勢いる。多数決による民主主義は、貧富の差が厳然とある限り成立しない原理なのだ。
たまたま、アジアハンドボール連盟の混乱によって、スポーツの世界でさえ、公正さが失われていることがクローズアップされた。実をいうと、柔道の世界でも同じようなことがある。国際柔道連盟やアジア柔道連盟の選挙で不正がまかり通っているし、あるいは、世界選手権大会やオリンピックなどで公正でない審判が試合を司っていることがしばしばある。体操のような審判の主観が採点に反映する競技はなおさら微妙だ。
日本からはなれ、東南アジアの国の目でスポーツの社会を見ているわたしたちは、「公正にルールが適用され、戦いが終われば選手同士が互いの健闘を称えあって肩を抱き合えるのがスポーツ」という日本の古典的な常識を頑なに守っていくしかない。スポーツを通じて親しくなった仲間たちに、わたしたちのもっている「スポーツの本質」を訴えて理解してもらう努力をつづけていくしかない。蟷螂がどんなに自らの斧を振るっても竜車の進みをとめることはできないかも知れない。それでも、わたしは訴えて行きたいと思う。 |