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#24 |
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日本語の先生になった
わたし |
| 小田島小百合 |
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本当のことを言うと、この前の原稿はちょっと恐怖だったんです。「自分のことを書かれたんじゃないかと勝手に思い込む人がいたらイヤだな」と思っていました。フィリピンやタイほどじゃないけど、マレーシアにも“やくざ”っぽいおじさんたちが何人かいるみたいだしね。
阿東さんて、自称やくざになる前は大手電気メーカーH社の社員だったんですって。うそかほんとか分からないけど、H社といってもあちこちに支店や工場があるからいろいろいるんでしょうね。
国境の山越え脱出をした日本レストラン『矢車屋』の責任者は前任者時代の借金の整理が主な仕事だったらしくて、仕入れ先を怒鳴りつけては買掛金の減額を強要していたらしいわ。『日馬プレス』もやられたって、渡辺社長がいっていたわ。「阿東さんと親しくしていたから、二人でタッグを組んでいたんじゃないの」ってのが社長説。『横車屋』とか『矢久座屋』って名前にすればよかったのに。『矢車屋』のオーナーって日系企業の経営者だったらしいけど、どうなってるのかしら。『矢車屋』の店はそのときのまま廃墟になってお化け屋敷みたいなんですって。 |
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| 恥ずかしいけど、日本語の先生になったわたし |
そう、わたしは今はペタリンジャヤのある語学学校の日本語の先生をしているんです。日本人向けの学習塾とか語学学校の先生って外国人が多いんだけど、ワークパーミットがとりにくいらしいの。それでマレーシア人と結婚したわたしみたいな人がビザがとりやすいので白羽の矢が立ったわけ。
でも、日本語を教えるってたいへん。わたしは日本人だから一応日本語の読み書きはできるけど、とくに国語の成績がよかったわけではないし、漢字だって難しい単語の意味だってわからないのが多いの。それに、わたしたちのしゃべり方って特徴があるじゃない。会話を尻上がりしたり、「そうかもね」とかいう独特のしゃべり方をするじゃない。言葉の意味とか文法とか関係なしに話してるから、お父さんの世代の人たちからは「そんな話し方は日本語じゃない」ってよく叱られたもの。
それに他人にものを教えるって難しい。自信がなくてドキドキしてると生徒達に伝わって教室がメチャメチャになっちゃうの。意地の悪い生徒に「先生。イントネーションがまちがっています。先生の話し方は標準語ではありません」って指摘されてガックリくるの。でも、そういう生徒ってできる子でしょ。しばらくすると別のレベルの高い語学学校に移ってしまうの。わたしに教わるより、そっちのきちんとした指導力のある先生に教わる方がいいにきまっているわ。無責任だけど。
ほんとうのことをいうと、わたしなんかいい方よ。もっとひどい先生もいるもの。他人のこと言えないけど、よく恥ずかしくなく日本語の先生をやっているって感心する人もいるもん。
でも不思議よね。日本でもアメリカ人やイギリス人、オーストラリア人たちが英語の先生をしているでしょ。みんながみんな英語や英会話の先生の資格をもっているわけじゃないのよね。学生時代の成績や英会話教師としての実績もわからないし、それでも、アメリカ人、イギリス人、オーストラリア人ってだけで信用しちゃうの。海外にある日本語学校も似たようなものなんでしょうね。日本人なんだから、正しい日本語をつかうことができる。生徒に日本語を教えることができると思い込んでいる人たちがいるのよね。
もちろん、きちんとした語学学校もあるわ。わたしにはそういう語学学校で働く資格もないし実績もない。まじめに日本語を勉強している生徒には、内緒で「××語学学校に移る方がいいわよ」って教えてやりたいくらい。もちろん、そんなことわたしは生徒には教えてあげない。だって「わたしみたいな先生が教えている学校なんてきちゃダメ」なんて言えないもん。
わたしの友達の加古純子さんは、Tという日本の大学を目指している人のための語学学校で先生をしているんだけど、彼女は翌日の授業のために予習をし指導計画を立てるのに毎晩2時間も3時間もかけているんですって。授業のあとは生徒の反応や自分の反省をレポートしておくんです。「偉いわね」って言ったら、「だって、それがふつうでしょ」ですって。資格も実績もある彼女がうらやましい。
わたしはカマちゃんとの生活をしていくために、恥をしのんで日本語の先生をしているの。まあ、なれてきて、実績をつめば、そのうち、まともな先生になれるんじゃないかな。それまでの生徒にとっては申し訳ないと思うけど、がまんしてね。
語学学校には英語を習いにきている中国からの留学生がすごく大勢いるの。きたばかりの頃は、泥臭い、いかにも中国人の若者って感じだったのに、2、3ケ月もするとジーンズにTシャツ姿も様になってきて男女のカップルができたり、仲よしグループができて、勉強に集中する人たちと、遊びに走ってしまう連中とにわかれてしまうの。中国から留学でくるって、きっと実家がお金もちなのよね。共産党の幹部の子供だったり、役人の子供だったりするんでしょうね。親たちが賄賂で稼いだお金できている学生も多いんでしょう。ようするに、国に帰ればお金もちのお坊っちゃんとお嬢ちゃんたちなんだよね。
そのせいなのか、民族性なのか、自分の身の回りはきれいに整理整頓するくせに、廊下や階段、学校の外ではゴミでもなんでもすてほうだい。汚すのをなんとも思ってないの。道路では数人で横に広がって歩いていて、車がきてもよけない。クラクションがなると、運転手をにらみつけてすごいの。一人だとおとなしい、気の小さい子なのに、人数が多くなるととたんにやくざになっちゃう。蛇頭の予備軍みたいのも何人もいるの。地元の人と喧嘩になって、帰国させられた生徒もいるわ。
日本人の生徒もけっこう大勢いるわ。「英語を習いにマレーシアにやってくるのはなぜ?」って聞いたら、「イギリスの植民地だったからきちんとしたイギリス式の英語が勉強できるし、生活費がやすいから」ですって。学校ではともかく、マレーシアでの日常生活で耳にする英語はマレーシア英語、つまり、マングリッシュでしょ。 |
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