#168
『妊娠・出産 近代化の中でも伝統を
重んじるマレー(2)』
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時代が変わったとはいえ伝統を次世代に引き継がせるという意思はマレーシアでも強い。でも、何十もの家庭を回って医師達の話を聞いたが「宗教的な風習は決して廃れないで、かえって強くなっていると思う」という答えが返ってきた。宗教に関係ないマレー文化の伝統的な風習は、都会に行けば行くほど、やらない人、気にしない人が多くなってきているのが現状らしい。例えば、妊娠してから出産まで行なう母胎の清めの儀式や、病院から家に帰ってきたとき、話上手になるようにと赤ちゃんの舌に、はちみつをちょっと塗るのは、民族の風習だ。こうした民族の風習はセンビラン州がとても強い。はじめは抵抗を感じる若いお母さんも、親のアドバイスにしぶしぶ従っているうちに、マレー文化の儀式を壊さないようにすべき、と考えが変わる人が多い。
お産の前には、母子を悪霊から守るため、そして安産を祈って、ココナッツの実をおなかにくっつけてぐるぐる回したり、お花とライムを水の中に入れた水浴びをしたり、おなかのマッサージなどをする。また、水疱瘡にならないように鶏の皮は食べない。動物や虫を殺してはいけない。狩猟や釣りはいけない。葬式にでてはいけない。また産後のへその緒は、家に持って帰ってきて布に巻き、庭や近くに埋める人が多い。早く結婚できるように、という願いには家の前に、遅いほうがいいという場合は後ろに埋める。赤ちゃんの洋服を洗うのに、赤ちゃんが冷えるので水の中に一晩中漬けておかない、などいろいろな言い伝えがある。が、これも宗教をもとにしたものではない。
生まれた後の儀式では、父親、または男の人がイスラムのお祈りの前の呼び掛けを赤ちゃんの耳元でささやく。これは、宗教からで、イスラム教徒が邪気を追い払い、初めて耳にする言葉としてとても重要な意味を持つものだ。そして健康を願い、髪の毛を一部を切るか、全部剃り、羊などを捧げて祝う儀式もある。
一方で、産褥期間はとても厳しく、その辛さは、経験した人しかわからないと思う。44日間の外出禁止や、足を冷やさないためのソックスやセーター、シャワーも始めの1週間はだめ、扇風機の風もだめ、冷たいものは飲んではだめ、食べ物も身体を冷やす食べ物と温める食べ物を分けダイエットする、緩んだおなかを引き締めるためにさらしを巻く、熱い石を使ったマッサージを受ける、と規則のてんこ盛りだ。伝統を重んじる家庭の場合は、100日が安静期間という人も。私の場合、主人の実家がどちらかというと伝統を重んじない方だったことを、神に感謝したい。
でも例え厳しいほうではなくても、私自身産褥期間というのは食べ物制限と暑さと退屈でつらかった。なにせ、食べ物は、黒胡椒を使う決まった調理方法に、鶏(私は鶏が食べられないので、さらに選択メニューの幅がせばまる)、魚や野菜の種類も極わずかで限られている。暑いところへもってきてソックスにセーターを着せられ、風にもあたるな、日が沈んだ後は、悪霊が入るから家の外に出てはだめ。今思うと、私の身体をいたわってくれる周りの親たちには感謝しなければならないのに、もう何に対してもいらついていた期間だったように思う。産褥期間の規則についてお医者さんに聞くと、科学的根拠はないが、医学的にも産後元の身体に戻るのは、約6週間とされているので、昔からの言い伝えを守っていることは理にかなっている、という。でも、私の知っている人には「何にもしなくていいのだから、1ヶ月間王様気分よ。こんなに何もしなくて許されるのは、人生の中でこの産褥期間だけ」と産褥期間をエンジョイしている変わった人もいたが。
本稿は日馬プレス第308号(2005年10月16日)に掲載されたものです。
『妊娠・出産 近代化の中でも伝統を重んじるマレー(1)』
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