#11
出産、そして、
ホテルの退職を
前に
小田島小百合
 
 出産を前に、わたしのワークパーミットが切れました。
 数人の同僚たちが「フェアウェル・パーティー」をやってくれました。
 「いい子を産むのよ」
 「赤ちやんをつれてきてね」
 「遊びに行くからね」                    
 「いつまでも忘れないでね」
 やさしい仲間たちでした。
 彼女たちは別のホテルに移っても、ほかの町に行っても、必ず連絡をしてくれました。
 この仲問たちが次の仕事でどれだけわたしを助け、支えてくれたことか。
 日本人のわたしには信じられないようなサービス業の考え方やマナー、戸惑うことばかりだったけれど、過ぎてしまえばみんないい仲間たちだなあって、しみじみ思います。
 「現地採用は無責任」と醤油顔の日本の若い駐在員に言われたけれど、彼等には得ることができないマレーシアの仲間を得ることができたのは、わたしが「現地採用」だったからだと思っています。
 わたしの人生で初めての職場となったホテルでの2年間は、意外な出来事の連続でした。 もちろん、マレーシア人と結婚して、マレーシアという外国で初めて暮らしたわたしにとっては、未知の世界に踏み込んださまよえる小羊のようなもの。
 見るもの聞くもの、何から何まで新しい世界での初めての体験ぱかりでした。
 常識を超えた小説の中のような世界でした。
 マレーシアという国、この国を構成する民族それぞれが、わたしの知らない世界を見せてくれました。
最大の学習は、日本人のユスリとタカリ
  しかし、もつとも意外だったのは、さっそうと肩で風を切っている日本人ビジネスマンたちが、日本に住んでいたら知ることはないだろうと思われる言動をするということでした。前に書きましたが、お中元とお歳暮のシーズンになると日本人の団体によるユスリまがいの タカリがやってきました。
 数年前に閉店した日系の電器店『S無線』の皆さんは、「あれは脅しだよ。テレビを2台か、さも出すのが当たり前、出さなきゃ不買運動やるぞとは言わないけれどね。悪質だよな」と言つていました。
 毎回人は変わるのにユスリ方もタカリ方もそっくりでした。
 こういうことにも日本人の若い男性たちの個性が失われていることを知りました。そういえば今年もそろそろお中元の季節、また陽焼けした日本人ピジネスマンが
 「どこそこのホテル(レストラン、旅行会社、家電メーカー等々)では、ラッキードロウの景品にこれこれを提供してくれましたよ。お宅も例年通りにお願いしますね」って皆さんの職場にお邪魔すると思います。
 ほんとうに困ったお邪魔虫なんだけど、本人たちに悪気がないんですよね。それが問題だと思うんですけど。本物のやくざと、やくざもどき
 やくざの「ケンケン」こと犬山健太さんとは、ホテルを辞めたあともよき相談相手になってくれると思うんです。
 やっぱり昔気質の本物のやくざは(本人は昔の東映のやくざ映画の高倉健とか菅原文太になったつもりなんだから)筋を通せば理解し合えるし、義理人情に厚いと再認識しました。
でも、なんでマレーシアなんかにいるんだろう。
やくざ業界も、時代遅れは左遷させられるのかなあ。
それとも、見掛けはともかく国際感覚とビジネス感覚を持ったやくざ業界のエリートなのかしら。
 やくざもどきもいましたね。                           
 大ボラさんこと大堀筑造さん。
 十年以上前のマレーシアの日系旅行業界には人(会社)の金と自分の金の区別がつかないで、女と博打で身を滅ぼした(でも、別の業界で復活してやくざもどき、詐欺もどきでしたたかに生き残っている)人が、大ポラさん以外にもいるんですって。大ボラさんは自分の過去を知っている人がいると静かに姿を消していくというシャイな面があって「かわいい」って感じたけど、ホテルで大声をあげて騒ぐタイプや、貴重品の紛失事件などがあったりすると恐喝してくるタイプ、ホテルには何の過失もないのになんくせをつけて支払いを渋るタイプ、etc.…、かわいくないおじさんたちがいっぱいいましたね。
 
脅かし屋さんと『日馬プレス』
 中には、「おれは『日馬プレス』のWと親しいんだぞ。Wに言って、このホテルであったことを書かせるからな」って脅していった人もいるんです。「どうせわたしは」を書く前にWさんにお会いしたときにこの話をしたら、 「たまにいるんですよ。そういう奴に限つて、自分は立場があるからとか、ビジネスに影響するから名前は出せないけどって言ってくる。自分は表に出ないで『日馬プレス』に書かせようなんて質が悪いというか、卑怯ですよね。言いたいことがあるなら、自分の意見として、自分の名前をつけて発表すればいいんです」って言ってました。
 何年か前、Wさんと同じ年頃の男性が、「KL日本人学校に通っている子供の母親が自分の子供が先生に倉庫みたいな部屋に入れられて”お前みたいな奴はゴキブりと同じだ”っ て言われて、ゴキブり・スプレーをドアの下に吹き付けられたって怒っている、こんな先生はとっちめなければ」と言って、日本人学校の先生方の悪口をいろいろ聞きつけてきて、「公表しよう」と言ってきたそうです。
 その時Wさんは「子供が悪さをしたら先生が叱るのは当たり前でしょう。先生の悪口を言う前に、母親が子供を叱るのがふつうじゃないの。あんたも子供の頃、学校の先生に叱られたとか殴られたとか、親に知られたら、お前が悪いって先生の何倍も怒られたり殴られたりしたでしょう」と言ってあきらめさせたそうです。
 「この人は日本人学校の先生たちからも仕事をもらっているのに、何を勘違いしているんでしょうね」って言ってました。
 何が悪くて、何が正しいのか、大人も子供も混乱しているってことかしら。
 自分が悪いことをしたのを棚に上げて先生の怒り方を親に訴える子供も子供なら、自分の子供が悪さをしたことを棚に上げて先生をやっつけようとする親も親だと思う。その尻馬に乗って、『日馬プレス』に書いてもらってやるというエエカッコしいのおじさんがいるから救われないわ。学校や先生を批判するのが知識人だと錯覚しているみたい。周りの大人がこれじゃあ、子供たちはたいへんですよね。
 わたしももうじき人の子の親になるのだから、きちんとしなくちゃ。いいことをしたり、頑張ったりしたら褒める。
 悪いことをしたり、すぐに投げ出したりしたら叱る。子供は大切だと思うから、わたしが一生懸命に育てていることを子供に伝えたいと思う。だけど、カマちゃんはマレー人だから、子供は甘やかし放題になるような気がする。
 うん、絶対になるな。 わたしが頑張らなくちゃ。
本稿は日馬プレス第179号(2000年6月1日)に掲載されたものです。
 
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