2005年、
マレーシア演劇界を展望
国際交流基金 滝口 健
 
 1月というのはあまり物事が活発に動かない月なのでしょうか。前回ご紹介した「Dangerous Children」を元旦に見に行って以来、マレーシアの演劇を見ていません(「Hannah and Hanna」というイギリスの芝居は見たのですが)。というよりも、芝居そのものがほとんど上演されていないのです。去年はどうだったっけ、と手帳をひっくり返してみたところ、確かに1月にも何本か見ていましたが、大部分は月の後半でした。確かに今年も1月の後半には何本かは上演されるようです。カレンダー・イヤーの新年にはあまり大騒ぎをしないマレーシアとはいえ、やはり影響を受けるのでしょうか。
 
 というわけで、新年2回目から早くもネタ切れになってしまいました。そこで、今回は路線変更。最近聞き込んだ新プロジェクト情報をお伝えします。ただ、ほとんどは立ち話で聞いたとか、酒を飲みながら聞いた、という心もとなさで、おまけに「やるつもりだったけど、資金がなくなって中止した」ということも日常茶飯事の世界ですので、あくまでも噂話ということで。「日馬プレス」のイベント情報欄でそれらしきものが掲載された際、「あ、そういえば」と思い出していただければ幸いです。
 
Zahim Albakri Jit Murad
 「Cats」や「Rent」など、最近は洋物のミュージカル紹介に力を入れてきた国立劇場(Istana Budaya)では、今年はマレーシア製ミュージカルを一挙3本上演することが計画されています。1本は「Spilt Gravy on Rice」で2002年のキャメロニアン・アーツアワード戯曲賞を受賞したJit Muradが書き下ろす「M」。演出も「Spilt...」のZahim Albakriが手がける予定で、ここ数年では最も高い評価を得た同作品のコンビが復活することになります。音楽は日本とのコラボレーションの経験もあるSaidah Rastam。まさに、マレーシア演劇界の最高の才能が結集する舞台になりそうです。Jitは「みんなのスケジュールが合わなくて大変なんだよ・・・」とぼやいていましたが、一応順調に準備は進んでいるようで、今年半ばには上演にこぎつけることができそうです。
 
 最近、「マレーシア映画初のアカデミー賞ノミネートなるか」ということで話題を集めている「Puteri Gunung Ledang」という作品をご存知でしょうか?この映画を制作したEnfiniti Productionsはこれのミュージカル版を制作しようとしています。これが国立劇場ミュージカルの2本目。「マレーシア映画史上最高の制作費」をつぎ込んだ同社らしく、ミュージカル版も「スタッフを含めれば100名以上の規模」(プロデューサー談)という大掛かりなものとなりそうです。また、公演が成功すれば、日本を含む各国での上演も考えたい、と大きな夢を持っているようです。ただ、ここしばらくはアカデミー賞ノミネートのための活動に力を費やさざるを得なくなっているようで、ミュージカル版はとりあえず一旦休憩という形になっている様子。今年中に上演までこぎつけることが出来るかは微妙な感じがしますが、完成すれば映画同様に大きな話題となることでしょう。
 
Faridah Merican
 シェークスピアがお好きな方には、The Actors Studioが準備しているシェークスピア4作品の上演が注目です。第1弾は「ハムレット」で、2月3日〜5日にバングサ・ショッピングセンター内のThe Actors Studio Bangsar劇場で上演されます。演出はFaridah Merican。彼女にとって、「ハムレット」の演出を手がけるのは3回目とのことですが、今回はライブミュージックによる音楽を加え、新しいスタイルを試みるということです。この作品は全編マレー語による上演となりますが、シェークスピアですと日本語のテキストを事前に「予習」しておけばストーリーが簡単に理解できますので、これまで劇場にお出かけになったことのない方にもお勧めです。
 
Krishen Jit
 それから、昨年から何度か本コラムでも取り上げた、劇作家Huzir Sulaiman作品のレトロスペクティブ上演は今年も続くようです。昨年は劇団Five Arts Centreが「Atomic Jaya」を、劇団Dramalabが「The Smell of Language」と「Notes on Life & Love & Painting」を上演しました。いずれも演出は大御所、Krishen Jitです。今年はどの作品が取り上げられるのか楽しみです。個人的には「Those Four Sisters Fernandez」という作品が再演されるといいな、と思っているのですが。この作品、初演のときの演出もKrishenだったのですが、彼が「私がこんなリアリスティックな舞台装置の芝居を作るなんて何年ぶりだろうか」と、心底いやそうな顔で話していたのが印象的だったのです(Krishenの芝居は、通常、非常に抽象的なセットが使われます)。
 
 それから、新しい劇場についても少し。かつてはKLでもっとも活発に使われていた劇場の一つ、国立実験劇場(Experimental Theatre)が、今年半ばに新装オープンする予定です。2001年ごろを最後に、周囲に国立芸術アカデミーのキャンパスを建設するために閉鎖されていた同劇場ですが、現在は同アカデミーに所管が移り、今後は学生の発表の場としても使われていくことになります。また、チャイナタウンのJalan Tun HS Leeにも小さな劇場がオープンしそうです。これは、芸術文化観光省が古いバンガローを改装していたもので、どうやら工事も終わったようです。
 
 もう一つ、忘れてはならないのは以前このコラムでもお伝えした新しい劇場コンプレックス、Kuala Lumpur Performing Arts Centre(KL PAC)です。工事が遅れ、当初昨年12月とアナウンスされていたオープニングは4月以降となりそうな状況ですが、完成後はKLにおける演劇活動の中心となることは間違いないところです。
 
 今年も、なんだかんだといいながらニュースは尽きないことでしょう。さしあたり、次回までにはネタが出来ることを祈りつつ、今回はこのあたりで。
<本稿は日馬プレス第291号(2005年2月1日)に掲載されたものです。>
 
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