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| インドネシアの未来を奪った |
10月1日、海外からの観光客があつまるバリ島で3ヶ所のレストランで同時多発テロがあり、日本人一人を含む22名が死亡、百数十名が負傷した。
現場には死者の中に自爆したと思われる3人の遺体があり、インドネシア、マレーシア、フィリピン南部など東南アジアのイスラム圏をイスラム原理主義による国家とする理想をもつジュマ・イスラミア(JI)が企てた可能性が高いとされている。
2001年のクタ地区のディスコでの爆弾テロによる202名が死亡した事件で冷え切っていた観光産業がやっと復活する方向に向いた矢先の出来事だった。旅行会社によれば予約客のキャンセルは少ないというものの、日本や欧米諸国などの政府の対応によっては観光客はふたたび激減する。相当に高い確率で、観光客や旅行会社に、バリ島への渡航自粛・中止の要請や勧告をするだろう。もちろん、バリ島にとどまらず、ジャカルタやジョグジャカルタ、ソロなどの観光地を抱えるジャワ島など、インドネシア全域が危険なイメージというベールに覆われることになる。そして、インドネシア経済の中核となっている外資企業への影響も深刻だ。新たな投資は当分の間見合わせることになるだろうし、既存事業の縮小や撤退も考えられる。直接的間接的経済的損失は計り知れない。
インドネシアのユドヨノ大統領にとっては、昨年末のスマトラ島沖の地震津波による大災害につづく国家的損失で、政権運営は相当な困難に陥ることはまちがいない。問題を難しくしているもっとも大きな要因は、JIの活動を支持しているイスラム勢力がユドヨノ大統領の支持基盤のひとつであることだ。スハルト元大統領時代に逮捕投獄され、マレーシアに逃亡したJIの精神的指導者であるパアシル師を、メガワティ前大統領は2001年の爆弾テロの容疑者として逮捕しながら極刑に処すことはできなかった。ユドヨノ大統領もパアシル師を頂点とするイスラム過激派を拘束しても、イスラム指導者やジハード(聖戦)やムジャヒディン(イスラム聖戦士)を自称する人々を壊滅させるような、支持基盤を危うくするまでの強硬な撲滅手段はとれない可能性がつよい。国内的にはともかく、徹底したテロ組織壊滅策を実行していかなければ、国際社会、とくに自国企業が進出したり様々な援助をしている日本や欧米諸国などとは困難な外交関係、経済関係がつづくだろう。 |
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| ジャワ人の権益収奪が巻き起こす紛争 |
JIなどイスラムテロ組織がバリ島をねらうのは、バリ島民の大半がバリ・ヒンドゥーという異教徒であることと、ブッシュ政権を支持するオーストラリアなど欧米や日本などからの、経済的に豊な観光客でにぎわう観光地だということからだろう。しかし、見方を変えれば、宗教対立や親米国民殺戮というよりも、ジャワ人による権益収奪といった経済的政治的中央集権思想の結果をいう側面もつよい。
地震と津波で大きな被害を受けた北スマトラのナングロ・アチェ州、ニューギニア島西部の西イリアン州、キリスト教徒がテロのターゲットとなっているアンボン島、宗教対立と民族対立が同時進行しているカリマンタン島南部等々、インドネシア各地で幾つもの紛争がある。バリなど経済的に豊な地域、アチェなど地下資源に恵まれた地域、欧米人がどんどんやってくる自由闊達な地域、それらのすべてをジャワ人を中核とするインドネシア政府と国軍が収奪しようとしていると見られている。観光資源であれ、天然資源であれインドネシア国内にある金銭を生む利権をすべて自分のものにしようとしているように見える。
自分よりも豊かな人々や自由な人々への嫉妬心と見る人もいる。そして、ジャワ人のメンタリティーは中国人の中華思想に酷似している。アジアの、いや世界の中心に在り、世界の文化の発信地でもある中国は、自国の権益になる可能性がある地域や海域をすべて自分のものと主張している。民族も歴史も宗教も異なる内モンゴル地区や新彊ウイグル地区、チベットを強引に自国に組みいれ、歴史的にも政治的にも経済的にも独立している台湾をも武力をもちいても自国に組み入れようとしている。日本と利害が対立している東シナ海の海底油田も、どうかんがえてもベトナム、フィリピン、マレーシアのものとしか思えない南シナ海の島々も、地下資源を確保しようと、幾つかの島を占拠し自国領だと主張している。一方で、数百年前まで、自国の属国あつかいで自国の文化の模倣をしていた島国の日本が経済的にも文化的にも大発展したことに対する嫉妬で様々な反日運動をする。
インドネシア各地で勃発している紛争における政府や国軍の傍若無人なふるまいは、中国共産党や人民軍のふるまいと共通している。利権収奪と嫉妬が根源にある。共産党幹部に甘いのが中国、政治的権力をもつイスラム指導者に甘いのがインドネシアだ。
アチェや西イリアンがインドネシアからの分離独立を志向していることも、政権や国軍にとっては脅威だろう。オーストラリアなど欧米の後押しで東チモールが独立を果たした。「つぎはどこだ?」、「つぎは自分たちの州だ」と様々な思いが交錯している。天然資源や観光資源が豊かな州が次々に分離独立していったら、強大な国域をもつ、人口二億人の東南アジアのイスラム大国は一挙に世界の最貧国の仲間入りをしてしまう。
JIによるテロがインドネシアを袋小路に追い詰めている。JIのテロがブッシュ政権を揺さぶることはないし、インドネシア国内の異教徒や異民族、JIとは相容れないイスラム教徒を駆逐することはできない。実質的には何のメリットもないばかりか、インドネシアという国を苦境に追い込むだけだ。ジハードという叫びは単なる一人よがりでしかない。 |
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| イスラム自爆テロの最大の犠牲者はイスラム教徒 |
| 02年のバリ島爆弾テロ以降、パアシル師をはじめ100名以上の幹部が逮捕拘束され、JIは壊滅的打撃をうけた。しかし、逮捕を逃れたメンバーは比較的穏健な主流派から離れた、マレーシア人の爆弾専門家アズハリ容疑者とヌルディン・トップ容疑者を中心とする先鋭グループが次々に爆弾テロを引き起こしている。彼らは「世界的にイスラム教徒は迫害を受けている。反撃をしなければいけない」とするジハードを支持者に訴えている。現実には、イラク、アフガニスタン、パキスタンなどで、国際テロ組織「アルカイダ」などのイスラムテロ組織の自爆テロの最大の犠牲者はイスラム教徒自身だということには目をつぶっている。イラクでのテロ最大の犠牲者はイラク人自身、アフガニスタンでもパキスタンでもインドネシアでも自国民が犠牲になっていることも見ないふりをしている。 |
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過激派グループの拠点をつぶしたマレーシア
理想的イスラム国家という聖域を構築 |
マレーシアは、今回のバリ島での同時爆弾テロでとんだとばっちりを受けている。多くの人々はインドネシアもマレーシアもフィリピンもひとっくくりに「東南アジア」と言う目で見る。まして、爆弾製造や計画実行の首謀者とされるJIの幹部ふたりがマレーシア人とされている。予期した通り、「マレーシアは大丈夫?」という電話がかかってきた。
マレーシアでJIによる爆弾テロが起こるか? わたしは起こらないと判断している。マレーシア警察は国内にあるイスラム原理主義グループ、過激派グループの拠点をつぶしたと明言している。危険分子だと思われる人物には監視がついていると考えていいだろう。当然、アズハリ容疑者とヌルディン・トップ容疑者の親族や親しい人たちも同様だろう。
アンワール・イブラヒム元副首相が逮捕されたときに、当時のマハティール首相は先手先手と民主化、人権を訴える原理主義グループの指導者を拘束した。欧米諸国はこぞってマハティール首相を「独裁者」と非難した。それが、ニューヨークの世界貿易センターなどに対する同時多発テロ以降、非難する声が消えた。それが、多民族、多宗教国家で、イスラム国家でありながら資本主義・自由主義の国々と協調し、経済的発展を遂げていくための最善の選択だったことを知らされた。何でもかんでも自由主義、何が何でも民主主義と言うだけでは、多くの発展途上国は未来を失ってしまう。「マレーシアにはマレーシアに最適な自由、人権、民主主義がある」とするマハティール前首相の価値観に共感する。
マレーシアのテロ組織に対する防御体制は信頼に値すると考えられる。イスラム国家であることから、過激派グループやイスラム・テロ組織の情報を得やすい。ほんとうに些細でもテロ関連の情報があれば、政府要人や各国の外交施設の警備が厳重になる。しかし、閣僚クラスの出席するどの会合でも、ふだんどおりマレーシアらしいおおらかさが漂っている。要人たちはにこやかで参加者たちと握手したり、談笑したりしている。とくに変わった雰囲気は感じない。
一部の権力者だけが豊かで、ほとんどの国民が貧しいがイスラム教国の人々にとって、マレーシアは国民全体の生活レベルが向上した「先進国にもっとも近づいた国」であり、「自由、人権、民主主義の理想的な国家」となりつつある。その聖域とも言えるマレーシアの未来を損なうようなことはできない。 |
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