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割礼と王様 その1

 

 断食明けハリラヤから、牛づくしだったハリラヤ・ハジも無事に終わって、なんやかんやイスラム行事が事重なる間には、次男の割礼も無事に済ませることができた。
 長男の時にも子供の口から同じような話を聞いた事があるが、小学校4〜5年ともなると、学校では、もう割礼を済ませた男の子はトイレで、見せて自慢するらしい・ ・・
 次男は自分がまだ済ませていない時に、済ませた友達のを見て「おにいちゃんと同じ形でさあ、ぼくのとは違う」ということをしきりに話し、半分怖いけど、半分自分も同じ形の仲間入りをしたい、という望が見え隠れしていた。
 長男の割礼から5年後、息子にとって人生のビッグ・イベントだったのにも関わらず、もう5年もなると、親なんてずいぶんとその当時ことは忘れてしまうものだ。人間の記憶なんて、本当にわけないものなのだ。
 今回も、5年前と同じく、予約をしようと数件クリニックをまず回ってみた。割礼は、1人で行って、いつでもやってくれるというわけではなく、医師の都合で集団予防接種のように、数人を順番で同じ日に片付けてしまうために、こちら側の希望日に合うかどうか確かめて予約を入れるのだ。値段もチェック。前にも、長男の割礼後、同コラムで書かせていただいたが、それを読み返してみると、値段はこうなっていた。「マレーシアの今どきの一般病院では、局部麻酔で7人以上のグループで行なうとRM70、局部麻酔の個人だとRM190、全身麻酔の個人RM370、私立病院ともなると全身麻酔の1泊付きでRM800というクレイジーな値段もある」
 私立病院でやるつもりは毛頭なかったが、サンウェイ・メディカルセンターに用事があって行った時のついでに聞いたところ、全身麻酔(強制)1泊でRM1000、一般病院やクリニックはまちまちで局部麻酔だとRM170〜300、全身麻酔だとRM500ほどだった。このまちまちな値段というのは、医師が見習いか専門医かで違ってくるらしい。随分と医療も値上がりしたんだなあ・・・
 

   全身麻酔は麻酔で寝てしまうので本人は何もわからないで手術は終了してしまう。全身麻酔RM500というのを受付嬢から聞いた父親は、一瞬、息子に恐怖心を与えるのがかわいそうと心が揺れたのか、「どうしようか?」と私に聞いた。
 私はどうしようか?などという迷いは100%ないのだ。割礼は清潔に保つためというのも一理由だが、イスラム教で男子が強制されている割礼を5年前に受けた長男が「That is my independent day」と表現したように、割礼とは、思春期の男子が成人の仲間入りをするに当たって、心を引き締めて、男性としての自覚を高めさせる。ちょっとおおげさかもしれないが、この恐怖とちょっとした痛みに耐えて、はじめて大人の仲間に入ることができるという、意識の中で気がつかないであろうほどの、それでも潜在意識のどこかに秘められるべき独立心というものに私は結構こだわった。それに長男の時だって局部麻酔だったんだから不公平ではないか。事はもちろん局部麻酔となった。あるクリニックでは、ちょうど明日の午前11時に行うことになっており、私達は即そこに決めた。そこは、専門医だったので値段はRM300、少々高かったがまあ、それはしょうがない。手術は簡単なものの、インターン生にミスもされかねない、専門医の方がもしかして要領よく済ませ、痛みも違う場合だってある、 専門医の方が無難かもしれない・・・
 
   その日は本人には何も告げなかった。興奮して寝ることができなかったら、ちょっとかわいそうだったからだ。その代わり、長男に「明日やることになったけど、ジョーダンでもあまり変なことを言って怖がらせるんじゃあないぞ。まあ、経験者として、アリに刺されるようなもんだよ、とくらい言ってはげましてやれ!」と釘を刺しておいた。

(つづく)



本稿は日馬プレス第259号(2003年10月1日)に掲載されたものです。