BOHキャメロニアン・アーツ・アワード
国際交流基金 滝口 健
 
 3月5日、第2回目を迎えたBOHキャメロニアン・アーツ・アワードの授賞式がマンダリン・オリエンタルホテルでおこなわれました。この賞は、マレーシアで唯一の総合舞台芸術賞として昨年設立。インターネット上で舞台芸術情報を配信しているKaikseni.comが主催し、紅茶で有名なBOH社がメインスポンサーになっています。
 式典の合間にはマレーシアを代表するパフォーマー達によるパフォーマンスが繰り広げられました。また、プレゼンターにはMarina Mahathir(マレーシアAIDS協会会長、マハティール前首相の娘)やJames Wiseオーストラリア大使といった著名人、昨年の生涯功労賞受賞者であるKrishen JitやFaridah Mericanなどの演劇界の重鎮、さらに人気テレビシリーズ「Kopitiam」のJoanna Bessyやジョディ・フォスターが主演した映画「アンナと王様」にも出演したPatric Teohなど、多彩な顔ぶれが揃いました。
 昨年に比べて賞のカテゴリーも増え、規模は大きくなりましたが、授賞式の雰囲気はそれほど変わらないように思われました。昨年の授賞式にたまたま出席された、日本の著名な劇作家・演出家である平田オリザ氏が、帰国後ある雑誌に「会場は既に舞台関係者の熱気でお祭り騒ぎのような状態だった。・・・私はこれほどアットホームな雰囲気の授賞式をみたことがない。会場の誰もが、自分たちの活動を評価する賞が、この国に初めて生まれたこと自体に誇りと喜びを感じていた」と書かれていましたが、その熱気は今年も健在であったといえるでしょう。
 
 演劇部門では、ベスト・アンサンブルとオーディエンス・チョイスにAlang Rentak Seribu(国立劇場作品、マレー語)、ベスト・ソロパフォーマンスにAnne James(Five Arts Centre作品「5 Ten」、英語)、最優秀演出にLoh Kok Man(The Actors Studio作品「a play with no title/untitled」、中国語)が選出されました。これら主要部門をマレー語、英語、中国語の作品で分け合ったことは非常に興味深いことです。
 日本ではそんなことはありえませんが、マレーシアでは言語によって演劇のグループもそれぞれ分かれています。我々外国人に、もっとも親しみやすいのは英語劇だと思われますが、マレーシア人にも人種に関係なく広範な支持を集めています。バングサ・ショッピングセンター内にあるThe Actors Studioは、英語劇団の多くが公演をおこなう本拠地となっています。ただ、英語劇団には政府からの補助はほとんどないため、スポンサーの獲得などで資金を調達している劇団がほとんどです。
 これに対し、マレー語劇団は芸術文化観光省からの支援を受けやすく、国立劇場やマレーシア観光センター(MTC)といった政府系の劇場を使いやすいという利点を持っています。かつては国立劇場でもバングサワンなどの屯統演劇が上演されることがほとんどでしたが、最近は受賞作、Alang Rentak Seribuのような現代劇も多く上演されるようになってきました。
 
 中国語劇団はこれら3グループの中ではもっとも難しい立場にあるといえるでしょう。政府からの支援はあまり期待できず、観客が中華系に限られることからスポンサー獲得も容易ではありません。その中で、今回受賞したLoh Kok Manのように、フィジカルな動きを強調した作品を作っているグループや、惜しくも受賞は逃しましたが、チェーホフの作品を再解釈してノミネートされたKiew Suet Kimなどが注目されます。
 かつてはこれらのグループ間の交流はほとんどなかったということですが、近年、若手を中心にこうした壁を打ち破っていこうとする動きが現れています。また、英語劇団の本拠地であるThe Actors Studioが積極的に中国語やマレー語の演劇をプロデュースしたり、国立劇場が英語やタミル語の演劇を上演したりするといった動きも出てきています。こうした動きが広がっていくと、また面白い展開があるかもしれません。
 
 余談が長くなりました。キャメロニアン・アーツ・アワードはまだ若い演劇賞で、選考方法などに対する批判も数多くあります。演劇人の中でさえ、評価する声と否定する声が入り混じっている状態ではあります。ただ、個人的には、年に一度こうした特別な日があってもいいのではないかと思うのですが。私にとっては、制作に一部携わった作品、「Rashomon」がノミネートされた4部門(照明、セット、音楽、衣装)全てで受賞しましたので、この夜は素晴らしい夜になりました。この作品は、6月に国立劇場で再演されることになっています。是非ご覧になってみてください。
 2004年の審査も既に始まっています。自分が気に入った作品が受賞するかどうかを見るのも、こうした賞の大きな楽しみです。劇場に足を運び、お気に入りの作品を見つけてみてはいかがでしょうか。
 
 最後に、宣伝をひとつ。国際交流基金クアラルンプール日本文化センター主催公演、「Lightology」がThe Actors Studioにて3月20、21日におこなわれます。日本を代表するパフォーマンス・グループのひとつ、「時々自動」による不思議な世界。是非お出かけください。
3月5日
於マンダリン・オリエンタル・ホテル
 
<本稿は日馬プレス第270号(2004年3月16日)に掲載されたものです。>
     
 
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