「桐蔭高校柔道部員の強盗事件」
真剣に考え、議論することもたいせつな修行
  渡邉明彦
   
 
 11月28日午前3時25分、横浜市青葉区青葉台の市道で、専門学校の女性(19歳)が少年に突き倒され、現金1,400円入りの財布などが入ったショルダーバッグが奪われた。110番で駆けつけた警察官が現場近くで少年を発見し、強盗容疑で現行犯逮捕した。少年はショルダーバッグを奪ったあと、女性の首や肩に腕を回して約10分間、約1キロつれまわしたという。女性は帰宅途中、携帯電話で友人の男性に「後ろから少年につけられている」と話していた。突き倒されたときに女性が発した悲鳴を聞いた男性が110番した。
 少年は桐蔭高校1年生で柔道部員。少年は事件を起こす前まで、柔道部の先輩や同級生と一緒に酒を飲んだと言っている。
 桐蔭高校柔道部は、東海大相模の天下がつづいていた神奈川県で、東海大相模を下し、その勢いで全国屈指の柔道名門校になった。2005年の全国高校選手権や2006年の高校総体の男子団体の優勝校。一方、東京大学の合格者数も100名以上の進学校としても知られている。
 この記事は29日の朝日新聞の小さく載った。讀賣新聞やほとんどのテレビ局などはニュースで放送しなかった(一局だけ見た)。なぜ、ニュースにならないのか、野球なら、高校を卒業する前にダルビッシュ投手がパチンコをやりタバコを吸って写真誌のネタになり、テレビ各局もいっせいに報じた。一般に名門野球高校の野球部員のスキャンダル、居酒屋で騒いだとか、コンビニで万引きしたとか普通の高校生なら誰でも一度は経験するようなどうでもいいようなことを大手マスコミは針小棒大に報道してきた。尻つぼみになりつつるある大学ラグビーの名門、関東学院大ラグビー部員による大麻の栽培事件は、臭いものにふたをしようとした関東学院大のやり方に反発する勢力によって、厳重な処分になった。逮捕者以外にも10名以上の部員が吸引していたことも発覚している。
 大手マスコミは高校生、大学生に限らずアマチュアも含めてスキャンダルは大きく報道してきた。それなのに、桐蔭高校柔道部員の強盗事件は強姦しようと連れ回したのではないかという疑惑もあるのに、また、一緒に大勢の部員が深夜、酒盛りをしていたというのに、事件が必要以上に小さくされているのはなぜだろう。柔道はマイナースポーツだからか、あるいは、桐蔭高校出身のOBの政治家や財界人から、大手マスコミに圧力がかかったのかのどっちかだろう。
 わたしも柔道家のはしくれとして、朝日新聞の記事を見て驚愕した。自分が高校一年のときに酒も飲まなかったし、タバコも吸わなかったとは言わない。酒は高校二年のときから父親の目の前で少しずつ呑んでいたし、高三の時には先輩に連れられて屋台に行って飲んでいた。タバコは高校一年のときに相撲部の遠征時に隠れて吸っていた。夏休みに三年の先輩に見つかり「タバコを吸うと、息がつづかなくなり強くなれないぞ」と叱られ、以来、高校を卒業するまでは吸わなかった。
 なぜ、未成年は酒を飲んではいけないかというと、過度の飲酒は選手生命を縮めるといわれていることもあるが、やはり、理性を失いやすいということが一番の理由だろう。酒に酔えば理性が失われ、動物的な本能が見えてくる人がいる。泣き上戸、笑い上戸、眠り上戸、威張り上戸、人によりいろいろな癖が出てくる。女性を襲いたくなる人もいるし、
暴れてしまう人もいる。格闘技の世界では酒の上の武勇伝は自慢話になることがある。桐蔭高校柔道部の部員たちの英雄豪傑になった気分で酒を飲み、酒に酔っていたのだろう。わたしはそこまでは責める気はない。それも修行の一ページだと思う。そうして同じ道を歩む若者たちがともに支えあい、ともに前進していくのは悪いことだとは思わない。ただし、飲み会のリーダーや先輩たちが理性をもって参加した全員をリードしていくことが要求される。それが100%できないから未成年の飲酒は禁止されているのだ。桐蔭高校の高校生はほかの高校生よりも知性と教養があるはずだ。運動部であっても克己心や自制心は人一倍つよいはずだ。
 それなのに、屈強な一年生柔道部員が若い女性を腕力にものを言わせて引きずり回し、突き飛ばしたという。一年生だからといって、許されることではない。高校時代、初段を取ったばかりの頃、「自分は強いんだ」と思い込んで、黒帯の柔道着をこれ見よがしに裸で持って歩いたり、柔道着のまま学校内を歩いていたら、柔道先生に「柔道着を裸で持って歩いてはいけない」と叱られ、「TPO(着る時期、着る場所、着る機会)を考えろ」ときつく戒められた。「女性と外であったら、必ず家まで送って帰れ」とも教えられた。わたしは柔道の先生や先輩たちから柔道のほかの生活や人生に関する様々なことを教わった。柔道はつよくはなれなかったのが残念だが、それよりもはるかに大きなものを身につけさせてもらった。
 事件のあと、日本一の柔道部の指導者の先生がどういう対処をしたか?先輩たちはどう思ったか?一緒に酒を飲んでいた柔道部員はどう考え、どう身を処したか?柔道バカであってもしくはない。大きく取り上げられれば、否応もなく真剣に考える。それも修行だと思う。柔道とは、スポーツとは、そんなものだと思う。だから、柔道を学んでいるすべての若者のためにも、桐蔭高校柔道部委員の強盗事件を真剣に議論してほしかった。そこから学ぶものが、若者たちの貴重な財産となる。ほとんどの大手マスコミが取り上げてくれなかった。それも議論すれば勉強になる。
     
 
   
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