「マレーシア舞台技術者協会」
国際交流基金 滝口 健
 
 ここ数年のマレーシア、特にクアラルンプールにおける劇場施設の充実には目を見張るものがあります。市立劇場(Panggung Bandaraya)、MCPA劇場(中華大会堂内)、Stor Theatre(言語出版局内)、Dramatic Arts Society(UE3ショッピング・コンプレックス内)といった小規模の劇場が次々にオープンしていますし、以前このコーナーでもご紹介したKuala Lumpur Performing Arts Centreのような大規模な劇場コンプレックスの準備も進んでいます。

 こうした中、大きな問題として浮かび上がってきているのが舞台技術者の不足です。相対的にマーケットが小さいマレーシアの演劇界では、舞台技術だけで食べていくのは非常に難しいのが現状です。このため、多くの技術者はテレビなどの放送分野や、コンサートなどの商業公演の分野での仕事を兼業しています。また、トレーニングを受ける機会が限られていることから、若手の育成も進んでいません。
 
 劇場数が急激に拡大し、十分なトレーニングを受けていない技術者が劇場で作業をした結果、大きな事故につながる恐れは十分にあります。劇場は危険なところです。様々な重量物が空中につられていますし、たとえばマレーシア国立劇場の可動式舞台は10数メートル沈ませることができます。この「奈落」(と呼ばれます)に転落したら骨折どころではすみません。実際、日本でも劇場での死亡事故の事例は多いのです。
 
舞台技術者ワークショップで
指導にあたる
照明の相川正明氏。
舞台上にはMATTの
Mac Chanの姿も見える
 
 こうした状況に対応しようと、現在設立準備が進められているのが「マレーシア舞台技術者協会(MATT)」です。劇場における安全の確保を第一の目標としつつ、各種ワークショップ等を通じてマレーシア舞台技術者のスキルアップを図ることを目指しています。現在、文化芸術遺産省との間でも広範な協力の可能性について協議が進んでいます。
 2年連続でキャメロニアン・アーツアワードの照明賞を受賞したMac Chanを中心とした設立準備委員会には筆者も参加していますが、興味深いのは海外との連携の意識が非常に強いことです。最近設立されたシンガポール舞台技術者協会(SATT)とは密に連絡を取り合っていますが、香港舞台技術・美術家協会や台湾の中華技術劇場協会とも既に会合を持ち、将来の連携の可能性を探っています。教育プログラムの検討のためにオーストラリア国立演劇研究所(NIDA)にも照会をしていますし、秋にはフィリピンへ出かけて連携の可能性を探りたいと考えています。
 
衣装制作の指導をおこなう時広真吾氏
 日本からも今年1月に「スタッフ塾」の皆さんを迎え、1週間のワークショップを実施しました。「スタッフ塾」は、照明家の相川正明氏によって設立された舞台技術者対象のワークショッププログラムで、これはMATTとして初めての大きな事業となりました。MATTとしても、来年にまた同様のプログラムが実施できるよう期待しています。

 台湾の技術者協会は、劇場での死亡事故が発生した反省として設立されたのだそうです。MATTは幸いにして、それを防ぐという目標を持って設立することができました。劇場での事故をいかにして防ぎ、そして優秀な技術者を養成していくことができるか。大きなチャレンジではありますが、一歩一歩進んでいくことができればと思います。
 
<本稿は日馬プレス第280号(2004年8月16日)に掲載されたものです。>
     
 
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