“騙すほうも、騙されるほうも”の
つづき
 
渡邊 明彦

 前回の“騙すほうも、騙されるほうも”の、Kさんから2000万円近く金を持って、タイに逃げたIをめぐっては、もう一件、怪しいできごとがある。
 Oさんという30代後半と見られる、独身のちょっと美人の女性が2002年、やはりマレーシアの高級リゾートにロングスティをする、主に関西から来た人たちの団体の事務所の留守番に応募してきた。Oさんは3ヶ月ごとに近隣の国に出国を繰り返す「Uターン滞在者」だった。Oさんは、「Uターン滞在」の先駆者Uさんと同様、「Uターン滞在は合法」と公言していた。しかし、最後にはMM2Hの資格を取得したという。
 Oさんはイタリアなどの国々でバガボンド(放浪者、漂泊者の意味)生活をしてきたらしい。英語が堪能で、男好きのする性格や容貌からロングスティにやってきた男性たちにも人気があったという。2004年ごろ、KさんをだましたとされるIとは「同棲?」という噂もあったらしい。Kさんの事件のときは、Kさんと物件の仲介役となった現地のレストラン経営者とIとの通訳をしていた。Oさんが親しくいしていた現地人の男性は麻薬常習者だったという噂もあった。入院前には、顔にできものができたり、おかしな言動もあったという。
 イポーの病院に入院していたがと病名は明らかではない。OさんはIがタイに逃亡する直前に急死したという。 IはOさんの入院から、死亡にいたるまで一切を取り仕切ったらしい。病死の知らせを受けて、ニュージーランドに在住していたOさんの姉が後始末と遺骨の引き取りにやってきた。Iは、姉との初対面の第一声として「妹さんに100万円貸している。返してくれ」と迫ったという。姉が「妹が他人から借金をするはずがない。本当に借金があるなら借用証を見せてほしい」と言ったら、すごすご引き上げていったという。また、Iは関西から来た人の団体の事務局に葬儀費用の12万円を出してほしいと頼んだが、断られたという。
 Iは、金になるかもしれないと思うと、嘘でも何でも真実のように言い募ってしまう、「うまくいけばだませる。だませなくて元々だ」と思う禿げ鷹のような男なのだろう。この手合いは、はじめは作り話でも、話しているうちに、自分の中で本当にある話にすり替わってしまう。だから、本当の話のように聞こえてしまうのだ。

 十年位前、クアラルンプールのビデオショップで働いていた40歳前後の美人の日本人女性が殺害された事件があった。奔放な男性関係が噂になっていた。噂の中には日本人男性もいて、警察の取調べを受けたが釈放されている。数年前にはペナンの日本食レストランで働いていた二十代の魅力的な日本人女性が変死した。自殺で処理されたが交際中の男性に殺されたのではないかという噂が立った。警察の判断は自殺だったのだから、その通りなのだろう。
 噂は噂でしかないし、わたしが直接知っているのは、ペナンの女性だけだからなんとも言いようがない。けれど、自分の人生観に従って刹那的、享楽的に生きるのもいいけれど、愛する娘、姉妹のぶざまで無意味な死に直面した肉親たちにとってはこれほどつらく悲しいことはない。
三人の変死に共通するのは、三人ともほかの人たちから見れば異様な、理解不能な男たちと接していることだ。「きれいだ」、「かわいい」と言われ、やさしくされ、おだてられ、ちやほやされ、それがその男の真実だと誤解してしまった。若い命を無駄にしてしまった。

 キャメロン・ハイランドには大勢の日本人の中高年の人たちがいる。中には海千山千の男も何人もいるのだ。Oさんは日本人の団体の留守番役でもあったのだから、自然と目に付く存在だったはずだ。奔放な生き方をしているOさんに、一人くらい苦言を呈するおじさんやおばさんがいてもいいはずなのに、結果的にはいなかったらしい。そのことも悲しいことだ。

   
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