ついに、扉が開かれました〜
Kuala Lumpur Performing Arts Centre
国際交流基金 滝口 健
 
 とうとうその日がやってきました。5月25日、クアラルンプール中の演劇関係者から待ち望まれていたKuala Lumpur Performing Arts Centre(KLPAC)がオープンしたのです。マレーシアで初めての、民間経営による本格的な劇場であるこの施設には、約500席の主劇場と、座席配置を自由にレイアウトできるブラックボックス型の実験劇場の2つの劇場の他、各種ワークショップを実施したり、稽古場として利用できるスタジオや自主制作映画上映スペースなどが備えられています。
 当初、昨年のうちに開館するとアナウンスされていましたが、工事の遅れからそれがどんどん延び延びとなり、タウン情報誌「KLue」の2004年回顧号では「今年一番の肩透かし」と書かれる始末。ようやく「5月から稼働開始」がアナウンスされ、一部メディアにも公演情報が掲載されたにもかかわらず、5月中旬の公演はすべて延期・・・。
 そんなこんなで関係者全員をやきもきさせたKLPACでの記念すべき最初の公演作品は、なんと我が日本のダンスカンパニー、BATIKによる「Shoku〜Full Version」ということになりました。前日の夜に稽古を見に行ったときには、周囲に照明もなく(KLPACはYTL社が開発を手がけているSentul Westの広大な敷地内にあり、周囲は公園に囲まれています)、「こんなんで明日は大丈夫か?」と不安になりましたが、当日は誘導の人員も十分に配置され、実験劇場に満員の観客を迎えての公演となりました。
 18歳以上の年齢制限が行われた公演は、性的な表現を含む刺激的なものでしたが(新聞のレビューでも「マレーシアでこのような内容のものができるとは」といった驚きを示したものもありました)、既存の枠にとらわれない表現を目指す若い劇場のキックオフにこれほどふさわしい舞台はなかったのではないかと思います。会場には、2日間の公演を通じてマレーシアの演劇人も数多く顔を見せましたが、皆さん公演への賛辞を惜しみませんでした。そして、彼らもやはり興奮していたのです。新しい劇場、マレーシアで最高の設備を持ち、すばらしい環境を周囲に持つ劇場ができたことに。そして、この劇場は「彼らの」劇場なのです。地元劇団が使うことは事実上ほとんど不可能な国立劇場とは違い、この劇場のドアはあらゆるパフォーマーに開かれているのです。
 もちろん、問題はたくさん残っています。そもそも、テストランをほとんどおこなわず、ぶっつけ本番に近い形で(しかも海外のカンパニーの作品を!)公演をおこなうということ自体、とても信じ難いことではあります。もちろん、地元のアーティストによる試験公演をおこなう計画はあったのですが、前述のように工事の遅れからすべてキャンセルとなってしまい、海外公演はスケジュールを簡単に変えられないのでそれになんとか間に合わせたというのが実情でした。公演の2週間前に劇場の担当者に「それで、公演は大丈夫なの?」と冗談めかして聞いたら、ひどく真面目な顔で「すごくヤバいよ」と答えていたことを思い出します。
 公演中も、主劇場からロビーに下りてくる人たちの足音が実験劇場内にすべて聞こえてしまったり、空調を切るスイッチの場所が分からなくて開演が遅れたりと、細かなトラブルが続出しました。ただ、KLPACのオフィシャル・オープニングは9月になるということです。それまではトライアンドエラーを繰り返し、問題点をひとつひとつつぶしていくことになるのでしょう。
 でも、まぁ、何はともあれ、劇場の扉は開かれたのです。5月28日には、フランス大使館主催のフレンチ・アートフェスティバルの開会式がKLPACでおこなわれ、劇場は着飾った人々であふれました。それをみていたとき、ふとある言葉が胸に浮かんだのです。「If you build it... they will come」。映画「フィールド・オブ・ドリームス」の主人公(ケビン・コスナーが演じてましたね)は、この言葉に導かれて野球場を作りました。この劇場は、マレーシアの演劇人にとって、そしてプロジェクトの発起人であるThe Actors StudioのJoe HashamとFaridah Mericanにとって、まさに「フィールド・オブ・ドリームス」なのかもしれません。
 
 
<本稿は日馬プレス第300号(2005年6月16日)に掲載されたものです。>
     
 
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