マレーシアで死亡したら
万一のことも頭の片隅に
 
渡邊 明彦

 前週の「東南西北」にペナン島であった“孤独死”について書いたが、今回は中後年の皆さんが多いロングスティに起こりがちのマレーシアでの病気や、危険事故によって死亡した場合のことを書こう。
 縁起でもないと不快に感じる人も多いかもしれないが、病気、交通事故、自殺、タイやフィリピンで時々あるがマレーシアでもまれに殺害される人がいる。マレーシアを終の棲家ときめてMM2Hでロングスティしている人は別にして、多くの人は最後の瞬間は日本で迎えたいと思っている。それでも、ほとんどは本人の意思とは関係なく、間違いなく「死」は思いがけずにやってくる。
 社会を構成する一員として、自分にもしものことがあった場合のことを予測して、手を打っておくことは大切なことだ。マレーシアにロングスティに来ている間に亡くなって、どこの誰だかわからない、誰にも連絡できない、では浮浪者と同じになってしまう。そんな人がいれば、日本人として恥ずかしくない程度の野辺の送りをしてくれて、なんとしてでも連絡を探そうとしてくれるのが、大使館や総領事館の領事さんたちだ。
 マレーシアで死亡した場合、病死であればこちらの医師の死亡診断書を大使館か総領事館に提出して、担当領事のアドバイスに従って処理していることが多い。事故死や自殺、殺害の場合については詳しくは知らないが、マレーシアの警察の調書が必要となり、医師の検死もあると思われる。このケースも大使館や総領事館の担当領事のアドバイスに従うことになる。旅行会社が主催する下見ツアーやパック旅行中であれば、旅行会社の人がいろいろと面倒を見てくれる。

 旅行中に交通事故で死亡したケースもあれば、水難事故で亡くなる人もいる。もちろん、マレーシアで働いている人も同じだ。交通事故の死亡者は人口が5倍の日本とほぼ同じか、マレーシアのほうが多いくらいだ。ということは人口当たりでは5倍の死亡率ということになる。しかし、交通事故による重傷者、死亡者の多くはバイクによる事故が原因であるので、車やバスなどで移動する人、歩行者は意外と少ない。それでも慎重に考えて、危険度は2倍ぐらいに思っているほうがいいだろう。
 遺族の人たちは、マレーシアで火葬して、簡単な葬儀をして遺骨を日本にもって帰るか、遺体のまま航空機で日本に送るかを決断することになる。棺に入った遺体は航空貨物になり、もちろん十分な配慮をされて輸送される。そして、遺体は日本の国際空港近くの安置所で日本の医師の検死を受け、その上で遺族の待つ家に送られる。とくに事件事故による死亡には慎重に調べられ死体検案書が作成される。
 事件事故の場合には、遺族が担当領事にプライバシーの保護を願い出れば、日本のメディアに必要以上の情報は提供されない。
 マレーシアでの火葬は、クアラルンプール首都圏であれば、ペタリン・ジャヤにある火葬場兼葬祭場で行われることが多い。ただ、火葬に要する時間は、火力が弱いので日本のように一時間程度というわけにはいかず、十二時間以上かかると思ったほうがいい。葬儀式は自宅でやる人もいるが、ロングスティの人たちはこの火葬場兼葬祭場で行うのが普通だ。もちろん、マレーシアのお坊さんを頼む人もいれば、キリスト教の牧師さん、あるいは神職の資格のある人に頼んだり、新興宗教の仲間たちで行うこともある。
 海外で生活するということは以上のようなこともあるということを考えに入れておく必要がある。そして、日本にいる肉親や親しい友人の最後を見届けられない可能性もあるということだ。
 
 交通事故というよりも、バイクの二人乗りの引ったくりにショルダーバッグを引っ張られて転倒し、顔面に擦過傷を追ったり、脳挫傷を負った女性もいる。街を歩くときには、十分な注意が必要だ。
マレーシアの医療機関のレベルは診療科目によっては、例えば熱帯特有の病気や不妊治療などでは日本より高いレベルにあるが、職人的な専門技術の必要な整形外科などではレベルに個人差がある。もちろん、病院によっても医療レベル差はあるし、得手不得手もある。そして、専門医のレベルは口コミで伝わっていることが多い。日本でも病院や医師の当たり外れがあるのと同じだと考えていいだろう。
 だから、マレーシアにいるときも、自分にあった病院や気心の知れた医師をもっていると、もしものときに頼りになる。パンタイ・メディカルセンターのドクター・ラウや、ジャパン・メディカルのドクター・ベー、スバンジャヤ・MCの佐藤さん、グレンイーグルスMCの日本人女性スタッフたちと、いつでも連絡を取れるようにしておくと、いざというときに助けられることが多い。
 病気のとき、あわてて日本に帰ろうとして飛行機に乗ることがいいとは限らない。飛行機内の環境はけして病気や怪我をした中高年にいい環境ではない。乾燥度も高いし、酸素分圧も地上とは異なっている。狭いところにじっとしていることで精神的にも肉体的にも様々な現象が起こりやすくなる。水分の補給が必要だし、簡単な運動もするほうがいい。そして、アルコールは地上で飲むときよりも酔いが回りやすい。
 マレーシアの病院に行って、助かったという人も何人もいる。逆に、「エッ!何でこの程度のケガ(病気)で助からないの?」ということもある。情報が必要だということはマレーシアでも日本でも同じだ。日本に帰ってからどの病院に行かも問題だ。かかりつけの、適切な治療を受けられる専門医が近くにいてくれるかどうかも問題だ。日本に帰るというのは選択肢の一つだと考えるほうがいい。
 ロングスティなどで3ヶ月以上マレーシアに滞在しているのに、大使館、総領事館に在留届を出さない人が多い。事故や病気で死亡したり、意識不明になったり、親族の介護が必要だったり、誘拐などの犯罪に巻き込まれたり、大規模な自然災害が発生したときなど、日本政府の援助が必要になるときに、在留届が出ていないと、身元不明状態で日本の親族に連絡を取りたくても取れないことがある。とれても時間がかかる。大規模災害時などで日本の親族から安否の問い合わせがあることもある。だから、「日本の役所は嫌い」、「外務省なんて信用できない」などと、インテリぶったり、マスコミに登場する批評家になった気分で届を出さない人は、いざというときに家族・親族・友人に心配をかけ、あちこちに迷惑をふりまくことになる。
 「日本人会に入っていれば、いざというときがあっても大丈夫。在留届は必要ない」と信じている人もいるかもしれない。でも、日本人会は親睦の場であって、サービス機関ではない。介護保険もそうだが、行政が行うサービスであっても有償だ。在外公館には、海外にいる日本人を保護するという職務がある。もちろん、何でもかんでもではない。「大使館(総領事館)なんだから、日本人が困っているって言っているんだから、助けてくれるのが当然だろう」と駄々をこねる人(モンスター・ツーリスト)もいるが、常識と良識の範囲内以上は期待してはいけない。不測の事態で、個人の力ではどうしようもない状況のときに、必要に応じて最小限、手を貸してくれる、と考えていいだろう。
 一方、各地の日本人会が無償でサービスをする義務はまったくない。日本人会に期待するなら、日本人会で知り合った人、同じサークルの仲間によって声を掛け合うことができるということだろう。気の合う友人、親しい仲間を作るには日本人会は有効だ。だから、日本人会に入って友人や仲間をつくるのはいいことだ。これは日本人会に限らない。地元のマレーシア人の中に親しくしてくれる友人を作れば、一番いいのは何かという情報が得られるから、もっと安心だ。

   
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