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#17 |
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再就職した会社は
けっこういけそう |
| 小田島小百合 |
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| おしゃぺりな同僚 |
再就職した「オウツウ」は日本名、大手通商株式会社という機器や設備の販売会社です。
Sさんは若きGMで現地人の女性スタッフの間で密かに人気者になっているみたい。わたしがなれなれしく立ち話をしていると、嫉妬の視線があっちからもこっちからも突き剌さってくるような感じがするんです。
「あなた、結婚しているんでしょ。あんまりSさんと親しそうにしないほうがいいわよ」、
「えっ!どうして?」
「ここは密告社会なんですからね。気をつけないと」。
30歳前半に見える先輩現地採用社員の大榎実沙恵さんが忠告してくれたんです。
笑わなければ、ちょっとボーイッシュでかわいい実沙恵さんはマレーシア生活4年余りというベテラン。未婚の気安さで、週末になるとディスコだ、カラオケだ、カフェバーだ、と飛び回っているらしい。遊び仲間の若手駐在員たちとの交流も盛んで、やれ食事会だ、やれ飲み会だとウィークデーも結構忙しそうだ。
「よくお金が続くわね」と聞くと、
「割り勘なんだけど、女性半額ってことになってるの。マレーシアなんかにくると、日本人の独身女性ってだけで希少価値があるのよね」ですって。
いいなあ。わたし、なんで結婚なんかしちゃったんだろな。ちょっと感じがいい男性と親しそうに話をしただけで、後ろ指を指されるなんでバカバカしいったらありやしない。結婚していようがいまいが、気が合う人っているし、好感がもてる人だっているのがふつうだと思うんだけど。周りはグチャグチャ言うし、カマちやんは焼きもち焼くし、かなわないな。
実沙恵さんと話をしていて、なにより感心するのは現地採用日本人女性の動向に詳しいことだ。どこのホテルにだれそれという日本人女性が入って、年齢、出身地を知っているだけじゃなくて、下手をすると給料からボーイフレンドの有無まで知っている。どうやら、遊び仲間の若者達が情報源らしいけど、とにかくすごい情報量なんです。
「AB社のCさんは、インド人のポーイフレンドをとっかえひっかえして遊びまわっているの」とか、
「DE社のFさんはチャイニーズの株屋さんの二号さんをやってるみたいよ」とか、
「GH社のIさんは自分の会社の運転手を足替わりにつかっているの、マレーシア版アッシー君よ」って具合なんです。
わたしが知っている現地採用族は、皆まじめに見えるんだけどな。わたしみたいに結婚しているといろいろ制約があるけれど、独身の人たちは皆生き生きしていて羨ましいと思っていたんだけどな。めったにないけれど、駐在員の男性と現地採用の女性が結婚したなんて聞くと、ほんとによかったなって思うんですよ。マレーシアで働いて、生活をエンジョイして、運がよければ結婚して、自分自身を見失わなければ他人にとやかく言われることないと思うんだけど。なんで、いろんなことが皆にわかっちやうんだろう。
「あの人たち、隠さないもん。自分がなにをしているか知られても、気にしてないみたいよ」ですって。
わかんないなあ。
不思議な世界だ。
愛憎紙一重ってほどではないけれど
「Sさんはねえ‥‥」
おっ、きたきた。
やっぱりきた。
男性の噂がないわけないんだ。
「SさんはVというカラオケラウンジに彼女がいるのよ。夕方になるとSさんの携帯に電話がかかってくるの。仕事の電話だと、いかにも自分は第一線のピジネスマンって感じで胸を張って、顔を上げて、はっきり聞きやすい声で話をするのに、下を向いてボソボソってやってるからすぐわかっちやうの」
いいじゃない、若い男性なんだから、飲み屋の女性の一人 や二人いたって。
そんなこと言ってたら、カマちやんの奥さんなんてやってられないぞ。
キョロキョロって周りの人の目を確認して、実沙恵さ。ん、話を続けたんです。
「家族が広島にいて単身赴任なのよ。今年の春休みに奥さんと子供が遊びにきてたわ。奥さん美人なんだけど、ちょっと気が強そうな感じなの。子供はね小学3年の女の子で、これがまたかわいいの。なんでも私立の名門校に通学しているんで、KLには連れてこられなかったらしいわ。」
「へ―、教育パパ、ママなんだ」とわたし。
「あんな美人の奥さんとかわいい娘がいるのに、男って浮気をするのよね」ですって。
その何カ月か後、実沙恵さんの遊び仲間の女性が、
「実沙恵さん、Sさんにモーションかけたんだけど相手にしてもらえなかったみたい。Sさんに妻子があるのを知っ てて、それでもいいのとかなんとか言って、ふられたのが悔しいのかしら。Sさんのことになるとむきになって悪口を言うのよ」って教えてくみました。
実沙恵さんも実沙恵さんだけど、そんなことわたしに告げ 口するこの女性もどうかと思うわ。
Sさんは、自分が噂の対象になっているのを知ってか知らずか、いつも元気なバリバリ・ビジネスマン。脚が長く、身長も180cm近いSさんは、フォーマルなスーツ姿もいいし、カジュアルなジーンズルックもきまっている。わたしが結婚していなかったら、たぶん、心が揺れる存在になっていたろうなって思うんです。 |
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| 社長はアンバランスが魅力 |
社長の権田原さんはというと、胴長短足の古典的というか伝統的というか、とにかく典型的日本人的体型のくせに、髪はシルバーグレーに金縁の眼鏡が似合う、アンバランスを絵に描いたような渋い中年ビジネスマン。話し好きで、話し方もおだやかで、人を笑わせるのが好きで、おおらかで楽しい人柄なんです。だから、口―カルスタッフに人気抜群。転職、転職を繰り返すのがふつうの華人スタッフが、勤続3年、4年がざらで、給料がそんなにいいとも思えない会社なのにやめそうにもない。受付のマレー人女性も、インド人運転手も、「今までで一番やさしいボスだ」って絶賛するの。
その権田原社長も単身赴任なんですって。この人は大の旅行好きというか、山登りをしたり、釣りをしたり、海に行って潜ったりと、自然大好き人間。
「この国は退屈しない」っていうんです。
一人でもどこにでも行っちやうし、仲間を連れて行くこともある。
「携帯電話のつながらないところにばかり行くんで、肝心の時に連絡がとれなくてね」と、Sさんがこぼしていた。
「携帯電話がつながらないから、いいんじゃないか」というのが社長の言い分。
「それを東京にうまくごまかすのが、あいつの一番大事な仕事さ」ですって。
いい社長、いい上司、おしゃべりな同僚、会社が好きなローカルスタッフだちと、今度の仕事環境はかなりいい方って感じています。でも、一抹の不安があるんです。それは、あの大ボラさんこと、大日本ビジネス・コンサルタントSdn.Bhd.会長の金文字名刺で有名な大堀築造氏と権田原社長が親しいんです。大ボラさんの実態というか正体を知っているのかしら。 |
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| 本稿は日馬プレス第186号(2000年9月16日)に掲載されたものです。 |
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