A Man For All Seasons
国際交流基金 滝口 健
 
 「〜周年」というのはやっぱりめでたいものです。
  それが紆余曲折、多くの困難を乗り越えてのものならさらにうれしいものになるでしょう。
 The Actors Studioの15年間は、まさに文字通り、幾多の困難に立ち向かってきた歴史といえるのではないでしょうか(そのあたりについては前号のFaridah Mericanさんへのインタビューに詳しかったですね)。15周年の節目に当たり、彼らが記念上演の演目として選んだのは、英国国教会成立期を背景に、自らの宗教観・理想に殉じたサー・トマス・モアの姿を描いたロバート・ボルトの古典、「A Man For All Seasons」でした。劇団創設のごく初期に上演した作品の再演となったこの作品は、過去へのトリビュートでありながら、新しいActors Studioの姿をも示すものとなっていました。
 過去とのつながりは、照明デザインにMarvin Petersを起用したことに端的に現れています。かつてマレーシア演劇における照明の第一人者として活躍した彼は、現在はマレーシア・フィルハーモニック・オーケストラのマネージャーとして活躍しており、ほとんど照明の仕事をしていません。しかし、Actors Studio代表にして今回の作品の演出を手がけているJoe Hashamとの交友は絶えておらず、今回の出馬となりました。一切奇をてらったことをせずに的確に効果を出す手法はまさに職人芸です。
 
 これに対し、キャスティングは一新され、作品を新鮮なものにしていました。主人公のサー・トマス・モアを演じたAri Ratosは記念の作品にふさわしい熱演を見せました。熱演がすぎて装置から転がり落ちるというアクシデントまでありましたが(本人は終演後、「あれはわざと落ちたんだ」と言い張ってました)。ただ、これも熱演のZahim Albakriが演じたクロムウェルがマキャベリ的現実主義者として描かれるのに対し、トーマス・モアのそれに、対置されるもの、すなわち『ユートピア』を著した理想主義者としての側面が十分に立ち上がってこないように感じられたのも事実です。
Ari Ratos Ari And Zahim
 
Jit Murad
 ほんの少しの登場にも関わらず、強烈な印象を残したのがベテラン、Jit Muradです。怪しげな衣装、ところかまわず吹き鳴らすホイッスル。その軽薄さが固定観念の「王らしさ」をぶち壊しながら、でもだからこそ真実に見えてくる。一見無邪気に見えるなかにも一種の狂気が潜んでいて、なにをしでかすかわからない恐ろしさが透けて見える。自らの離婚問題によってローマ教皇と絶縁し、英国国教会を立ち上げたヘンリー8世の所行を考えると、異様なリアリズムがそこにはあります。Jitの演技は、宗教というもののばかばかしい側面をかいま見せてしまう、非常に危険なものであったとさえいえるのではないでしょうか。初演の際にヘンリー8世を演じたMano Maniam(映画「アンナと王様」やTVシリーズ「Kopitiam」に出演)が、終演後に「私のバージョンとはぜんぜん違う」といっていましたが、まさにJitの面目躍如といったところでした。
 
 昨年6月の洪水で2つの劇場を失うという大打撃を受けたActors Studioですが、この公演の後、6月には国立劇場で、黒沢監督の名作を下敷きにした「Rashomon」を上演します。逆境にあっても彼らの活動意欲はますます盛んです。
 また、水没した劇場の隣に事務所を構えていた中華系の音楽グループ、Dama Orchestraも事務所内の楽譜や音源の全滅という苦難を乗り越えて、5月13〜16日に「Memories」と題されたコンサートを市立劇場(Panggung Bandaraya)で開きます。このコンサートも彼らの10周年記念イベントと位置づけられています。芸術家の魂は死なない。そんなことが実感される最近の動きです。
 
4月16日〜25日
於アクターズ・スタジオ・バングサ
 
<本稿は日馬プレス第273号(2004年5月1日)に掲載されたものです。>
     
 
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