<番外編>

食 風 
ガシン・ヒル。たった100メートルの登りだけど
「やめたい」気持ちと葛藤しながら
■■ ペタリン・ジャヤにガシン・ヒルという標高100メートルくらいの丘がある。 ■■

 この丘を登るようになって4、5年になる。以前はガシン・ヒルのすぐ脇にすんでいたので、週2回ぐらい登っていた。
 きっかけはキナバル山に登る準備段階のトレーニングのためだった。最初の内は、コンドミニアムと丘の頂上にあるヒンドゥー寺院を往復すると、約50分、汗をびっしょりかき、疲れ果てていた。それが45、6分で往復できるようになり、そして、キナバル山に挑戦した。幸運にも標高4094メートルの山頂に立つことができた。その時の思ったのは、「ガシン・ヒルでへこたれていては、キナバル山は遠い」と言うことだった。
 「キナバル山にもう一度登りたい」という願望がある。蘆の鍛練はつづけよう。そして、体重をふやさないようにしようと心に誓っている。すきな肉を食い、すきな酒を飲む。血圧を高めないように、コルステロールを溜めないように、そのためには一日最低一万歩歩く。何はさておき、40分から一時間程度早足で歩くようにしている。
 そして、クアラルンプールにいる限り、毎週日曜日の朝7時頃にはガシン・ヒルの麓に立つことにしている。正直にいうと、登りはじめの五分くらい、斜度10度以上の登りがつらい。「なんで、おれはこんなつらいことをやっているんだ。どんなに健康に気を使っていても、ガンになる人はなるし、脳硬塞、心筋梗塞はいつ襲ってくるかわからない。可能性は低くなるけど、絶対ならないというわけではない」と思い、「やめようか。やめても誰にも文句いわれないし」と弱気になる。実際、2年前には、脳硬塞で緊急入院したことがある。

 
■■ 健康のため。でも、病気になるときはなる。 ■■
 10年以上前、わたしは体重が88キロあった。タバコを一日平均70本吸っていた。「いつか、肺ガンになる」と思っていた。ガンになったけど、肺ガンではなかった。おかげでタバコをやめることができた。体重は60キロ以下までおちた。それが、いつの間にか、体重が80キロになろうとしていた。あわてて、人生の目標の一つに「キナバル山登頂」を組み込んで、減量にかかった。
 ともあれ、人の心は安きに流れがちだ。登りはじめは毎回、「やめたい」と考える。そう迷っているほんの1、2分も歩いている。そうするとその先が、緩斜面になる。「やっぱり行こうか」と思いなおす。
 しばらく行くとたくさんの猿がいる小さな公園がある。夕方には子供連れのファミリーや、ちょっとあぶなそうな若者のグループが猿と戯れている。バナナを食べさせている人も多い。早朝、ここにはペットボトルの残骸や、ファストフードの残骸が捨てられていることが多い。ビールの空き缶や割られたビンが落ちていることもある。すぐ脇にはゴミ箱があるのに、ゴミ箱に捨てる人は少数派なのだろう。しばらくすると、夕方にはゴミはなくなっている。ヒンドゥー寺院の人達か市役所の掃除の人がきれいにしているようだ。
 
■■ 犬も恐いし病気も恐い。やっぱりおれは臆病者 ■■
 最後の20メートルはちょっときつい。でも、登り切った後に、丘のまわりを見わたすと、気持ちがスッキリする。数年前にすんでいたコンドミニアムの屋根と同じくらいの高さだ。
 一年あまり前、ヒンドゥー寺院で野犬にお尻を噛まれたことがある。駐車してあった車の下から飛び出してきた。犬は噛むだけ噛んで、すぐに元の車の下に戻った。見ると、産まれたばかりの子犬が数匹いた。気が立っていたのだろうが、正直いって、恐いと思った。狂犬病や他の病原菌をもっていたら、深刻なことになる。もし、狂犬病に感染し、発症すれば100%死ぬ。もちろん、すぐにクリニックに行き、ワクチンの注射をした。
 犬は、自分が戌年のこともあって、すきな動物だった。しかし、この日を境に
、野犬が恐くなった。その後は、ガシン・ヒルに行くときは必ずステッキをもっていくことにしている。顔馴染みのチャイニーズに「いい武器をもっているな」とからかわれたが、恐いにだからしょうがない。
 毎日歩くのも、汗を流すのも、「いつかまた,ガンになる」、「いつかまた、脳硬塞になる」のが恐いからだと思う。なるときはなる。それでも、なりたくはない。少しでも可能性を減らしたい」という思いからだ。犬も恐いし、病気も恐い。最近では強盗も恐い。おれはなんて臆病なんだろうと思う。
 下るときには、枝道に行く。後ろ歩きで約10メートルの坂を登ったり、別のヒンドゥー寺院にいったり、あちこち歩く。1時間近く歩くと、万歩計のメモリが7、000歩になっている。元気が余っているときは別の公園にいって、もう30分ぐらい歩くこともある。
 驚くのは、わたしがつらいと感じているガシン・ヒルを走って登ったり、自転車で登ったりする人や、2、3回登りおりする人がいることだ。若い人だけじゃなく、自分と同じ年代の地元の人が平気な顔でやっている。「最近、膝を痛めているからな。無理だよな」といって自分を納得させている。
 
■■ 初詣ではシヴァ寺院 ■■
 1月1日朝、初詣でをかねてヒンドゥー寺院のあるガシン・ヒルに登ろうと思ったが、前日の飲みすぎがたた断念した。夕方行こうかと思ったら、大雨。
 2日、前夜はノン・アルコール・ナイトにしたので朝6時半快適に起床。7時すぎに登りはじめた。十数匹の野犬がうろついているのは困ったものだが、野犬にとってはヒンドゥー寺院は安息の地。やむをえない。前日の大雨で崖の一部が崩落していた。崩落箇所の上で住宅開発をしているのが気になる。
 頂上のヒンドゥー寺院はシヴァ神が祭られている。7時前後、敬虔な信者達がお参りをしている。敬虔ではないわたしは神の前で遠くから合掌する。いつものことだが、不思議そうに見られる。今年の初詣ではこれで終わり。今年こそ、いいことがありますように。 ガシン・ヒルは、クアラルンプールからフェデラルハイウェイを西に、州境のゲートをすぎて数百メートル先を左折してペタリンジャヤにはいる。右にいけばユニバシティーホスピタル。そこを左に行くとジャラン・ガシンになり、五分ほど走った左手の道を登る。
 
 
     
 
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