南部の情報

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 飛行機はティオマンのちいさな空港に着いた。そこからベルジャヤ・テォマン・ビーチ・リゾートのバスに乗って数分でホテルに到着。冴え冴えした紫のブーゲンビリアが迎えてくれる。ミナンカバウ様式のどっしりした伝統家屋のオープンエアのラウンジでウェルカムドリンクに、冷たいピンクガヴァのジュースをいただく。冷房はなく、天井の大きな扇風機がゆっくり回るのみだが、風が吹き抜けて気持ちいい。海はすぐ目の前、背後には緑の森が迫り、リゾートは濃い自然にすっぽり囲まれている。広い敷地内にはコッテージが点在し、小川が流れ、そこここに花が植えられている。客室内は不必要に華美なものはなく、必要なものが整って快適だ。
 
ダイバー270人!!

 今回、当地で珊瑚礁を保護育成しようというイベントが開催された。これはベルジャヤ・テォマン・ビーチ・リゾート沖のルンギス島周辺に珊瑚増殖用のコンクリートボール50個を海中に沈め、付近一帯に珊瑚礁の形成を促そうというもの。コンクリートボールの表面はざらざらしており、ここに珊瑚の卵が付着して育つ。数年たてばコンクリートは見えないくらいに珊瑚や海藻に覆われていくそうだ。
 このイベントにはダイバー270人が参加し、一斉に海に潜ってそのようすを見守った。ダイバーはマレーシアの海上警察やダイバークラブのメンバーなどからなり、外国人も30人ほど含まれていた。黒いダイブスーツに身を包んだ男たち、女たち総勢270人が海に向かって立つ姿は壮観。気迫がみなぎり、みているこちらまで、海を守るぞと力こぶしを上げたくなってしまう。軍国少年みたいに。こういう単純で衝動的な賛同は方向を間違えれば危険きわまりないだろう。そして、感情だけの行動がどんなに脆いか。論理が伴わなくてはならないのはわかる。けれど、やはりなんらかの感情が伴わないと行動の1歩は踏み出せないものだ。こころが動き、人が動き、ものが動く。それをどう継続させていくか。
 島の人々の間でも、海を保護していこうという意識が芽生えているらしい。島の人が、「この黒っぽい魚はとってもおいしいんだけど、ここでは勝手に採ってはいけないよ。海を守るために禁止されているのでこの魚は魚屋さんで買う。他の魚より断然おいしいから値段も高いんだ。でも僕達は絶対に採らないよ。ああ、うまそうだ、うまそうだ。」と言って舌なめずりしていた。目の前においしい魚がいるのにそれを採って食べられないのは理不尽なことだとは思ったが、私たちはこれまで、好き勝手に自然を利用し破壊してきてしまったのだ。


 

Tシャツを脱ぎ捨てて

 午後からはシュノーケリングに参加した。わたしは直射日光に弱いため、当初は船上から見学するつもりでいたのが、きれいな海の水をみていると、急に、本当に急に水に入りたくなってしまって、日よけ用にもっていた大判のストールを海女さんのように身体に巻きつけてパンティーもはいたまま、海に跳び込んでしまった。着ていたTシャツを脱いでポンと船上に投げた瞬間、大人の自分までポンと投げ捨ててしまったみたいだ。何十年ぶりだろう、海に入ったのは。海の水、こんなに塩辛かったっけ。ピチャポチャと泳ぐ。はじめてみる水中の様子は、それはそれはもう、よく写真にある通りだ。ここにうまく書けないなので写真をみていただきたい。しっとりした曇り日であったのに、どこからこんなふうに海中に光が差し込んでくるのだろう。魚たちは同じ仲間が皆群れて一方向に泳ぐものかと思っていたら、意外と単独行動して、しねくねと尾びれをひるがえし逆方向に泳ぎだすようなのもいる。道路で急にUターンするマレーシア人の運転みたいだ。日光に当たりすぎたのか、その夜は頭痛がした。ベッドに横になり耳を澄ましていると、波音も聞こえないのに聞こえるような気がして、潮がひくように頭痛は治まった。
 ベルジャヤ・テォマン・ビーチ・リゾートでは、さまざまなアクティビティが用意されている。何か初めてのことにでも挑戦して、たまには大人を脱ぎさってみよう。

映画「南太平洋」の島

 ティオマンは映画「南太平洋」のロケ地となった。これはわたしが子供の頃、両親に連れられて観た初めての大人の映画なのだ。大人の恋を理解するには幼すぎてストーリーはよくわからなかったけれど、青い海に囲まれた緑濃い島の風景だけは心に焼きついている。この映画のテーマミュージックが小学校の下校時にいつもスピーカーから流れていたのでわたしはいつも記憶にあるこの島の風景をくぐり抜けて家に帰っていたように思う。実際にみたティオマンは記憶にある風景とはまた別のものだった。デジャブなんてなかった。そんなものだ。
 「下校の時刻になりました。みなさん、早く自宅に帰りましょう。」
 気ままな一人暮らしをする今、帰らなければならない家、人の待つ家はない。その気安さと心もとなさを同時に感じる。
 翌朝、ビーチからむこうの小さな島の輪郭をなぞっていると、音楽がはじまったように日が射しはじめた。青い空を吸い込んで生気に満ち溢れる海。そこでうまれたばかりの風が頬をかすめる。こんなラストシーン、できすぎみたいだが、ティオマンでは何度となくこんな光景に出会える。
やっぱりここはわたしにとってはじめての島だ。

珊瑚って石? いやいや珊瑚は大変繊細な動物なのだ。

 珊瑚は腔腸動物といって、イソギンチャクなどの仲間。暖海のきれいな水の中で育つ。個体が多数集まって、枝状、テーブル状に群体となり、石灰質の硬い部分は珊瑚の本体が分泌した殻のようなものだ。珊瑚に共生する海藻などが光合成して酸素を排出し、そこは絶好の魚類の棲家となる。多くの魚を育て、海の生態系の要となる生物なのだ。しかし、環境の変化を敏感に感じ取る大変繊細な動物で、近年の水質汚染や温暖化などによりどんどんその数は減少している。ここマレーシアでも例外ではない。ティオマンは世界でも有数の海の透明度を誇っているがそれでも海中の環境破壊は進行し、珊瑚は減少していっているという。珊瑚礁というのは珊瑚や死んだ珊瑚の石灰質骨格などが堆積してできた岩礁をさす。
珊瑚礁を保護育成しようという今回のイベントはベルジャヤ・リゾート他数社がスポンサーとなり、パハン州政府やマレーシア政府観光局など行政側やダイバーの協会PADIなど民間団体が協賛して行われた。
また、増殖用のコンクリートボールによる大規模な珊瑚礁育成とこれに参加したダイバーの数270人がマレーシア・ブック・オブ・レコードに登録された。これだけの数のダイバーが一斉に海中に潜るのは前代未聞だとか。潜った人の話では海中であまりに多くの人がたてる砂煙(ダイバー用語で「みそ汁」)のためにほとんど何もみえなかったということだ。この行事にはパハン州スルタンの王子も参加し、夜には王子を迎えての夕食会が催された。主催者側では今後もこのような運動を活性化させ、継続していきたいとしている。


 
<本稿は日馬プレス第260号(2003年10月16日)に掲載されたものです。>

 



 

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