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原点にもどりたい、シンプル・マレーシアンライフ その3

 
 ガンさんはおもむろに「ハイ、ここからファームに行くのには、靴を脱いでもらいます」と言い出した。思わぬ発言に、一瞬ギョッとしたが、まずは全員が抵抗せずおとなしく家の中から靴をはかずに外へと足を踏み出した。
 はだし徒歩についてガンさんは、「はだしはとても体にいいんですよ。足の裏には身体中の経脈を反映したツボが集中していて、無料のフット・リフレクソロジー・マッサージになります。そして、テレビ、パソコン、その他の電気製品に四六時中さらされている現代人の身体にたまりがちな静電気を逃がしてやることもできます。健康面ばかりではありません。靴をはいていないこと
によって、地面に注意集中して一歩、一歩、ゆっくり歩くことになります。それは普段考えたことのない自然に対する感謝やいたわりを感じるようになります」と話した。
 ハウスの横には人の高さより少し高い小山となったコンポス(堆肥)。その横にはもう一山、3ヶ月が経過した一回り小さい、殆ど土化したコンポスが盛られていた。社会の中で、地域の有機廃棄物をリサイクル、つまり土に戻すのも農業の役割のひとつと考えでかれらの作るコンポストは、村で出る砂糖きびジュースのかすやバナナの幹、プランテーションや慣行農法の植物の残り、やぎやにわとりの糞なども使用している。ガンさんのレクチャーを受け、生ゴミがこうなってしまうんだなあ、と感心。
 でも都会生活の子供たちは、地面にいるアリだのムカデなどが足に触れるのではないかと、気が気ではなく下を見っぱなし。でも、その地面の心地よさ慣れてきたころには、すっかり子供らしさを取り戻しているようだった。
 ファームをおおざっぱに見て回った。もぎ取ってそのまま食べたりもした。
 害虫も病害も、そのほかの問題は、農園の状態を映すバロメーターだという。勝手に手を加えたり邪魔をせずにおくと、自然は、静かなパワーで休みなく、バランスを保とうと働いていることがわかるという。自然というものに耳を向け、じっくり観察して、自然から学ぶという姿勢。 しかし人間はこうして得られた教訓を毎回繰り返してきたのであり、まさしくそれは、かつての人間の基本だったのだろうなあ、とヒシヒシと思う。
 この日は、太陽がジリジリの日で、そして慣れないはだしの土ふみの刺激で、ハウスに戻ったときはすっかりお腹もすいていた。
 ランチメニューは、その日の収穫やシェフのアイデア次第。お肉やシーフード、卵、乳製品は使わない有機の食材を厳選したベジタリアン食で、もちろん合成調味料や添加物も不使用の全部手作り。醤油まで手作りだ。
 この日は、とうふマヨネーズとピーナッツ&みそのドレッシングをかけたグリーンサラダ、ポテトサラダ、パンプキンスープ、おからテンペ、タピオカの卵焼き風、野菜のトマト味焼き、ブラウンライス、ブロッコリーのクリーム、長マメ野菜炒め、モロヘイヤ炒め、オクラ炒め、そして最後に数種のジャム付ケーキにミントと麦茶の2種のお茶。メニューがとっても多くの種類なので驚いてしまった。
 家に帰ってからも「いつもあの2人を思い出す」と主人が言うように、彼なりに、ガンさんと和美さんのライフスタイルにひかれ、共感した部分があったのだろう。
 どんな形であれ、私が考えていたよりも心の中に跡を焼き付けたようだった。
 その日の夜、はだし歩きはマッサージに行ったより本当に効果があったようで、健康食も食べたしということで、無駄な邪気が取り払われたか?体の毒素が抜け出た感じで、妙にからだが軽かった。
 最近、年を取ったら、田舎で気ままに自給自足の生活をしたいなあと思うことが多い。でも年を取ってしまったら、そこまで体力がついていけるように、まずは健康体を作って維持していかなければいけないのだろう。自分の選択した道をいける人生、そんなに幸せな人生あるだろうか。
 
 

本稿は日馬プレス第253号(2003年7月1日)に掲載されたものです。