孤独死
  渡邉明彦
   
 
   ペナン島でロングスティしている沖縄出身の日本人男性が死亡して、2、3日後に腐臭を察知した住人に発見されたという。男性の部屋からパスポート、銀行の通帳、現金がなくなっていたという情報もあり、総領事館では最初、氏名がわからずに困ったという。
 先週、バツ・フェリンギの岩の上で遊んでいた、旅行中の40歳の日本人が岩から落ちて死亡したというニュースが地元紙に掲載されていた。5月中旬には長く自衛で仕事をしていた人の息子さんが交通事故で亡くなった。マレーシアでも、事件や事故、病気で亡くなる人がしばしばいる。若い人が交通事故で亡くなるのは、残された家族がつらすぎる。もちろん、病気で死ぬのも、「日本にいれば」と後悔する人もいるだろう。そして、人知れず黄泉の国へと旅立つ「孤独死」というのは、寂しいし悲しい。
 
 数年前にクアラルンプール郊外のスバンジャヤ近くのコンドミニアムに住む駐在員の男性が死後、一週間くらいして発見されている。会社では「無断欠勤がつづくのはおかしいね」と異常を感じていたが、いつも元気で快活なイメージが強く、「孤独死」には結びつかなかったのだろう。
 「孤独死」という言葉は阪神・淡路大震災の被災者が仮設住宅で生活中に、一人降らしの老人が疾病によって倒れ、誰からも救援されないまま死亡した。このときに神戸新聞が「孤独死」という言葉を使った。倒れてから数時間、長いときには数日間生きていた人もいるという。隣人との希薄なコミュニティー意識に問題があるとされた。
 日本では、孤独死が社会問題化している。それでも、日本国内であれば、まだ救いがある。海外で単身でロングスティをしている人は、ともすれば孤立しがちだ。
孤独死する人の生活様式には、下記の6つの特徴がある。
  ・高齢者(特に後期高齢者)
  ・独身男性(配偶者との死別を含む)
  ・親族が近くに住んでいない
  ・定年退職または失職により職業を持たない
  ・慢性疾患を持つ
  ・アパートなどの賃貸住宅(隣家に無関心)
 海外にきて単身でロングステイしている人の多くがこれらの条件に当てはまる。死因には、心筋梗塞などの循環器障害、脳溢血、脳梗塞などの脳疾患のような急性疾患による発作が原因の場合が多い。肝硬変などで意識不明になる、肺炎などで衰弱して、あるいは生活が困窮して日常生活が困難になり餓死するケースもある。孤独な生活を紛らわそうと酒におぼれ、慢性アルコール中毒になり、肝硬変の発作などで意識がなくなり死亡した人もいる。旧姓アルコール中毒による嘔吐で窒息死するケースもある。また、家の中で転んで、骨折し、電話までたどり着けずに衰弱死してしまうこともある。
 突然死は孤独死のカテゴリーには含まれていないが、突然死も孤独死に似た状況になる可能性がある。
 ここ数年、社会問題化している自殺にしても、家族がいない単身生活者が自殺する確率は、同居する親族がいる人たちの6.8倍になるといわれている。また、独身男性は、既婚男性の1.5倍の自殺率だという。孤独が原因で自殺する人も多いのだ。
若いことには考えられなかったようなことが原因で、電話もかけられないような状況になりやすいのが、50代、60代の中高年、とくに後期高齢者といわれる人たちだ。 
◎孤独死を防ぐには
 海外でロングスティをしようという人の中には、日本にいるときのような日本的なしがらみを嫌う人も多い。そういう人は、ロングスティのグループや各地の日本人会などからはなれて生活している。しかし、日本人がまったく住んでいないようなコンドミニアムや一軒家に住んでいる人はほとんどいない。セキュリティーを考えると、どうしても同じような環境の住宅に住むようになる。それでも、私生活で他人の干渉を受けたくないと思っている人は多い。また、日本人会に入って、サークル活動をすると金がかかるからいやだという人もいる。
 孤独死は嫌だけど、現実的ではないことで、近隣の人たちに巡回してもらうなどという余計な人間関係はもっといやだという人もいる。それでも、孤独死をして腐臭によって近所の人に発見されるという醜悪な死に方をしたくないなら、そして、日本の役所が大嫌いで大使館や総領事館などに迷惑をかけるのを避けたいなら、金銭的なつながりと割り切って、ロングスティの人たちの世話をしている企業に、時刻を決めて、一日一回の定期連絡をしてもらうしかないだろう。泊りがけで出かけたり、朝早くから出かけるときなどは事前に連絡しておくか、携帯電話を連絡用に使えばいい。信用できる業者だったら、鍵を預けておくのも安心につながる。だからといって、現金や貴重品を室内に置いておくのは禁物だ。
 業者への委託には、月々一万円も二万円(RM300〜600)もとられるわけではない。その五分の一、十分の一の金額を出せば、事務的に提示連絡してもらえて、見苦しい死にかたをしたくなかったら、月に千円、二千円程度の投資は最低必要だろう。近所の日本レストランや顔なじみのローカルフードのレストランの人たちと懇意になるのも手だ。自宅の住所、電話番号を渡しておいて、何日も来なかったら見に来てくれと頼んでおく。
 携帯電話を常時使えるようにしておくべきだろう。
ペナンで、プリペイド式の携帯電話に使う金がもったいないからといってプリペイドを補充しないでいて送信ができなくなっていた(受信は可能だった)人が、急に体調を壊して、食事ができなくなり、4日間飲まず食わずで、衰弱し、さらに脱水症状を起こしたという話が、ペナンのロングスティの業者のホームページに載っていた。たまたま、ロングスティの業者が頼まれていた用があったのに連絡をよこさないのでどうしたのだろうと心配して電話をしたので、やっと外界との連絡が取れて、病院に運ばれ、幸運にも健康を回復したそうだ。
このロングスティの人はプリペイド式電話に払う千円ちょっとを惜しんだために、そのままだったら死んでいたのです。ケチケチして三途の川の渡り賃の六文銭をもっていないと奪衣婆に身包みはがされることになってしまう。それでも、ロングスティの業者と連絡を取っていたことが幸いだった。このロングスティの業者は命の恩人、最後の命綱だったわけです。
 生命は金では買えません。月に数百円、千円を惜しんで生命を失うなんて愚かなことはしないでください。ロングスティの中高年の皆さんも、単身で生活している駐在員の皆さんも、急病になり、身動きが取れなくなったときにどう対処するかを考えておくべきでしょう。携帯電話を肌身離さずに利用可能にしておく。万一のときに備えて大使館や総領事館に在留届を出しておくことも大切です。あなたと日本をつなぐ、最後の糸なのですから。
 人間が五十歳を超えれば、一つや二つ病気の種を抱えているのが普通です。それは運が悪ければ、「孤独死」につながるものでしょう。面倒でも何でも、「孤独死」の惨めさを考えたら、自分自身で何とか対応策を考えておくべきでしょう。
  ちなみに今年3月にEconomist Intelligence Unit(EIU)の発表した世界167カ国の民主主義成熟度のランキングを見ると、平和度とは異なる様相を呈する。
 上位ベスト10の中はスウェーデンなどヨーロッパ北部の国々がずらりで8位にオーストラリアが登場する。アメリカ17位、日本20位、イギリス23位、フランス24位とつづいている。アジアでは日本につづいて韓国が31位、台湾32位で、意外と上位にあるのがインドで35位だ。東南アジアの主要国は63位のフィリピンから90位のタイまでの間で、マレーシアは81位だった。当然のことながら共産主義諸国、元共産主義国の民主主のレベルは低く、ロシアの102位から中国138位、ベトナム145位、北朝鮮167位(最下位)となっている。下位にはアラブや中央アジアのイスラム国家と、アフリカ諸国も多く含まれている。
 平和度では高い評価だったブータンは、民主主義度では147位と低迷した。軍政による圧政がつづいているミャンマーも163位と超低空飛行だった。マレーシアやブータンが平和度では上位にあるのに、民主主義成熟度では下位になるのは、民主主義成熟度の基準が欧米のものだからだろう。
 欧米先進国から見れば、王族とその取りまきが国家の富を独占しているような中東アラブのイスラム国家や、独裁的な大統領が支配する旧ソ連やアフリカ諸国、共産党による一党独裁国家は信じられない状況なのだろう。
 マハティール前首相が言っていた「アジアにはアジアの民主主義がある」、欧米の価値観が絶対的な真理ではない。国家が国民の意思を受け入れ、国民に平和で安全な生活を提供し、国民がそれに満足していれば、それが「いい国」、「住みやすい国」である証ではないだろうか。
     
 
   
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