| ならぬ堪忍、するが堪忍 |
イミグレ事件のあった翌々々日の朝、憤懣やる方ないまま休暇というか自宅待機というか、とにかく自宅で「オオツウを辞めてしまおうか、がまんしていようか」と悩んでいるわたしに、実沙恵さんから電話がかかってきました。
「ねえねえ。知ってる。昨日、わたし宗教警察の取り調べをくらったの」。
知っているわけないじやないの。
「あんたが取り調べをくらおうが、逮捕されようがわたしには関係がないでしょ」って言ってあげました。
「ところが関係あるのよ。あなたのことで調べられたのよ。どこから嗅ぎつけたのかしら、あなたがSさんと不倫してるんじゃないかっていうのよ。それで証言しろっていうの。わたし、そんなこと知らないし、そんなことできるわけないでしょ、って言ってやったわ。だから、安心していいのよ」ですって。
クワッ!またかよ。しつっこいったらありゃあしない。
大ボラの奴、宗教警察にまで行って、事件をでっち上げやがった。上品に生まれ育ったわたしなのに、どんどん品がなくなってしまうのよね。
「そお。ありがと。知ってる。あなたみたいな人のことをマッチポンプっていうのよ」、強烈な嫌みを言ってあげました。
「えっ。なんなのマッチポンプって」、ぽんと、この人はこんなことも知らないんだ。
「あなたのお友達の大堀築造さんにきいてみれば?」って、勢いで言ってしまいました。
だって、実沙恵さんが大ポラにあることないことをペラペラしゃべるから、大ボラは「これで小百合をやっつけよう」って、手をかえ品をかえてしつこく仕返しをしてるんじゃない。大ボラが仲間のマレー人を使って密告させたにきまってる。 だいたい、あの手の連中はマレーシアの警官とかイミグレとか役人とかを馬鹿にしていて、「金さえ渡せばなんでもやる」、「密告すれば、ろくに調べもしないで捕まえる」って考えているんだから。
だいたい、日本の警察だって腐っているじゃない。
どっちがやくざだかわからない大阪府警の警察官だとか、日本中の非難を浴びた神奈川県警だとか、十年以上も拉致されていた女性が見つかったのに、麻雀をしていてほっぽらかしてしまった新潟県警とか、少年がいじめグループに拉致されて拷問をうけていると言う親の訴えを、犯人のいじめグループに警察除部の子供がいるらしいので真剣に捜査をしなかった栃木県警とか、若い女性がストーカーに脅迫されて生命の危険を訴えていたのに無視して、女性が殺されるまでほうっていた埼玉県警とか、いくらでも不祥事があるじゃない。
イミグレだって、警察だって、宗教警察だって、大ポラごときが考えているようないい加減な組織じゃあないんだから。密告があっても、きちんとした証拠を見つけて、証人を捜して、犯罪を立証できなければ、相手にするわけがないじやない。
Sさんとは、歓迎会を除いては会社以外では会ったことがないし、会社内でもカマちゃんやらお義父さんのことをしつこく聞かれたことが記憶の中にわだかまっていてとくに親しく話をすることはないんです。だれに聞かれたって後ろめたいことはなんにもないのに、実沙恵さんったら自分が相手にされないもんだから、「たぶんね」とか、「きっとね」とか言って、適当に想像して大ボラさんに話したんじやないかしら。大ポラさんって、親しそうに話しながら、いろんな人や会社の弱みをキャッチしておいて、それを武器にするのよね。
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| サラリーマン社長はあっけらかん |
わたし、会社に行き、権田原社長に抗議しました。
「宗教警察はきたけど、なにもありませんでしたよ」って、権田原社長はケロツとしているんです。
「そんなことはあたりまえです。だれがなにを言って、それを聞いただれがなにをしたか、社長はわかっているでしょう。そのすべての責任は社長にあるんじゃないんですか」、
今日という今日は断固たる返事をもらうつもりでした。
「自分を馬鹿にした人や、惚れているのに相手にしてくれない異性を、ありもしない話をでっち上げて密告してくる連中がいる。今回もそのケースだろうって宗教警察は言ってたけどね。密告した奴は、逆に犯罪者として扱うって帰ったから、少なくとも大堀さんは大目玉を喰うんじゃないかな」ですって。
「大堀さんが宗教警察に大目玉をくうのは当然だと思います。でも、大堀さんにああいう行為をさせたのは、権田原社長が大堀さんや実沙恵さんを野放しにしていたからだと思います。社長がおれは第三者で関係がないというのはおかしいと思います」、はらわたが煮えくり返っていました。
「だから、こんなことがあったら、大堀さんは二度とこの会社には来ないんじやないかな。それでいいじやないか」。
最低!わたしの神経はプッツンと音を立てて切れていました。
「わかりました。わたしはこれこれこういうことがありましたと、本社の社長宛に手紙をだします。それから、『日馬プレス』に相談します」ってやってしまったんです。
権田原社長はどうしていいかわからないって顔をしていました。というより、なんでわたしが怒っているのかが理解できないようでした。
「それは困るよ。どうすればいいのかね」、
「それを考えるのがあなたの仕事でしょ。肩書きは社長なんだから」って言つてしましました。
自分が、引き返すことのできない境界線を越えてしまったなと感じていました。
せっかく採用が決まった会社なのに、小百合の人生はなんて不幸なのかしら‥‥。 |
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| 怒ってみても、損をするのは現地採用 |
『日馬プレス』に行ってWさんに事情を説明して、「どうしたらいいでしよう」と聞いてみました。
「そういう問題を『日馬プレス』に言われても困ります。こう いう民事的トラブルは基本的には個々に解決するのがいいと思います。個人的に知恵を貸す程度のことはできるとは思いますが‥‥」と、Wさんは冷たい反応でした。
Wさんは反権力的な発想をするから、こういう理不尽な目にあったら味方になってくれると思っていました。
「大堀さんねえ。あの人は人の揮で相撲をとっているのを忘れて、会社の金を使い込んだり、山っ気のある仕事に手をだして失敗したりしては、悪いのはあの会社だ、あいつらだって思いこんじゃう質(たち)でね。髭をはやしたり、豪快な笑いかたをしたり、思慮深そうな表情をしてみせたり、スポーツ・グループの幹事をしたりして男っぽさを表にだしているけど、典型的な女性的性格の持ち主でね」
「そんなことは知っています。わたしが腹をたてているのは、権田原社長の軟弱なサラリーマン根性なんです」。
「怒る気持ちはわかるよ。だからといって、そんなことを『日馬プレス』でとりあげたら、私的制裁裁判所になってしまう。
次はだれの番だってことになちゃうでしょう。わたしたちは警察でも、裁判官でも、神様でもないんだからね」、
「なあんだ。Wさんも権田原社長と同じなんだ」、
「いや、きみの立場を考えて言っているんだ。冷たい言い方だけど、
きみは現地採用だろ。きみが権田原社長をいくら批判したって、権田原社長は日本に帰り、きみが会社にいられなくなるだけでなんにも変わらないんだよ。訴えたきみのほうが悪者にされちやうよ」。
そうなのよね。
「きみの主張が間違つていないということはわかるけど、それが日本の会社にとって、あるいはサラリーマンにとって正しいということじゃあない。彼等にしてみれば、きみは価値観が違う人種、つまり、現地採用社員なんだよ」。
「そうですね。現地採用って、日本企業には使い捨ての割り箸ていどの存在なのかしら」、
「そうとは限らないでしょう。会社の考え方や本人の能力次第、波長がうまくあえば会社にとって日本からくる駐在員より大きな存在になれる可能性はあると思いますけどね。まあ、そんな人はきわめてマレでしょうね」としらっとして言うんです。
「どうせ、わたしなんか割り箸ほどの使い道もないかもしれないからしようがないわね」、
なんとなく自信がなくなつてきました。
「会社側は日本人だからってだけで雇うこともあるし、ちょっと可愛い女性だったら大歓迎という日系企業も幾つかあるんだよ。パンチラセールスとか、飾り窓セールスって言ってね。コンパニオン兼セールスみたいなもんだな。日本の若い女性に飢えている日本人ピジネスマンを口説くにはこの方法が一番なのさ。会社側は売り上げが上がればいい、日本人女性とすれば日本企業で働ければいいと考えているからちょうどいいんだ。それが現地採用だと思えば、諦めがつくでしょう」ですって。
所詮、わたしは日本人だから、若くてちよっと見掛けがいい女の子だったから雇ってくれたんだ。
なあんだ、いや、やっぱりか。 |