#19
大ボラ氏は
密告屋だった
小田島小百合
 
所詮、雇われ社長の権田原社長
 案の定、大ポラさんこと大堀築造さんは、翌朝、「おおつう」の権田原社長に「顔をつぶされた」と抗議の電話をよこしたようです。めずらしく、権田原社長にランチに誘われました。
世間ばなしをしながらのランチが終わると、「大堀さんに抵抗したんだって」と、権田原社長は二ヤリと笑いながらいいました。
 「会社の大切な人を怒らせた責任をとれというのでしたら、どうぞおっしやってください」、大ボラさんのことなんて考えるだけでゾツとする。
 「オオツウがKLに事務所を開設するときに面倒をみたって話をしたんだろ。最初はね。俺に任せろっていうから任せたら、会社の登記も事業の認可もワークパーミツトもおっぽりぱなしで、必要経費だという金だけもっていくんだよ。なんか、大堀さんのことを知っている人にきいたら、彼はお金が手にはいると、自分の仕事だか、生活費にだかに使っちやうらしいんだよ。それで、これ以上頼まないから、それまで払った金を返してくれって言ったら怒りだしてね。俺はイミグレや警察や通産省の役人と親しいんだ。仕事ができないようにしてしまうぞ。って脅してきたんだ。しょうがないから、金はくれてやるからもうこの会社にかかわらないでくれってね。縁を切ったんだよ」と権田原社長。
 「でも、初代の柳下社長がダトの称号をもらうときに口をきいてやったって言ってましたよ。なにが本当で、なにが嘘だか、わたしにはよくわからない」、わたしは大ポラさんもオオツウもどっちも信じられなくなっていました。
 「それは、彼がかってにそう思い込んでいるだけだと思うよ。彼のコネでダトになれるのなら、まず彼自身がダトになっているんじゃないかな。そういう男だよ」と権田原社長は言うけれど、なんとなく同じ穴のムジナって感じ。
今だって、大ボラさんは堂々と会社にやつてきて、実沙恵さんを手懐けているのをほうっているじゃあありませんか。
そういえば、権田原社長の顔付きがなんとなく狸に似てきたような気がするのはなぜかしら。
オオツウだって、あやしいもんだと思うんです。
 
イミグレに密告
 「あの男はね、自分を無視されたり、自分を馬鹿にされたり、面子をつぶされたりすると、異常な反応をするんだ。あの男のかみさんもしたたかでね。夫婦であることないことを言って歩くんだ。かみさんに尻をひっぱたかれてやってるって、もっぱらの評判なんだけど、とにかく悪質なんだ。うま―く話をでっち上げてね。また、あの夫婦を信用する世間知らずの連中がけっこういるんだよ。とくに臍から下のスキャンダルが大好きなおばさん連中を言いくるめるのがうまいんだ。オオツウの社員もね、所詮、会社員だからスキャンダルには弱いんだよ」ですって。  
 「そんなおかしな人となんで親しくされているんですか。自分が悪くなきゃ平気でしょ。きっと後ろめたいことがあったんだわ」とわたし。
 「人間だって、企業だって、100%法を守っているわけじゃあないでしょ。赤信号で道路を横断したり、一時停止しなかったり、スピード違反したり、そんなことだれでもやっているんです。企業も同じ。マレーシアにやってきて、、会社が設立途中でも、現地法人を設立するための仕事をしているのは間違いない。でも、ワークパーミットはない。それは仕方がないんだけど、厳密には違法行為だから、つつかれると危ないと考えるのが当然でしょ」。
むむっ!わかった。
 「大堀さん、わたしのワークパーミットのことをイミグレに密告するって言ってきたんですか?」
 「そう、そのとおり。よくわかったね」ですって。感心なんかしている場合じゃないのに‥‥。          ]  
 マレーシア人を配偶者にもつわたしは、比較的ワークパーミットが取得しやすいから、申請して3週間程度の辛抱なんだけど、ふつう、会社のことを知るための勉強にくるでしょ。
 「実沙恵さんがしやべったのね」、
 「いや、彼女にきかなくても、新しく働き始めた外国人がいたら、ほとんどの場合、少なくとも3週間はワークパーミットなしだというくらいは、だれでも知っている。あの大堀さんが知ちないわけがない」。
 「それっておかしくありませんJわたしの夫のことや義父のことをだれが大堀さんに密告したんですか。この会社のだれかに決まっているじやあありませんか」、
 「そうなんだよね。だけど、わたしは言ってないって言われたらそれっきりだものね。警察じゃあないんだから」。
  「じやあ、どうすればいいんですか」、        
わたしはいらいらしていました。
 「ワークパーミツトがでるまで、自宅待機してもらうしかないね」という権田原社長に、
 「わかりました。わたしは義父に相談することにします。わたしはわたしの個人的なことは夫や義父とは関係ないと考えてきました。でも、こういうことがあると我慢できませんし、ほうっておけば夫や義父にも迷惑が掛かります。ですから、今日中に義父に会って、大堀さんという日本人のことと、オオツウという日本企業のことを詳しく伝えて、善処してもらいます」と答えたんです。
ほんと、腹が立つ。
 “あんたも、雇われとはいえ、企業の社長という肩書きをもらっているんだから、もうちょっと毅然とした態度で、まともな対応ができないの”って言ってやりたかった。
でも、サラリーマンってそんなもんなのよね。
 “長いものには巻かれろ”、“君子危うきに近寄らず”、威張れるときには社長の顔、立場が弱くなったらサラリーマンの顔を使い分けるしかないのよね。もうちょっとましだと思ったんだけどな。
やっぱり頼りになるカマちゃん
 「そのう。お義父さんに相談するのは待ってもらえないかな。ぼくから大堀さんによく言っておくから」、権田原社長は顔面蒼白、オドオドしはじめたんです。
 「大ポラのおやじに言ったって、同じでしょ。だれがわたしのことを大ポラおやじに密告したのか調べて、火元を絶たなきゃ、また同じことがあると思いません?社長だって言ったじやありませんか。あの人たちはあることないことをでっち上げて放送局みたいにしゃべって歩く人たちでしょう。なんでこっちが下手にでなきゃいけないんですか」。 
 「きみが怒る気持ちはよくわかるよ。とにかぐぼ<に任せてくれないか。悪いようにしないから」って平身低頭。
あ一あ、こんなサラリーマンと結婚しなくてよかった。いろいろあるけど、カマちやんのほうがずっとましよ。あのすけべお義父さんだって、こうなってみると頼り甲斐があるし、貫禄もあるし。でも、啖呵を切ってはみたものの、あのお義父さんにイミグレやら大ボラさんやらオオツウをやっつける力なんてあるのかしら。そんなことができたら、この国はちよっと問題があるわね。
 家に帰り、カマちやんに今日あった出来事を話しました。
カマちやんは、
 「よくいるタイプだね。能力もないし、他人から信頼されてもいないのに、能力があって、人脈があるって自慢するのは、ぼくたちだけかと思ったら、日本人でもいるんだ。イミグレの役人にはぼくから言っておくよ。この種の日本人は、この国の役人は金さえだせばなんでも言うことをきくって考えているみたいだけど、きちんとした役人のほうが多いんだよ。日本だって同じだろ。とにかく、あの大堀ってやつには叱るように言っておくから心配しないでいいよ」ですって。
へ―、カマちやんって、意外に頼りになるんだ。
「こんなこと、おやじに言ったらかわいそうだよ。ぼくの親父は大の日本びいきだから、日本人はみんな誠実で、勤勉だと信じているんだ。密告屋なんていることを知ったら、ショックで寝込んでしまうよ」だって。
 翌日、わたしは会社を休みました。
権田原社長とSさんから電話がありましたが、 「お話したくはありません」って冷たく突き放しました。夕方、なんと密告屋に密告した実沙恵さんから電話がありました。
 「ねえねえ、知ってる。大堀さん、イミグレに呼ばれて、えらい怒られたみたいよ。なんか悪いことしたのかな。知ってたら教えて」ですって。            
なんなのこの人。悪気もなにもなしに、ただ他人の噂話を聞いて、しゃべって、得意になっているだけなんだ。
 「実沙恵さんも気をつけたほうがいいわよ。同じ仲間だと思われているかもよ」って言ってやりました。
 「え―っ。ウッソー」ですって。
なんだか、ばかばかしくなってきました。
稿は日馬プレス第188号(2000年10月16日)に掲載されたものです。
 
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