わたしの日本語教師としての評判はあまり悪くはないようです。もちろん、わたしの実家では最悪ですけど。
ある日のこと、わたしの夫のカマルディンこと、カマちゃんが「小百合さん。今日、ぼくの友達のイミグレの役人から電話があって、10年位前に、ワークパーミットなしで働いていてイミグレに拘束された河本という60代後半の日本人男性が、今度はマレーシア・マイ・セカンドホーム・プログラムのビザを申請してきたけど、大丈夫かなって言ってきた」と言うんです。
イミグレの記録によれば、というより古参職員の記憶によれば、自動車の修理工場を経営していた石村というビジネスマンからの密告でイミグレが拘束したらしいの。河本さんはもともと石村さんの会社で働いていたらしいんだけど、喧嘩別れして、マレーシア人の技術者と一緒に独立して、商売がたきになっちゃたのね。それを恨んで密告したみたい。そうしたら、イミグレの上層部のほうからある日突然「釈放しろ」という指示があって、釈放になったっていうの。
それからしばらくして、今度は石村さんの経営していた床屋に日本から技術指導のためにきていた若い女性が、ワークパーミットなしで働いていて逮捕されてきたんですって。こんどは河本さんの筋からの密告ですって。このときも二、三日で女性は釈放。「どうなっているんだ。日本人同士で密告ごっこかよ。おまけに、どっちも天の声で釈放。なんてこった」とイミグレ中の評判になったらしいわ。
石村さんは、イミグレや警察では密告者としてけっこう有名だったみたい。石村さんは中国四千年の伝統を誇る『民間と官僚を密接にする妙薬』の処方がとっても上手だったらしいわ。訴えるときも、訴えられるときも妙薬をつかうもんだから、イミグレや警察では人気者だったみたい。
クアラルンプールに十年以上前からいる人に聞いたこわーい話があるんです。銀座に本店がある有名な女性洋品店の責任者だった尾上さんという男性がカラオケラウンジの女性に入れ揚げて、店の金を使い込んだらしいの。それが本店にばれて、尾上さんは解雇処分。あたりまえよね。店の経理の調査と立て直しにシンガポールから二人日本人社員が飛んできたんですって。そうしたら尾上さんたら、石村さんに頼んで二人の日本人社員を「ワークパーミットなしで働いている」ってイミグレに密告したの。二人は捕まって国外退去になったらしいの。もっとも、尾上さんもカラオケラウンジのあるビルの中に自分で店をはじめたけど、長くはつづかなかったらしいわ。だって、イミグレに密告した話は大勢の人が知っていることでしょ。自分の気に入らない相手を国家権力に密告する人のなっている店に誰もいかないでしょ。飲み仲間と密告仲間、それと何にも知らない人しかこないでしょ。 |
| |
| 運転免許も金で買った密告屋さん |
河本さんだって、似たようなもので、自動車の修理屋をはじめたのに運転免許がない。困ったというんで、現地人の技術者にたのんで、JPJに手を回して運転免許を試験なしでとったらしいの。「××リンギかかったよ」とか「あいつ(=現地人の技術者)のコネクションはたいしたものだ」ってあちこちで自慢していたらしいわ。「マレーシアでは賄賂をつかえばなんでもできる」と信じているのよね。「マレーシアが好きだ」と言いながら、マレーシアを馬鹿にしているのよね。聞いてて、腹が立ってきたわ。
カマちゃんが言うには、「あの当時は、そんな不正もあったらしいけど、今ではイミグレもJPJもコンピューター化して、きちんとした仕事をしてるよ」と言ってたわ。うん、学校関係は時間がかかるけど、わたしの友達に聞いたら、申請してからワークパーミットがでるまで、1ヶ月もかからなかったという人がほとんどだったから、マレーシアのお役所の近代化はすすんでいるのよね。日本の社会保険庁とか、道路公団とか、NHKとか、大阪市役所の堕落ぶりにくらべたら、ずっといいわ。
その河本さんがクアラルンプールにもどってきたらしいの。イミグレだって、一応、ブラックリストにある名前だから調べたみたい。今度は機械の修理工場を天田という口元のゆがんだ胡散臭そうな四十前後の男性といっしょにやっているんですって。マレーシア・マイ・セカンドホーム・プログラムのビザを申請しながら、営業やら、日本から中古機械や部品の輸入の仕事しているらしいわ。「60代後半だからな。拘束したら、拘置所でポックリなんてことになって、国際問題になっちゃうとなずいから、見て見ぬふりをするしかないみたい。
でも、この修理工場の名前が笑っちゃうの。ペナンでつぶれたままになっている日本レストランと同じ名前なの。“鞍馬”なんて、おしゃれな名前がついているの。偶然みたい。でも、わたしの記憶でも、人脈的には、間に二人か三人入るけどつながっているらしいわ。勘ぐりすぎよね。つぶれた日本レストランの名前だって知ってたら、そんなのをつかうわけないもの。
片一方の密告屋さんの石村さんはもういないから、石村さんが密告することはないでしょうけど、河本さんは問題よね。イミグレの職員の間では、「気分が悪くなるから、じっとしていてほしいよな」って言っているらしいわ。河本さんみたいな人たちは若い人を見ると、「ワークパーミットはもっているの?」ってさりげなく聞くの。「もってない」とか「申請中」って答えると、「おれはイミグレの××と親しいから話してあげようか」って親切ごかしに言うらしいの。うっかりたのむと「おれがあいつのビザをとってやった」って自慢して歩くし、うっかり断ると密告されかねない。この人たちは、ちょっと金になりそうだと思うと、ダボハゼ見たいに食いついてくるのよ。よくいるわ。
「でも、いくら修理工場だからって日本人が二人、ワークパーミットをとって、もう一人が河本さんだろ。給料の高い日本人が三人もいて、やっていけるのかな?」ってカマちゃん。そうねえ。ふつうのやり方ではたいへんよね。でも、この人たちは、ふつうじゃないから、何が何でも金儲けをたくらんでいくんでしょうね。 |
| |
| だますのが得意な人たち。だまされるのが得意な人たち |
そう、自動車の修理をする工場で働いている技術者たちはまじめな人が多いけど、営業で歩いている日本人には気をつけなきゃね。ソフトボールと野球が得意で、その関係者をだましては修理代数千リンギとか、中古車を売って2万リンギもうけたとかいう人がいたわよね。取り引きは会社の名前で、金銭の受け渡しは個人でやって、差額をポッケにいれてしまってたらしいわ。ソフトボール関係のだまし屋さんはほかにもいるのよね。旅行業界ブラックリスト日本人第一号の泡田さんはソフトボール。こっちは駐在員や自営業の人たちをだますのが専門だったみたい。
『日馬プレス』の渡辺社長によれば、「だまされやすいのが公務員の皆さん。社会性に乏しいというか、人を疑うってことを忘れちゃうんだよね」ということらしいわ。
でも、渡辺社長はソフトボールとかバレーボールのグループにえらい偏見をもっていて、ぼろくそなの。「だいたいあの連中はルールは守らない。、マナーは無視する。あんな奴らにスポーツをやる資格はない」っていうの。それはさ、スポーツというのはルールとマナーがあって成立するものだという社長の考え方は正しいけど、大学のスポーツ選手たちが集団で未成年の女性をもてあそんだり、電車の中で痴漢行為をしたじゃない。最近ではラグビーの日本代表のコーチとか選手たちが別々に、全員六本木で逮捕されたじゃない。「あんなもんでしょ」っていったら、「野球とかサッカーとかラグビーとかで問題を起こすのは、歴史や伝統のあるいわゆる名門チームじゃなくて、新興勢力が多いんだよね。それにそのスポーツ以外には何の知識も経験も必要ない、動物的本能だけを鍛えてきた連中だからね。そいつらが集団でいれば何をするか分かったもんじゃない」ですって。
何があったか知らないけれど、渡辺社長、相当重症でしょう。なにしろ、気がつくと日本人会の味方になってるの。あんなにKLの日本人会のことを毛嫌いしていたのにね。信じられる?
「だいたい、日本人学校の施設でソフトボールとかバレーボールがやりたいんなら、まずルール通りに日本人会に入ればいいんだ。会員じゃないメンバーが30%も40%もいるんだからお話にならない。おまけに、日本人会の会員じゃない奴にかぎってメ日本人会に入っても何のメリットもないモなんてほざくんだぜ。月に一回ソフトボールやバレーボールがたのしめて、友達ら知り合いがいっぱいできて、個人的にも仕事の上でも役に立っているじゃないか。偉そうな顔をして、日本人会に入らないのが格好いいなんて思っているんだ。もぐりでやっているんだから、目をつむっている日本人会の悪口なんて言わなきゃいいんだ。あいつらはルールは守らない。マナーも知らない。ほんとうに性質の悪い連中だよ」ってわたしに向かって激昂しだしたの。わたしに怒られても困っちゃうわ。
渡辺社長もわたしも日本人会には入っていないんだから、怒らなくてもいいじゃない。
でも、たしかにそう。「日本人同士でつるむのはダサいよ」っていう若い日本人男性にかぎって、日本人とだけでゴルフをして、日本人と飲んだり食べたりしているのね。
とはいえ、渡辺社長も大人気ないわね。 |
| |