| 所詮、雇われ社長の権田原社長 |
「サラマ・パギ」、
だみ声が聞こえたので、顔をあげてびっくりしました。
つるつる頭で耳から顎にかけて髭を生やした、大日本ピジネ ス・コンサルタントSdn,bhd.会長の金文字名刺で有名な大堀築造氏がそこにいたんです。
思わず立ち上がってしまいました。
「なにかご用でしょうか?」、
緊張したわたしの質問には答えずに、
「んっ。きみとはどっかで会ったことがあるね。どっかのホテルにいたなあ」ですって、
一度っきり、それも5、6分話したことがあるだけなんだから、忘れてくれりやあいいのに。
「その節は、お世話になりました」、
「いや、お世話なんてしてないよ。ところで、権田原さんはいるかね」というので、社長室に内線で大堀さんが来社している と伝えました。
「今、打ち合わせをしているんで、10分位待ってもらってください」という返事でした。
「あちらで、お掛けになってお待ちください」と、応接セッ トの方向を示したんです。
そうしたら、大ポラさん実沙恵さんの席の脇に行って、勝手に隣の椅子を引っぱってきて座り込んで話し始めたんです。ふたりで わたしの方をチラチラ見ながらひそひそ話をしているんです。
もっとも大ボラさんのだみ声はボリューム調整しても十分に大声のカテゴリーにはいるので、わたしの名前やらなにやら、聞こえてくるんです。感じが悪いったらありはしない。
社長室からSさんがでてきて、「お待たせしました。どうぞ」と大ポラさんに告げたら、
「んっ!」と、時代劇に出てくる豪傑のような返事をして、肩をそびやかすようにゆすって社長室に消えました。
すると、実沙恵さんがやってきて、
「あなた、大堀さんに嫌われるようなことをなにかしなかった?」
と言うんです。
「前にホテルで働いていたときに一度だけお会いしたことがあるだけですけど」って答えると、
「あの人、あなたのこと何度も会ったことがあるって言ってたわ。ちょっといい女だと思って鼻にかけてる、感じがよくないとか言ってたわよ。社長と親しいから、嫌われると損よ」ですって。
なによそれ。関係ないじやないの。
大ボラさんは社長室で30分以上すごして、
「じゃあな。君のことは権田原くんによく言っておいてやったから、しっかり働けよ」と言いながら帰っていきました。
けっ!塩を撒いて、椿に手ぬぐいをかぶせて逆立ちさせて置いて置けばいいのに。 |
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| 社長も知る大ボラさんのホラ |
「小田島くん。ちょっときてくれないか」、
きた、きた、きた、案の定、社長のお呼びがかかった。大ボラさんがわたしをよく言っていくわけがない。どうせ、ホテル時代にはお客の悪口ばかり言ってたとかなんとか、ありもしない話をでっち上げているにきまってる。
ホテル業界のブラックリスト第一号だってことを、わたしが知っていることを知っているから‥‥。
「君は大堀さんと顔見知りなんだって?」
「一度だけお会いしたことがあるだけですけど」、
「そうだろな。君と何度も会ったことがあると言いながら、君のことを根掘り葉掘り聞きだそうとするんだ。でも、なんか不思議なくらい君のことをよく言っていたな。君に弱みを握られているって雰囲気だったな」と、社長はうなずいたんです。
「まあ、だいたい想像はつくけどね。君のいた観光業界では、あの人はブラックリスト第一号なんだから」、
「えっ、知っていらっしゃったんですか」、わたしはほっと胸をなでおろしました。
「あの人はうちの会社にチョクチョクくるけど、仕事のつながりはないんだ。あの人はいろんな人と話をして情報を集めて、それで商売をしているらしいんだ。うちの会社で聞いた話をよその会社で話して信用させたり、新しい鴨、いやお客をだますネタに使うんだろうね」ですって。
「それって、あぶないんじやないですか?」、
「うん、あぶない。でも、来るなって言ったら、なにを言いふ。らされるかわからない。もつとあぶなくなっちゃう。どういうわけか、あの人のことを神様みたいに信じきっている人たちがいるんだよね」、
「へ一〇あの新興宗教の教祖みたいなアゴ髭で、うさん臭さを消しているのかしら」って、小声でつぶやいたら、
「わたしも、最初はそれで信用しちゃってね。出入り自由にしちやったんだよ」って、薄くなった頭をピチャピチャひっぱたいて、反省の意思表示をしているんです。
「うちらみたいな会社は敵を作らないのが仕事みたいなもんだから」って苦笑いしているんです。
「たぶん、あとで大榎さんに電話をかけて、君のことを根掘り葉掘り聞きだすと思うよ。大榎さんはどういうわけか大ポラさんを尊敬していてね。会社のことでもなんでもしゃべっちやうので 困っているんだ。まあ、彼女が知っている程度のことは会社にとってはどうってことないんだけどね。問題は個人情報なんだよ」
実沙恵さん、やっぱり放送局だったんだ。
実沙恵さんが発信源で、この会社やよその会社の若者達の行状 も、逐一大ボラさんに流れているのか。
問題だなこれは。 |
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| 力マちゃんとお義父さんが狙われる |
「旦那のことや、旦那の親父さんのことは絶対に大榎さんに言わないようにね。Sくんにもよく言っておくから、気をつけてほしいんだ。」
「どうしてですか?」
「必ず、会いにいくんですよ。君のお父さんのところへ。君と親しいとか、君の働いている会社のコンサルタントをしている とか言ってね」
「わたしのお義父さんと会って、なにかメリツトがあるんですか」、
「どこの役所にいたとか、どこの会社の役員をしているダト・ 誰某と知り合いだってことに価値があるんだよ。あの人たちに とって、一度でも会ったことのある人は親しい人ってことになるんだな。例えば日本からピジネスをしようって来たばかりの人を信用させるために、利用価値は高いんですよ」。
へ―。それって、ちょっと詐欺っぽいんじゃない。
「あとから、あとから、金色の葱を背負った鴨が日本からやってくるんです。不思議なもんで、雌のフェロモンに魅きつけられる雄のように、あの人たちのところへは間抜けなビジネスマンが集まるんだよ」、
「そういう人がいるのを知ってて、だれもなにもしないんですか?」、
「うん。だまされるのは、だまされる側にも問題があると思うんだ。日本で新しい投資をするときには、もっともっと慎重に調査をして、簡単にはだまされないしたたかな人たちが、飛行機にのっている間に惚けちやうのかな。日本では、自分にはビジネスの才能がある、したたかなビジネスマンと思い込んでいた人たちなんだろうね」と、教育的な話をしてくれました。
気をつけなきゃ。
よかった。権田原社長って、人を見る目がある。この会社なら大丈夫、やっていけそう。 |