Five Arts Centreの
コミュニティ・プロジェクト
国際交流基金 滝口 健
 
 マレーシアは多民族の国だ、といわれます。多くの民族がともに暮らしている国である、という意味ではまさにそのとおりですが、例えばアメリカやカナダのような「多民族国家」と比べると、その性格はかなり異なるように思われます。各民族が自分たちの政党を組織し、その連合体が政権を担当していることに端的に現れているように、民族ごとにかなり独立した形で「共存」しています。自らのアイデンティティも、「マレーシア人」というよりは、「マレー」であり、「チャイニーズ」であり、「インディアン」であるようです。
 
 民族ごとに集落を作っていた時代には、排他的に暮らしていくことはそれほど難しくなかったのかもしれません。しかし、高層の集合住宅が一般的となった都市部では、民族が文字どおり入り混じって生活することを余儀なくされます。新しい「コミュニティ」がそこに誕生します。
 こうした新しいコミュニティが民族間の融和に結びつけば美しい物語として完結するわけですが、現実にはそううまくはいきません。ましてや、それが低所得者層用の住宅であれば、様々な要素がコミュニティの成立を阻み、時には住民間の対立にまで発展することも少なくありません。
 こうした状況を改善するため、アートが果たせる役割があるのではないか。これが、劇団Five Arts Centreが、様々なコミュニティ・プロジェクトを通じて問いかけていることです。彼らの最初のプロジェクトであるカンポン・メダン・プロジェクトは、数年前にインド系とマレー系住民の衝突事件が発生した、まさにその地域でおこなわれました。これは、Five Arts Centreのファシリテーターが9ヶ月間、地域コミュニティのこどもたちと様々な表現活動をおこない、こどもたちの発案によって地域を舞台にした短編の映像作品を制作して一応の完結を見ました。共同作業の中でこども同士が互いの存在を認め合い、それを通じて大人同士がコミュニケーションを始める。自分たちのコミュニティを題材にすることで、地域への理解が深まり、誇りが生まれる。作品の上映会は、集合住宅の集会場の外に張ったテントでおこなわれたささやかなものでしたが、こどもたちの自信に満ちた生き生きとした表情と、それを見つめる大人たちのまなざしが、アートの持つ力を示していました。
 
 Five Arts Centreは、こうしたコミュニティ・プロジェクトを活発に続けています。昨年には「Ada Apa?」プロジェクトで全国を駆け巡り、今年はFive Artsのガムラン・コンサートユニットであるRhythm in Bronzeによるコミュニティ・プロジェクトが実施されました。
 KL北部のスラヤンで3ヶ月にわたっておこなわれたこのプロジェクトには、Rhythm in Bronzeの4名のメンバーがファシリテーターとして参加しました。地域の子供とガムランの練習をするだけでなく、自分たちで作曲をしたり、歌を作ったり、「音楽を通じて自分を表現する」試みがおこなわれました。
 
 8月29日にプリマ・スラヤン集合住宅の駐車場裏の仮設会場でおこなわれたコンサートは、力に満ち溢れたものでした。Rhythm in Bronzeは、マレーシア・フィルハーモニック・オーケストラと共演するなどマレーシア随一のガムラングループとしての評価を受けていますが、こどもたちとの共演は、違った意味での魅力にあふれていました。
 考えてみれば、ワヤン・クリッにしろ、マ・ヨンにしろ、マレーシアの伝統芸能はいずれもコミュニティがベースになったものです。Five Artsのコミュニティ・プロジェクトは、「新しいコミュニティ」における「新しいマレーシア芸術」なのかもしれないな、と感じたことでした。
 
 
<本稿は日馬プレス第282号(2004年9月16日)に掲載されたものです。>
     
 
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