Election Day
国際交流基金 滝口 健
 
 マレーシアの現代演劇は、多様な民族構成を背景にして、様々な言語やスタイルが入り乱れる魅力的な世界です。今回ご紹介する作品は、「Election Day」。マレーシア唯一の総合パフォーミングアーツ賞であるキャメロニアン・アーツ・アワードにおいて生涯功労賞を受賞したマレーシア演劇界の重鎮、Krishen Jitが演出、同じく昨年の最優秀俳優に選ばれたJo Kukathasが出演するという、豪華な顔合わせになりました。
 物語の舞台は1999年に実施された前回のマレーシア総選挙の日。野党の選挙支援をしている3人の若者の1日が描かれます。1人がガールフレンドと喧嘩をしたことをきっかけに、3人のルームメイトの隠された過去が明らかになっていきます。でも、何かがおかしい。何かが食い違っている・・・。選挙の夜が明け、与党連合の勝利が宣言される中、物語は意外な終局を迎えるのです。
前半は野党の選挙事務所に詰めた主人公たちの奮闘がコミカルに描かれます。対抗する与党の運動員の様子や(投票所に向かう人たちに若い女性運動員が日傘をさしかけるサービスとか)、町中に政党の小旗が張り巡らされた様子など、99年の選挙の様子を見たことのある人なら思わずにやりとするような小ネタがちりばめられています。
 後半は打って変わってサスペンスの横溢する展開となります。徐々に明らかになる登場人物の過去。時折挿入される選挙結果を知らせるラジオ放送が緊張感を増幅します。野党連合の敗北が明らかとなってくる焦りの中、明かされる話はどこかが間違っているという不安感。主人公(と観客)の混乱は頂点に達します。
 
 Jo Kukathasは、この3人の主人公を一人で演じるという難しい役割を見事にこなし、彼女がマレーシア現代演劇を代表する才能であることを実証しました。しかし、それ以上に感銘を受けたのはHuzir Sulaimanによる戯曲のすばらしさです。
 Huzirは弱冠30歳で既にマレーシアを代表する劇作家として評価されています。最近はシンガポールに拠点を移し、新作の発表ペースが鈍っていますが、この「Election Day」を発表した99年頃はきわめて積極的に作品を発表しており、まさに「売り出し中」の勢いがありました。実は、今回の作品は検閲により多くの改変を余儀なくされていますが、それにも関わらず十分に楽しめる内容となっているのは戯曲の骨格がしっかりしていることを逆説的に証明しています。
 
 昨年より、Huzirの作品の再演が徐々に行われています。彼自身も出演した「Atomic Jaya」、今回の「Election Day」に続き、いくつかの作品の再演が準備されていると聞いています。また、彼の戯曲集「Eight Plays」がSilverfish Books(www.silverfishbooks.com)より出版されています。「Election Day」のオリジナルバージョンも収録されていますので、今回の作品と比べてみるのも一興かもしれません。
 
「Election Day」2月12日〜29日
於アクターズ・スタジオ・バングサ
 
<本稿は日馬プレス第269号(2004年3月1日)に掲載されたものです。>
     
 
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