「ラオスを第二の人生の生活の場所と考えている人が少しずつふえてきた」
 
渡邊 明彦

 世界文化遺産の街ルアンプラパンなどには目もくれず、ビエンチャンだけにしたのは、「ラオスを第二の人生の生活の場所と考えている人が少しずつふえてきた」と聞いたから、それを確かめたかったことと、ラオス大好き人間の柔道指導者の菊池正敏先生の活動を見て、柔道がほとんど普及していなかった国での柔道の普及のあり方を教わろうと思ったからだ。
 「ラオスを第二の人生の生活の場所と考えている人が少しずつふえてきた」と言ったのは、十年以上前からの友人でラオス国営航空の総代理店を経営しているKさんだ。十年くらい昔、初めてラオスに来たときもKさんと一緒だった。Kさんがすごいのは、ラオスという日本ではほとんど情報がない国にいて、ラオスの歴史、文化、遺跡、少数民族の生活習慣などを熟知していることだ。
 ラオスには世界遺産の街ルアンプラパンがあり、中西部にはアンコール時代の遺跡の“ワット・プー(=山のお寺)”がある。メコン川を下ってラオスの最南部にはメコン川の中に“コン島”、超小ぶりのナイアガラ瀑布のような“ソンパミット滝”があり、この辺りにはメコンを遡ってきた“川イルカ”が生息している。
 ビエンチャン市内には見るべきものは少ない。ただ、ビエンチャンを中心に北東に行けばベトナムの首都があり、ハロン湾など風光明媚な景勝地が多い。南に行けばアンコール・ワットの国カンボジア、東南に行けばベトナムの古都フエ、そして朱印船時代に日本人町があったホイアン、、もっと南に行けば旧サイゴン、現在のホーチミン・シティーがある。西に行けばタイだ。チェンマイ、アユタヤ、バンコクなど多くの仏教遺跡や歴史的建築物がある。
 もっと西に行けばミャンマー(ビルマ)がある。昨年9月の暴動事件以来、足が遠のいているが、興味ふかい国であることは間違いない。(わたし個人的に言えば、わたしのビザ申請を二度もはねた不愉快な国だ。要するに、わたしが『日馬プレス』というメディアで働いているからダメということらしい。メディアといっても、高の知れたミニコミ紙、別にアウンサン・スー・チー女史にインタビューを申し込もうというわけではなくて、一度目は純粋に観光、二度目は柔道をやりに行こうとしただけだ。それなのに・・・)
 愚痴はともかく、ビエンチャンを基点にすれば、インドシナ半島五カ国を見て歩けるのだ。ノンビリとした、何にもない町に住んで、気が向いたら、アジアの歴史遺産や景勝地を見て歩く。そういう過ごし方も第二の人生をエンジョイするアイディアの一つだ。

 10年前のラオスは、国土の大半が山岳地帯の国で、電気、水道、電話、道路整備などの生活インフラは極端に遅れていた。山岳地帯の少数民族の多い国で社会主義国家特有の言論統制などする必要はないし、中央集権を強化して権力の集中を図ろうにも道路も満足になく、迅速な情報伝達の手段はない国だった。インフラ整備が遅れていることで、逆に反政府勢力をまとめようにもまとめられないという効果があった。
 実際、メコン川やその支流の豊富な水量を利用してダムを造り、発電し、その電気を工業化が進んでいるタイに売っているが、ダムを造ろうとすると欧米や日本の自然保護団体が「自然破壊だ!」、「野生動物の生態系を破壊する」、「山岳民族の人々の生活を破壊する!」、「日本の経済侵略だ!」などと言って騒ぐが、ラオス国内では大規模な反対運動はない。
 これといった産業のないラオスで、外貨を稼ぐことができる産業といえば、ビルマ(ミャンマー)、タイ、ラオスのゴールデントライアングルで生産されたオピュ‐ム、麻薬だけだった。国際社会は「麻薬はノー」と麻薬撲滅を強要した。麻薬は、東南アジア諸国からも白い目で見られる。「では、水力発電で電気をつくり、それを隣国に売る」と言ったら、「自然破壊をするな!」というのでは、国は存続できない。大きなお世話、おせっかいだ。

問題は医療施設

 十年前、ビエンチャンに病院はあったが、とても、先進国の人々が考えるような医療レベルではなかった。病気になったら国境を越え、タイ北部の都市ウドンタニの病院に行く。ラオスとタイを結ぶ友好橋のイミグレが閉る夜から翌朝にかけては通行ができない。だから夜間の緊急診療は不可能ということだった。十年たって、ビエンチャンの病院の医療機器のレベルや看護師のレベルは日本などの援助で数段よくなっている。それでも、緊急を要し、高度な医療レベルを必要とする患者はタイに渡るしかないという。フランス統治時代の愚民政策と内戦によって、高等教育制度は遅れている。社会主義国家であるが故に、旧ソ連崩壊までは、ロシアの高等教育機関に依存してきた。現在はロシアの援助は期待できない。山岳少数民族の人たちも病気になると、5時間、10時間かけてビエンチャンにやってくるしかない。助かるはずの生命が空しく死んでいく。あとは精霊に祈るしかない。
 ラオス政府は短期的には、18ある県の中核都市の医療機関に適正な人数の医師を派遣し、医療機器を整備し、看護システムを整備していくだろう。問題は医師、看護師、検査技師の育成だ。派手さはないけれど、国家百年の計を考え、援助協力していくことが日本の役割かも知れない。造りっぱなしの土木工事にODAの金をつぎ込むことよりも、途上国の国民にとって、もっとも優先順位の高い国民自身の健康と生命の維持に目を向けるべきだと思う。
 だとすると、日本の団塊の世代のロングステイの目的地としては、適切な医療機関は絶対不可欠な条件だ。その意味では、ビエンチャンは適切とは言いにくい。ただ、ものは考えようで、信頼できる医師によって初期診断、初期治療さえできれば、陸路でウドンタニ、空路でバンコクに行けばいいのだから、何とかなるかも知れない。日本にいて、救急車を呼んでも10ヶ所以上の病院に拒否されて、一時間もすぎてからよく分らない病院に運ばれるのですから、あまり変わらないと思います。(救急患者を断れる病院は、人気がある信頼度の高い病院だと思います。)
 どこの国にいても、日本にいても言えるのだが、“一番重要なことは、現在ある医療施設の中から、自分の身体の状況と精神状況をきちんと把握してくれて、適切な指示をしてくれる医師を一人確保すること”だ。わたしのように病弱な人間(笑わないでください。)は、臆病であるがゆえに動物的本能で真に信頼できる医師を見つけてしまう。臆病で慎重であれば、その人に適応する医師も医療施設も見つかる。(わたしの場合は、強靭なまでに悪運がつよいのです。)
それができるなら、ラオスは「引退後の第二の人生」を過ごすのに実に快適な国だと思う。
 先月、ラオス国内でコレラが発生したと日本の外務省が発信している海外渡航情報で言っていたが、食べ物や水によって感染する病気、食中毒は多い。しかし、日本人や欧米のシニアが行くようなレストランはまず安心だ。「ラオスの庶民と一緒に」なんて言うバックパッカーたちは保証の限りではない。しかし、コレラは現在では普通の食中毒程度のものでしかない。インドネシアでもマレーシアでも、下痢、嘔吐をくり返すようなら、怖いのは脱水症状だから、ポカリスウェットのようなスポーツドリンクなどで水分を補給し、体力の回復を待てばいい。死者が出るのは医療機関がない地域で、知識がなくて適切な処置がとれずに手遅れになることが多いからだ。早期に医療施設に行き、医師の診断を受ければ問題はない。

食べ物はおいしい

 ラオスはフランスが植民地統治していただけあって、フランスやイタリアといったヨーロッパ料理のレストランはなかなかいい。もちろん、フランスパンはほんとうにおいしい。華橋が多いので中国料理もいける。潮州粥の美味しい店、北京ダックや餃子のうまい店もある。
 もちろん、中国系が数百万人もいるマレーシアやシンガポールの中華料理のバラエティーに比べることはできない。マレーシアやシンガポールには食材も豊富にあるし、レストランも味を競っているから、うまい店が多い。食に関してはマレーシアのほうがはるかに上だ。
 日本レストランは、在留邦人数二百数十人、あとは観光客がちょぼちょぼというビエンチャンには日本レストランが数軒あるだけだ。日本からの食材はバンコクで購入するか、KLに行くしかない。だから、日本式の食生活はよほどビエンチャンのマーケット事情に鳴れないと難しいだろう。中高年の人は二週間に一度くらいバンコクに行き、買出ししてくる人もいる。クアラルンプールだって、エアーアジアで往復RM500程度なんだから、気軽に往復できる。
 内陸国だから、海の幸は期待しないほうが無難だと思う。メコン川で川魚が獲れるし、支流には清流と言えるほどきれいな水流の川も多いので川海苔もとれるという。

治安はクアラルンプールより、ずっといい

 治安、事件、事故に遭う危険性は少なくともクアラルンプールよりはずっと低い。引ったくりや空き巣の被害に遭う人はたまにいるが、めったに聞かないという。早朝、暗いうちから若い女性が歩いているし、バイクで走っている。欧米人のバックパッカーも女性一人で歩いている。ラオス人を心配するよりも、むしろ、欧米からのバックパッカー族のほうが数段危ない。アジア人には白人を崇拝して、無条件に信用してしまう人が多い。日本人も同じだ。白人のバックパッカー、若者の中にはインドからバングラデシュ、ミャンマー、ラオスと麻薬の魅力にとりつかれやすい国々を歩いてきた麻薬に魅入られた連中が多い。財布の中身が底をついてくると、彼らは同宿の仲間をねらう。一番ねらいやすく、一番金になるのが日本人バックパッカーもどきの若者たちだ。現金はもちろん、キャッシュカード、クレジットカードがねらわれる。
 もちろん、ラオスも外国だから、日本と一緒に考えてはいけない。現金や貴重品をホテルの部屋に放置して外出すれば、なくなったとしても文句は言えない。それでも、めったにそういうことはない。ラオスの国民性か、おっとりしていて、あまり金銭に執着しない。だから、料金交渉性の三輪タクシーのトゥクトゥクも、市場の土産物屋でもボッタクられたという話はほとんど聞かない。金銭をめぐって不愉快な思いをすることは、ほとんどないようだ。

 

   
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