まだまだ、これからの児童演劇〜
Jalan Impian
国際交流基金 滝口 健
 クアラルンプール・パフォーミングアーツセンター(KLPAC)で7月13日から17日にかけて上演されたミュージカル、「Jalan Impian」を観てきました。Sandra Sodhyによって書き下ろされたこの作品は、当初から子供たちによる上演を前提として制作されました。50名近くの出演者は8歳から18歳までの子供たち。昨年おこなわれたオーディションによって選ばれた彼らは、毎週土曜日と日曜日に稽古を重ね、上演日にたどり着きました。
 物語は「努力すればきっと希望はかなう」という典型的なサクセスストーリー。スターを夢見る貧乏な主人公カップルが、ひょんなことから芸能学校への入学許可をもらいます。多くの挫折、同級生たちの冷たい視線をはねのけ、最後には大きなミュージカルへの出演を勝ち取る、という物語です。ちょっとストレートすぎる気もしますが、マレーシア教育省が協賛しているのでは仕方がないところなのでしょうか。しかし、子供たちの生き生きとした演技は3時間近くの上演時間を長いと感じさせないものでした。
  写真提供:Ms. Sandra Sodhy

 「児童演劇」と言った場合、そこには2つのジャンルがあるようです。一つは大人が演じる「子供向け」の演劇、もう一つは子供が演じる「子供の」演劇です。いずれもマレーシアでは活発とは言いがたい状況ですが、それでも前者のタイプの劇団としては中華系のDo Do Children's Theatre Companyや英語メインのJumping Jerry Beans Companyなど、いくつかが活発に活動しています。しかし、後者については、継続的に活動をおこなっている団体はほとんどないといってよい状況です。昨年、富山県芸術文化協会が主催するアジア太平洋こども演劇祭にマレーシアから参加する劇団を推薦するよう依頼をいただいたときには、非常に頭を痛めたものでした。
 その意味で、今回の「Jalan Impian」は、非常に画期的なイベントでした。とても厳しい(とSandra Sodhyは言っていました)稽古を重ねた子供たちは、群舞のシーンでもぴったり息があっていました。マレーシアでは、いわゆる「プロ」の舞台でもきちんと揃った群舞を見ることがあまりないのですが、正直、「○○ダンスカンパニーよりもうまいじゃないか」と思ってしまうほどでした。

 近年、マレーシアの演劇界には余り活発な「新しい血」の流入がないような気がします。今回、初めて舞台を経験した子供たちが表現の喜びを知り、演劇の楽しさを知って、マレーシア演劇に新しい息吹を与えるようなことがおこれば素晴らしいことです。
  写真提供:Ms. Sandra Sodhy

 しかし、この作品を観終わった後に、どうしようもない後味の悪さのようなもの、釈然としないものが残ったことも事実です。失敗ばかりの主人公たちをあざ笑う同級生たち、いわば「勝ち組」の少年たちは皆、アメリカン・アクセントの英語でしゃべり、まるでハリウッド映画に出てくるアメリカの大学生のようなしぐさをしていました。この「地に足が着いていない」感じが、芝居からリアリティを決定的に奪っていました。この作品を観ていたある俳優も「マレーシアの学生があんなふうに教師を小ばかにするなんて考えられない。からかうにしても、絶対にあんな言い方はしないはずだ」と憤然としていました。何よりも問題なのは、クールでかっこいい=アメリカ、という短絡、想像力の欠如でしょう。劇場は虚構の世界、そこでは何をしてもかまわない。それは事実ですが、真実でない言葉をしゃべることは絶対に避けるべきことだと思うのです。

 とはいえ、挑戦は始まったばかり。このプロジェクトが今回だけで終わってしまうのではなく、今後も作品が作られ続けるといいな、と思います。むしろ、「この次」にこそ真価が問われるのではないでしょうか。これだけのプロジェクトは、そうそうあるものではないのですから。

  写真提供:Ms. Sandra Sodhy
 
<本稿は日馬プレス第303号(2005年8月1日)に掲載されたものです。>
     
 
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