わたくし小田島小百合の『どうせわたしはマレーシア人の妻、現地採用』を復活するにあたって、前回のように「物語に登場する人々のモデルがだれか?」皆さんの世間話の種になるのは困るんです。
皆さん。「あれはだれだ」なんて気にしないで、「(この国の日本人社会では)よくある話だね」と笑い飛ばしてください。間違っても「あれは俺(わが社)のことだろう」なんて思わないでください。
前回書いていたときに登場した駐在員の皆さんは、ほとんど日本に帰ってしまいました。危ないなと感じていた人たちもほとんどいなくなってしまいました。危ない人でも、わたしたちに「へーっ」ていう話題を提供してくれる人だったんです。わたしは直接脅されたわけでも、迷惑かけられたわけでもないので、ガッツ石松さんの言動のように思いがけないことをやってしまう彼等を身近に感じていました。「なんで、いなくなっちゃったの?さみしい」。もしもこの物語をよんでくれたら、メールでお便りくださいね。 |
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| 旅行ガイドブック『地球を歩いてみよう』で大騒ぎ |
5、6年前、ペナンに旅行したときのことです。『日馬プレス』の渡辺社長に「ペナンでは頭文字Aに気をつけろよ。旅行者をだまし、日本人社会を脅す悪い奴等だから」と聞いていました。
日本で若者に人気の旅行ガイドブック『地球を歩いてみよう』に「ペナンを旅行中に困ったことがあったら、ボランティアで旅行者のアドバイスをしてくれるこの人に相談しよう」というコラムがあって、「穴刺勝広さん・電話番号」と書かれていたんです。この年の『地球を歩いてみよう』の取材の手伝いをした渡辺社長に、『地球を歩いてみよう』の取材記者から電話で「穴刺勝広さんを紹介してくれたのは、渡辺さんでしたよね」という問い合わせがあったんですって。渡辺社長は「わたしが協力したのはクアラルンプール周辺だけで、ペナンに関係ないのはあなたも知っているでしょう。わたしは穴刺なんて人鋸とは知りませんし、一度も会ったこともありません」と答えたそうです。「それで、何がったのか調べてみたんだ。そしたら、この穴刺って奴は日本人旅行客の多いホテルのロビーやレストランにたむろしていて、日本人をみると声をかけて「日本人は金持ちに思われているらしくて、法外な値段を吹っ掛けられたり、だまされたり、狙われやすいですからね。わたしは日本人がだまされないようにボランティアで皆さんのお世話をしているんですよ」などと近付いて、親切ごかしにオプション旅行や飲食、ホテルの世話をしては法外な利益をむさぼっている「旅行者ゴロ」だということが分かったと言うんです。
「こいつはね。北関東の某大物代議士の私設秘書だったらしい。なぜかペナンにコンドミニアムをもっていてね。想像がつくだろ。日本にいられなくなったのさ。ペナンの観光業界にくわしくなって、ちょっと欲の深いガイド(今はいません)と組んで日本人に不動産や車を売りつけてもうけているらしいよ」・「でも、旅行業者とか不動産屋ではないんでしょ」というと、「そんなことを気にするような人達じゃあないんだ。日本の中堅旅行会社の“春夏秋冬社”と組んで、日本からの旅行者を相手の会社を作った阿東三喜男とも親しくってね。阿東は自称やくざで日本人社会の嫌われ者なんだけどね。大企業の支店長や貿易会社などに仲よしがいてね。地元の人達は信じちゃうんだよね。とにかくこの二人は危ない。気をつけたほうがいい」と渡辺社長は言い放ったんです。「あんただって危ないんじゃない?」って言いたかったけど。 |
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| 使い古した食用油で腹こわし |
ペナンには愛する夫のカマルディン、愛称カマちゃんと二人だけの旅行だったんです。カマちゃんの張り切ること張り切ること。旅行費用を出したのはわたしなんだけどな。
思い切ってマレーシア航空に乗って、優雅にペナンに到着しました。ガイドが迎えに着てくれて、ちょっと日本人旅行者に戻った気分。今日の泊まりはタンジュン・ブンガのこじんまりしたホテルです。ベランダから大海原を見下ろすと、心が洗われるみたい。
さっそく、二十台前半に日本で買ったちょっとハイレグの水着に着替えてプールにいこうとすると、目の色を血走らせたカマちゃんが「エエッ!、その格好でいくの。ちょっとセクシーすぎるんじゃない?」だって。「いいじゃない。リゾートにバカンスにきたんだから。なにもビキニの水着を着てくんじゃないんだから」、「ウーン。でも小百合は美人だから、ほかの男達がジロジロみるだろ。心配なんだよ」だって。焼き餅やいているんだ。「ほら、ぼくはマレー人だろ。マレー人の妻なんだから、そこんとこ分かってよ」、「わかってやらない」ってわたしはプールに飛び出していきました。カマちゃんは5分遅れてやっぱり短パン型の水着でプールサイドに。
わたしはお魚のようにスイスイと泳いで、プールの中からカマちゃんに水をかけてやりました。でも、日本人の男性がチラチラ、わたしのほうを見ると、「畜生!畜生」って独り言をつぶやいて。かわいい。
夕食はカマちゃんのリクエストでタンジュン・ブンガのマレー食屋台で豪華ナシ・チャンプー。ちょっと、揚げ魚を口にしたときに舌がピリッとした。このときにやめておけばよかったのよね。屋台では何日も同じ油を使ったりするから要注意なんだけど、バカンス旅行だったんで油断したのよね。酸化した食用油にあたると苦しいのよね。せっかくのリゾートの一夜が強烈な腹痛とトイレではじまったの。同じ物を食べたのに、カマちゃんはなんともなし。「明日は水着になっちゃだめだよ」なんて、妙に安心したようなノンビリしたようなことを言っている。ほんとに焼き餅焼きなんだから。もっと自分に自信をもちなよ。 |
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| 観光地のクリニックには特別料金が |
旅行の手配を頼んだ日系大手旅行会社JK社のガイドに「クリニックに連れてって」と頼んだの。タクシーにのせられてガイドが「ぼくの親しい先生で腕がいいんだ」というクリニック・カルカッタという診療所に運ばれたんです。インド人の先生がでてきて「あなたは日本の旅行保険に入っていますか」と聞くから「JM社に頼んだからこの旅行は入っています」って答えると、目がギラギラしたように見えたんです。
いつもは旅行保険なんて入らないんだけど、JMは大手だし、ペナンにはAのつく悪い人がいるって聞いたから、悪い予感がして入ったんだけど。まさか腹痛で役に立つとは。診察が終わり「たぶん、油があたったんでしょう。下痢止めと痛み止めを出しておきますからね」ですって。わたしの自己診断と同じなんです。窓口で薬をもらって「300USドルです」って言われて頭の中が真っ白に。「キェー!1,140リンギかよ。異常に高いわよ。ほんとうなの?」って聞き返しました。レシートと診断書を書きますから、日本で保険会社に請求すれば返ってきますから安心してください」って受付の女性がしらっとした顔で言うんだもの。クリニックに連れていってくれたガイドも、「どうせ、保険で返ってくるんだから、いくら高くたってあんたに迷惑かかんないでしょ。明日の朝には、往診してくれるように頼んでおきました」ですって。感じ悪い。
その翌朝8時すぎ、ホテルをインド人の医師が往診してくれた。簡単な問診と腹部の触診で3分でお終い。「この薬を飲めばよくなりますよ。お大事に」ってまた150USドルを請求してきたんです。昨日のうちに銀行のATMでお金を下ろしておいたからよかったけど、お金が足らなくなった人はどうするのかしら。
クアラルンプールに戻って旅行会社JMの現地採用社員の近藤さんに抗議の電話をしたの。「同じような苦情が多いんだよね。損害保険会社からも問い合わせがあって、旅行会社が何社かリストアップされているんだ。調査中なんだけど、どうもあのクリニックではガイドやタクシー運転手に“コミッションを払うから患者を送ってきてくれ”って声をかけているらしいんだ。どうせ保険会社が払うんだからいいでしょってことらしいんだ」というから、「それって保険金詐欺の一種じゃない。クリニックが主犯で旅行会社が共犯になっているの?まさか会社ぐるみでやっているんじゃないでしょうね。『日馬プレス』に言いつけるわよ」って厳しく責め立てたの。「どうもうちのガイドも何人かからんでいるらしいんだな。そのガイドの名前を教えてよ。とりあえず支店長に報告して、そのクリニックの利用を中止させるから、『日馬プレス』だけは勘弁してよ」ですって。
でもね。わたしは許せないから、旅行会社JMの名前を出さないことを条件に事件の顛末を話して『日馬プレス』に載せてもらったの。そうしたら、掲載した後にしばらくして、渡辺社長がペナンに行ったときに、偶然“春夏秋冬社ペナン支店”の阿東三喜男にであったときに「うちの会社のガイドたちにはクリニック・カルカッタを使えって言っている。腕はいいんだから、少しくらい高くてもいいだろう。第一、保険会社が払ってくれるんだから、客には迷惑が掛からないんだから問題はないだろう。クリニックのドクターが名誉棄損で『日馬プレス』を訴えると言っている。訴えられたくなかったら、おれが話をつけてやる」って言われたんですって。脅せば、『日馬プレス』から金をとれると思っていたらしいの。「別に、訴えられて困ることはありません。証拠も証人もいますから」って答えたら、阿東さん、すごい勢いで怒りだしたんですって、「缶コーヒーをぶつけられたよ。避けたけどね」。渡辺社長は柔道の先生だからかなうわけがないのに威勢だけはいいのよね。
あとで調べてみたら、どうやらこの事件の裏でドクターを操っていたのは穴刺さんと阿東さんの二人らしいの。小遣い稼ぎをしていたみたい。 |
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| そして、二人はペナンから消えた |
穴刺さんについては『地球を歩いてみよう』をよんで電話をかけてしまってだまされた人が何人もいたらしくて。読者はボランティアでペナンのことを教えてくれる立派な人と信じているんだし、指をくわえて待ち構えていた穴刺さんは「鴨が葱を背負ってやってきた。『地球を歩いてみよう』に感謝、感謝」って感じだったんじゃないかな。だから、『地球を歩いてみよう』に苦情がたくさん入ったらしいの。それで『地球を歩いてみよう』の編集部は慌てて「だれが穴刺を紹介したか?」犯人探しをはじめたらしいわ。
それから、1、2年たって、まず穴刺さんの姿がペナンから消えたという噂が流れてきたわ。タイ南部のハジャイにいるのを見たという噂もあったし、国外追放になったんじゃないかなというのもあった。大きなお世話だけど、穴刺さんが買ったというコンドミニアムはどうなっているのかしら。
そしてその1、2年後、日本の“春夏秋冬社”が倒産して、阿東さんは悲惨な目に遭ったらしいの。でも、すぐに立ち直って、ジョージタウンの一等地で日本レストランをはじめていたんだけれど、噂ではペナンの地元の大物政治家に高額の料金を吹っかけたりして、人が寄りつかなくなってしまったらしくて、やっぱり倒産して夜逃げしたみたいだってみんなが言っていたの。
頭文字Aのつく要注意人物二人がペナンから消えて、あとは『日馬プレス』の渡辺社長の番ね。あの方も名前のイニシャルはAだから。たのしみにしてるの。わたしの心を読み取ったのか、渡辺社長が「俺のことは心配しなくていいよ。三人目のAさんは秋元さんという日本レストランKのシェフ兼支配人でね。こいつも二人のAさんと仲よしで、とくに阿東さんとは仲がよかったね。秋元さんは使い込みをして逃げた前任者の後始末を任されてきたらしいれど、この人も本性はやくざでね。暴力的発想をする人だったね。前任者の評判だけじゃなしに、後任も自称やくざの阿東さんと仲よしでは客足は遠ざかる一方で、阿東さんがいなくなる前に、突然レストランを閉めて消えたんだよ。この逃亡劇に手を貸したのが阿東さんとそのグループで、タイとの国境の山岳地帯を歩いて越えて逃げたという話があったね。嘘かほんとうか知らないけれど」ですって。「類は類を呼ぶ」って本当ね。
頭文字Aの皆さん、ごめんなさい。この三人を除けばみんないい人だと思います。安藤さん、有川さん、別の秋元さん、赤沢さん、わたしの知っているAが頭文字の人はみんないい人です。本当です。信じてください。 |