この記事はもう読まれた方もいると思いますが、中高齢の日本人が陥りやすい罠です。「わたしは大丈夫」と思っている人ほど狙われやすいのです。明日はわが身です。
騙すほうも、騙されるほうも
2005年1月というから、もう3年以上も前の話だが、マレーシアの高級避暑地でC会という親睦団体のメンバーの70代の日本人女性のKさんが、I(C会のメンバーではない)というキャメロン・ハイランドにロングスティしている日本人男性にコンドミニアムの購入を勧められた。C会の役員は「(大きな買い物をするんだから)慎重にやってほしい」とアドバイスをしたのだが、Kさんは「(わたしは)結婚もしないで、昔から一人でやってきた。自分のことは自分でことを運ぶ。家を買うのはわたしの自由だ」と答えたという。そのアドバイスの直後、2月9日付でKさんはC会を退会した。
Iからは「慎重にやってほしい」というC会の役員に「営業妨害だ。お前を告訴する」という脅迫めいた通告があったという。しかし、現実には告訴はされなかった。
IはKさんに親切に接してきたという。自分の住居用にコンドミニアムを購入し、さらに賃貸用の物件の購入を勧められた。Kさんは不動産業者をいれず、契約書もないまま、2000万円近い金額をIに払ったという。しばらくしてIの姿はその避暑地から消えた。現金も消えた。そして、Kさんが購入したつもりのコンドミニアムは別人の所有物件だったという。法律的に対抗しようにも契約書がない。Iはマレーシアで不動産の売買を仲介する資格もない。だから、詐欺だと騒いでも、証拠となるものが何もない。
Kさんはペナン在住の自称ボランティアのHさんに相談に行ったらしい。しばらくして、「C会は会員同士のトラブルに援助をしてくれない」、「KさんはC会にだまされた」という噂が総領事館やマレーシアの政府観光局などに流された。
もちろん、Iは最初からメンバーではなく、KさんはC会の役員のアドバイスを聞こうとしなかった。C会には責任はまったくない。また、民事上のトラブルにC会は介入する義務も権利もない。
常識的に考えて、不動産の取引に関して、日本でもそうだが、海外ではなおさら法律的に正確に処理する必要がある。政府の認可を得た信頼できる不動産(仲介)業者と弁護士を立てて契約行為をしていく。外国人である日本人が公式に不動産取引を行うには政府の厳しい審査があり認可を受ける。不動産取引をめぐって、とかくの評判のあったペナンのHさんでさえ、不動産取引は自分に知人であるマレーシア人のブローカーにやらせていたというし、親しい弁護士をつかっていた(もっとも、弁護士は購入者側と所有者側の両方の代理人を兼ねていたというから、かなり胡散臭い取引きなのだが)という。Hさんについては、「相場より高い物件を強引に買わされた」、「(紹介された物件を)買わないといったら、怒り出した」などという評判が聞こえていた。それでも、法律的には処理していたので、Hさんには法律的な責任は及ばないだろう。
他人の物件を購入するのに、不動産業者(ブローカー)ではなく無関係な日本人に現金を渡すのは、あまりにも非常識であり、このIという男を信じきったKさんに同情する人は少ないだろう。70歳になるまで、営々と貯えてきた老後の資金の2000万円があっという間に消えてしまった。誰かに救いをもとめたくなる気持ちは分かるし、責任を他人にかぶせてしまいたい気持ちも分かるが、Iを捕まえて自供に追い込まない限り、法的に詐欺を立証することはできないだろう。
70歳になって、日本の中で大過なく生きてきた人には、海外で自分をだまして大金を奪っていく日本人がいるなどということは信じられないのかもしれない。日本での不動産の取引だったら、免許なしの不動産ブローカーは無論、正規の免許を持つ不動産業者でさえ、一歩引いて信用できるかどうかを見極め、慎重に取引をしているはずだ。それなのに、海外で、親切にしてくれる日本人に会うと、無条件で信用してしまう人が多い。
クアラルンプールでも、ペナンでも、口車に乗って相場より高額で購入させられたり、日本人にはとても住めないような地域の物件を買わされた人の話を聞いている。それぞれの日本人会を舞台にしている業者もいる。それでも、詐欺師呼ばわりされている日本人や日系コンサルタントでさえ、地元の業者やブローカーを間に入れ、きちんとした契約をして、法律に従った鉄好きをふんで所有権を移転している。だから、詐欺という犯罪は成立しない。
しかし、KさんをだましたIの行為は詐欺という犯罪の条件を満たしている。それでも、証拠がないのはKさんにとっては致命的だ。
ある程度の資金をもつ多くの日本人にとって、マレーシアの不動産は魅力的に見えるはずだ。見栄えの豪華さ、間取りの広さ、ベランダからの景観、そして価格。どれをとっても日本とは比較にならないくらい魅力的だ。しかし、17年マレーシアに住んでいるわたしはこの国のコンドミニアムや一軒家を買う気にはならない。数多くの建物の基礎工事を見てきたし、建設を見つづけて来た。そして、実際に数ヶ所のコンドミニアムに住んだ。
豪雨の最中、建築途中のコンドミニアムのベランダから、雨水が滝となって落ちているさまを見たこともある。完成後にそのコンドミニアムに住んだ女性から「一週間も留守にすると、部屋中カビだらけになる」とか、「健康を害した」という話を聞いた。豪雨がつづいたり、振動が加わったりすると地盤が地滑りを起こして倒壊するかもしれないと不安になるコンドミニアムをいくつも知っている。危ないなと思えるコンドミニアムにも、多くの日本人駐在員の家族が住んでいる。
また、鉄骨をあまり使わず、今にも折れそうな細い柱に合わせてレンガを積み上げてごまかしている建物(コンドミニアム、ホテル、一軒家)もあった。キッチンの水周り、収納庫のいい加減さや、トイレの便器の便座が立たないとか、トイレットペーパーの取り付け口が背中にある部屋もあった。
そういう情報は不動産購入を勧める人は絶対に教えてくれない。日本ならば不動産を業とするには宅地建物取引き主任者がいなければならないし、取引き主任者は売買でも賃貸でも重要事項の説明しなければならない。それでもトラブルは起こる。
もちろん、生活しやすい地域にあって、安全性や居住する人の利便性を考え、投資物件としてもいい建物もたくさんある。そういう物件は地元やシンガポールの情報を把握できる人たちが先に買ってしまう。日本人が本当にいい物件にめぐり合えるかは「?」と、わたしは感じている。
MM2Hプログラムのハードルが高くなって、ロングスティの世話をしている日系の業者の中には、不動産を売るチャンス到来とよろこんでいるものもいる。でも、日本人だから信用できるとおもうのは間違いだと思う。日系企業に20年、30年勤めてきたというマレーシア人も登場する。そんなことは信用で切るできないの基準にはならない。短絡的に利益が見込めることで地元の人たちも、日本の業者と釣るんで金儲けを企てている人たちもいるのだから。
激動の日本で、60年、70年生きてきたのだから、冷静に信じられる人か、信じられる業者かを見極めなければいけない。「巧言令色少なし仁」をもって肝に銘ずる必要がある。 |