| ■■なぜか、カブトムシの雌に好かれて■■ |
午後9時すぎにシルバーパーク・リゾートで昆虫採集がはじまった。
金森さんの子供と一緒に探して歩いた。金森くんのお父さんは“ネイチャー・ファーム”二度目だけに独自で歩いている。駐車場の電燈の周りを探したがセミとかカナブンばかり、でもセミの中には羽を広げると12,3cmにもなる大きなのがバタバタやっている。カナブンも大きい。
「階段の上まで登るかい?」って聞いたら「ウン」。五階まで登り、また降りる。何度もくり返した。「ここも登るかい?」、「ウン」。ガックリ。このくり返しだった。四度目の階段登りの途中でカブトムシの雌をみつけた。「おい、お前がとれ」。うれしそうな、気恥ずかしそうな表情をして捕まえて持参したタッパにいれた。いいなあ、男の子は。いっしょにこうしたことができる。もちろん、わが娘も、金森君の年頃はかわいかった。
ここでの成果は、コーカサスの雌が二匹だった。
わたしたちは河谷先生とともにフレーザーズ・パイン・リゾートの敷地内に移動した。テニスコート、駐車場、あちこち歩いたがいない。しばらくして「見つけたって言ってるよ」と叫ぶ声が聞こえた。リゾートのレセプションの近くの高い木の葉に大きなカブトムシがとまっている。河谷先生が自在棒を伸ばしてカブトムシをひっかけようとしたが、「首が痛い」と言い出して、発見者に自在棒をわたした。苦闘数分、やっとの思いでカブトムシを捕獲したとき「ワァ!」と歓声があがった。コーカサスの雄だ。大きいし、姿形もいい。「やったー!」。今日の捕獲数は少なかったけれど、これで皆さんほっとして,眠れる。 |
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| ■■アルコール類なしのリゾート■■ |
夕食中に知ったのだが、シルバーパーク・リゾートはフレーザーズ・ヒル開発公社(FHDC)が管理運営している。つまり,パハン州政府の下部組織の一員。したがって、アルコールはご法度だ。ご法度の裏街道を行く渡世人としては何としても飲みたいのがビール。夕食後にあわてふためいて時計台広場の中国系マーケットにビールを買いに行った。寝る前に一杯。二杯、3杯。これで寝られる。収穫ゼロだった金森君のお父さんに「ぼくはね。雌を捕まえるのがうまいんですよ」と自慢した。
翌朝、集合時間の7時に金森君のお父さんに起こされた。朝、リゾートの周囲を虫を探して歩いた。腕のいい、というか、ベテランの小峰さんは何匹か捕まえたようだ。ポイントを知り、感を働かせ、鋭い視線で見つていける。寝ぼけまなこではかないっこない。
小さくても女の子は得だ。リゾートのスタッフに「これあげるよ」と言われて、コーカサスの雄をもらってきた。うらやましそうな男の子たち。ムッっとしていた。「おじさん、雌を捕まえるのは得意なんだけどな」とついつい口にしてしまった。
昆虫教室のあと「今日はとっておきの場所におきますからね」と河谷先生と小峰さんがにやり。でも「こんなはずじゃない。もっと採れるはずなんだけど」という不安気な表情もチラリ。
まず、手始めにシルバーパーク・リゾートからフレーザーズ・パイン・リゾートへと前日の後を追ったが思わしくない。フレーザーズ・パイン・リゾートで河谷先生の説明を聞いている最中に、わたしたちのグループの脇を、日本人らしい父娘が歩いている。お父さんをよく見ると見覚えのある顔。「まさか、こんなところで」と挨拶した。某公的機関のSさんだった。「こんなところで昆虫採集ですか?」
リゾート周辺をあきらめて、今度はテレコムの鉄塔へと行ったが、「虫はいないよ」と入場を断られた。
そして、最後の切り札は軍隊の研修施設だ。眠っているガードマンを起こして場内に。「ここはいそうだ」という予感がした。軍が守ってくれているから虫も安息が得られるのかも知れない。
この日はわたしは単独行だ。少年が一緒では肉体的に疲れるし、「捕まえてやらなきゃ」という使命感もプレッシャーになる。一人で明るくて人気のない場所をどんどん行く。右足を踏みおろそうとして、地上につく2、3センチのところで異物感を感じて足をおろすのをやめた。いたいた、またしてもコーカサスの雌だ。軍手でつまみあげて少年を探した。「また、雌なの?」って顔をされたがしょうがない。
お母さんの一人が側溝のなかに寝そべっているカブトムシやクワガタを見つけた。鉄製の蓋をあげてとりあげた。そして、「あら、ここにもいるわ」、「ほら、ここにも」。彼女の独壇場だった。
予定どおりの収穫に河谷先生はほっと一安心していた。「シーズンの初めですからね。こんなもんかもしれませんね。
翌朝、6時すぎに車で出かけていく、柔道の生徒のファミリーを見た。7時すぎ、シルバーパーク・リゾートを見て歩いたがいなかった。というより、疲れていた。
朝食で集合した。柔道のKくんファミリーが大ホールランを打ったとしらされた。実は、Kくんのお父さんは初日の採集には間に合わないどころか、明け方の四時すぎに到着したのだ。「道を間違えて、やっと着きました」とへとへとになっていた。見るからにまじめなKくんのお父さんは誰からも信用された。「これが俺だったら、そんな時間まで何をしていたのか?と糾弾されるにきまっているのに。
Kくんファミリーは早起きして、もう一度、軍の研修施設に行って、大成果を上げてきたのだ。10匹前後捕まえたらしい。子どもたちが羨ましそうにKくんふぁみりーを見ていた。「僕も朝の3時までリゾートの周りを探したんですけどね」と金森くんのお父さんが肩を落としてポツリと言った。「運ですよ」。
朝食後、最後の昆虫教室で河谷先生は「ほんとうは採った昆虫を家にもってかえって、飼育して、交尾させたりして観察するといいんですけれど、あとでぜんぶ逃がしてやることにします」と言った。規則が変わったのだそうだ。
わたしのような単独参加をいれて8組が参加した昆虫教室の成果は、カブトムシ41匹、クワガタ16匹の57匹とまずまずだった。Kくんファミリーはコーカサスの雄1匹などカブトムシ13匹、マレーオオヒラクワガタ1匹というすばらしい成績だった。わがルームメイトの金森くんはコーカサス3匹、ヒメカブト2匹、すべて雌だった。
自然の中にいた虫を自然に帰すのはいいことだ。けれど、自然に生きている生物は弱肉強食、様々な形で自然淘汰があり、それでも子孫を残そうと多くの卵を生む。自然の摂理だ。子どもたちが採集したくらいでは減りはしない。種の生存を妨げるのは、乱開発、薬剤の散布、業者による乱獲だ。カブトムシをもってかえるのも勉強なら、ここで放すのも勉強、どちらもいいことだ。
昆虫教室の最後はカブトムシやクワガタの喧嘩だ。つよい奴もいれば、戦いに敗れてしょんぼりしてしまうのもいる。敵前逃亡するものまでいる。戦いを終えた後も興奮さめやらずといったコーカサスの雄を見ると、朝青龍のような風格を感じる。
教室の最後はすべての昆虫を籠から出して、木の幹や枝、葉にのせてやった。あんまり近くで開放したので喧嘩をはじめたカブトムシがいた。自然に帰っていく虫たちに別れを告げた。 |
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