米国における次期連邦準備制度理事会(FRB)議長人事を受けたドルの底堅い動きが、アジア通貨市場に波紋を広げている。トランプ米大統領がケビン・ウォーシュ氏を次期FRB議長に指名したことを好感し、ドルが主要通貨に対して値を保つ一方で、韓国ウォンや日本円といったアジア通貨は、それぞれの固有要因も重なり下落圧力を強めている。貴金属相場の急落が金融市場全体を揺さぶる中、為替市場ではドル一強の構図と、それに対峙する各国の通貨防衛の行方が焦点となりつつある。

ウォーシュ氏指名とドルの底堅さ

週明けの外国為替市場において、ドルは前週末の上昇の流れを引き継ぎ堅調に推移した。市場の関心は、次期FRB議長に指名されたウォーシュ氏の下での金融政策の行方に集まっている。

ウォーシュ氏は現職のパウエル議長よりはハト派的とされるものの、他の候補者ほど急激な利下げを推進する可能性は低いと市場は見ており、これがドルの支援材料となっている。PIMCO(ピムコ)のグローバル経済アドバイザーであり、元FRB副議長のリチャード・クラリダ氏は、ウォーシュ氏が年内に2回、状況次第では3回の利下げを行う可能性があると分析している。しかし、それ以降の金利パスについてはインフレ見通し次第であり、ウォーシュ氏は将来の金利動向について過度なフォワードガイダンス(指針)を示すことには慎重になるだろうとの見方を示した。

一方、同日の市場では金や銀などの貴金属価格が急落し、株式市場にも動揺が広がった。証拠金請求(マージンコール)に対応するために利益の出ているポジションを換金売りする動きが見られたものの、為替市場への直接的な波及は限定的で、ドルは主要通貨バスケットに対し97.21近辺で推移し、前週末の1%高の水準を維持している。

韓国ウォン、年金基金の介入警戒水準へ

ドルの堅調さが続く中、韓国ウォンは深刻な売り圧力に晒されている。24日の市場でウォンは一時0.5%安の1ドル=1479.40ウォンまで下落し、貿易摩擦への懸念がピークに達していた4月9日以来の安値を記録した。

特筆すべきは、このウォン安の背景に韓国独自の資金フローがある点だ。リスク選好の強い韓国の個人投資家が、高いリターンを求めてレバレッジ型の上場投資信託(ETF)、特に好調な米国のハイテク株に連動するETFへと資金を大規模にシフトさせている。こうした海外投資熱は世界的な傾向ではあるものの、資産形成の近道として海外ETFへ殺到する韓国の動きは他国と比較しても突出しており、これが構造的なウォン売り圧力となっている。

市場関係者が固唾をのんで見守っているのが、国民年金公団(NPS)が為替介入に動くとされる「防衛ライン」だ。シティグループのストラテジストは以前から、1ドル=1480ウォン付近がNPSによるドル売りのトリガーになると予想しており、この水準に達すれば最大500億ドル(約7兆8500億円)規模のドル売りが発生する可能性があると指摘している。韓国企画財政省は24日、政府、韓国銀行(中央銀行)、NPSによる3者協議体を設立し、為替市場の安定と年金収益の確保を両立させる措置を検討すると発表した。現在のウォン安のペースは、NPSが実際にドル売りに踏み切った2024年10月から12月の局面に酷似しており、市場は警戒感を強めている。

円相場と日本の政治情勢

日本円もまた、ドルの強さと国内政治要因の狭間で軟調な展開となっている。24日の円相場は1ドル=154.82円付近で取引され、弱含みで推移した。

円売りの材料となったのは、週末に行われた高市早苗首相による選挙演説だ。高市首相は円安のメリットを強調する姿勢を示したが、これは通貨安を食い止めようとする財務省の従来のスタンスとは対照的であり、市場では政府内での足並みの乱れを意識する声も聞かれた。さらに、朝日新聞の情勢調査によれば、来たる衆議院選挙において自民党は単独過半数(233議席)を大きく上回り、連立を組む日本維新の会と合わせれば300議席に達する勢いだと報じられている。

ソシエテ・ジェネラルのアナリストは、この予測は極めて楽観的であるとしつつも、もし高市首相が圧勝すれば、拡張的な財政政策を推進するフリーハンドを得ることになると分析している。市場は、高市氏が掲げる減税策がすでに逼迫している日本の財政をさらに悪化させると見ており、国債の長短金利差拡大(リスクプレミアムの上昇)やさらなる円売りを織り込み始めている。

もっとも、円相場が一方的な下落には至っていないのは、日米当局による協調介入への警戒感が根強いためだ。先月、日米双方からレートチェック(為替相場水準の照会)に関する観測が浮上し、円が急騰した記憶は新しく、これが円の一定の下支え要因として機能している。

ドル高という世界的な潮流の中で、韓国は投資家の海外シフトと当局の防衛ラインの攻防、日本は選挙結果と政策転換のリスクという、それぞれ異なる国内事情を抱えながら、通貨の安定を模索する展開が続きそうだ。