家族の再会
〜Instant Cafe Theatre Company「ROADTRIP」
国際交流基金 滝口 健
 
 Jo Kukathas、Ali Ratos、Shanthini Venugopal、Sean Ghazi、Harith Iskander、Patrick Teoh、Zahim Albakri、Jit Murad・・・。Instant Cafe Theatre(ICT)が旗揚げ 周年を記念して敢行した全国ツアー、「ROADTRIP」のチラシに書かれた出演者リストを見ながら、その中からこれまでにこの連載に登場した役者の名前を拾ってみると、数の多さに驚きます。ICTの芝居を一本も取り上げていないにもかかわらず、なのですから。
 マレーシアには専属の役者を持っている劇団はほとんどありません。「劇団」に所属しているのは、たいていは演出家とプロデューサー、場合によってはアドミニストレーター数名くらいで、役者はフリーランスでいくつもの劇団の作品に出演するのが常です。しかし、デビューした劇団、よく仕事をする劇団とのつながりは深く、「あの劇団ならこの役者」というイメージができあがってきます。
 
 
 その意味では、ICTほど多くの役者をデビューさせ、育て、旅立たせていった劇団はないといってもいいでしょう。今回のツアーは、ICTとかかわりを持った役者たちの恩返しだったのかもしれません。小さなスキットや歌をつなげていく、典型的なICTのレビュースタイルでおこなわれた公演は、新ネタ、旧ネタを取り混ぜた、「ICT 年の歩み」的なものでした。ペナン、イポー、マラッカ、コタ・キナバル、そしてクアラルンプールと5都市を2か月余をかけて回るツアーは、「それはそれは大変だった」(プロデューサーのSusie Kukathas談)そうですが、初めて公演を行ったイポーやコタ・キナバルでは大きな反響を巻き起こしました。特にコタ・キナバルでは、幕が開いたときから観客がエキサイトしまくり、役者のほうが思わず引いてしまうほどだったとのこと。彼らにとっても忘れられない公演になったようです。
 
 
 しかし、彼らの 年間は常に順風満帆だったわけではありません。つい昨年、彼らは公演中にもかかわらず、上演ライセンスを剥奪されるという憂き目にあっています。ICTの芝居は、マレーシアの政治に対する痛烈な批判・風刺が特徴となっていますが、これを見た観客からの「余りにも過激で、人々をむやみに扇動する内容である」という投書が新聞に掲載され、それを受けたクアラルンプール市当局が急遽ライセンス剥奪という挙に出たのです。
 この事件は翌日の新聞の一面にも掲載され、当時プロデューサーを務めていたAdeline Tanが当局からの礼状にサインさせられている哀れな写真が紙面を飾ったのでした。その後、市長自らの裁定により、ライセンス剥奪は撤回されたものの、劇団にとっては厳しい時期が続きました。
 でも、だからこそ、今回の「ROADTRIP」はICTにとって大事なイベントだったのかもしれません。たとえそれが、Jit Muradが終演後にちらりともらしたように「まぁ、Family Reunionだね。みんなで集まって楽しんだのさ」というだけのものであったとしても。
 2000年から2001年にかけて、ICTとの共同制作に携わった際、私は毎日のようにICTのオフィスに出かけていき、SusieやAdelineと一緒に仕事をしたものでした。自分の机まで確保して、そこはほとんど第二の仕事場だったのです。多くの困難(上記のライセンス問題のほかにも、公演が失敗して大赤字を出したり、事務所が火事にあったり、本当にいろいろあったのです)を乗り越えて、「家族」が再会したことが、私もとてもうれしかったのです。
 
 
<本稿は日馬プレス第286号(2004年10月16日)に掲載されたものです。>
     
 
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